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お隣さんはダメ人間! 〜金髪巨乳のお隣さんはパーフェクト姉を目指します〜  作者: 彼方こなた
妹さんはエンジェルシスター

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24/50

妹さんは信じれる


 周囲から向けられる目が痛い。


「なんでぇぇぇえぇええええ!!」


 咲希が喚きながらアリシアに縋りついている。そんな姉を困ったように見つめるアリシアと、他人のフリをする俺たち三人。


 俺たちは今、空港に来ていた。


「あの……少し周りの目が気になるのですが……」

「なんでぇぇぇえぇええええ……!」


 遠回しに離れろと言っているが、咲希の耳には届いていないようだった。

 あの花火から一週間後の今日、アリシアが国に帰るということで見送りに来ていた。


「……落ち着きましたか?」

「うん……」


  あの二人を見ていると、どちらが姉なのかわかったものではない。きちんと向き合うことを決めた咲希は取り繕うことを辞めたみたいだが、その反動なのか何なのか、アリシアに対しては俺たちに見せてる時以上のダメっぷりだよなぁ。


「まったく……お姉ちゃんはわたしがいないとダメなのですから……」


 あとアリシアのやばさが露呈し始めたんだよなぁ最近。甘やかしすぎているというかなんというか。


「そろそろ二人を引き離した方がいいんじゃないかしら」

「時間も時間だしな。あと何よりも他人のフリをするにも限界があるからな」

「おい待て。なんで二人とも俺を見てるんだよ。俺に行けと言ってんのか?」

「……適材適所、という言葉を知っているかしら」

「オレの言うことは妹の方が聞かないだろうからよ」


 そう言って、俺に背を向ける二人。

 面倒な事を押し付けやがって……!

 ただまあ、確かにこれ以上あそこで泣き続けられると時間的にも見た目的にもよろしくない。


「咲希、いつまで泣いてるんだ。そろそろ飛行機に乗る時間だぞ」


 そう言うと、ジトッとしか目をアリシアから向けられた。邪魔するな、とでも言うかのような圧を感じる。


「……それもそうですね、青柳さん」


 刺々しい声音も相まって怖さも倍増。うん、怖い。めちゃくちゃ怖い。


「お姉ちゃん、そろそろ泣き止んで。わたしはもう、行かないといけません」


 ゆらゆらと泣きじゃくる咲希を揺らすアリシア。

 アリシアはあの日から、俺のことはお兄さんではなく青柳さんと呼ぶようになった。距離が出来てしまい寂しい半面、嘘で始まった関係から本来のあるべき関係に戻ったことに対する安堵が半面とちょっと複雑な気持ちがある。


「咲希、今生の別れってわけじゃないんだ。笑顔でまた会おうって言って別れようぜ」

「うん……わかった」


 ぐすっと鼻を鳴らしながら目元を拭う。

 完璧である必要はなくなったとはいえ、妹の前では格好をつけたいという気持ちはまだ残っているようだ。もう手遅れな気がしてならないが。


「ほら、花蓮に茂もそろそろ他人のフリやめろよ。別れの挨拶、言わなくていいのか?」


 俺がそう呼びかけると、花蓮と茂は今来ましたと言わんばかりの顔でこちらに来やがった。……無理があるぞこの野郎ども。


「アリシア、向こうでも元気でな」

「また会いましょう」


 茂はニカッと笑って、花蓮は穏やかな笑みを浮かべて、それぞれがアリシアに向けて言葉を贈る。


「はい。花蓮さん、根本さん、ありがとうございました。是非また会いましょう」


 ぺこりと優雅に二人に向けて頭を下げるアリシア。いつの間にか、茂とも仲良くなっていて、俺たちの輪の中に彼女は溶け込んでいた。そんな彼女がいなくなることは少し寂しい。


「……青柳さん」


 俺も別れの言葉を贈ろうと口を開けたその瞬間、くるりと回ってアリシアがこちらに向いた。


「貴方には、ひっっっじょうにお世話になりましたね」


 どこか意地の悪そうに、また少し恨みの籠った声音で、彼女は俺に話しかけてきた。


「そうかもな」

「ですが、それと同時に迷惑もかけられたので貸し借りはなしですよ」

「別に最初から貸しだなんて思ってないよ」

「では、貴方はわたしに借りがあるということで」

「そう来たか」


 なんていう暴論。姉の顔が見てみたい。きっと、今隣にいる泣き腫らした目をしたやつに似てるんだろうな。


「……冗談ですよ」

「冗談を言うような目じゃなかったけどな」


 うふふ、と彼女は乾いた声でそう笑った。そして、刃物を思わせる鋭い視線を突きつけてくる。


「貸し借りなんてなくとも……お姉ちゃんをお願いします、というお願いぐらい聞いてくれますよね?」


 それはどこか有無を言わせない気迫があった。俺は無意識のうちに半歩下がる。


「ま、まあ、うん。もちろん」


 こくこくと何度も頷くと、彼女から滲み出ていた圧が霧散した。


「ならよかったです。では、お姉ちゃんの事よろしくお願いしますね」


 にっこりと微笑んでそう言ってきてくるが、さっきの今ではその笑顔も不気味なものに思えてしまう。

 やはり怖い。怖いが、しかし、もうそれだけでは無い。


「脅さなくたって大丈夫だからな」


 一歩距離を詰めて、咲希に聞こえないような声でそう言った、


「見えなくて、不確かなものではあるけれど、アリシアのお願いを裏切らないと信じて欲しい」


 貸し借りという形は避けたようだが、やり方は簡単には変えられないのかすぐに元に戻ってしまった。だが、それでも。年上の余裕として、意志を汲み取りフォローすることぐらいは俺にも出来るから。


「それを信じられるだけの信頼関係は築けていると思っているけど、自惚れか?」

「……そうですね。自惚れ過ぎですよ、身の程を弁えてください」

「急に辛辣だな」


 不服そうに口元を歪ませると、その顔が余程おかしかったのかアリシアはふっと小さく笑むと一歩前に踏み出した。そして、俺の横を通り過ぎるその一瞬、ポンっと肩を一度叩くと、


「でも、信じますよ。貴方がそう言ってくれたのですから」


 そうとだけ言い残していった。


「ではお姉ちゃん、皆さん。一ヶ月の間お世話になりました」


 少し歩いたところで踵を返すと、こちらに向けて深々と頭を下げてきた。


「次に日本に来た時にまた会いましょう」


 はっきりとした眼差しでそう言ってきた。


「おうよ。また海の家、手伝ってくれや」

「ええ。もちろん」


 茂はグッとサムズアップをして、花蓮は穏やかな笑みを崩さずにアリシアの言葉に頷きを返した。


「またな」


 三者三様の反応にアリシアはぺこりともう一礼するとくるりと背を向けた。意外にもその姿を黙って見守る咲希。てっきり、泣き出したりするのかと思ったのだが。


「……ついて行こうかなぁ」

「おい」


 何やらおかしな言葉が聞こえてきたような気がする。冗談みたいなことを本気っぽい目で言うなよ。


「ちゃんと別れの挨拶をしろ」


 夏休みももう終わり。外国へ行って帰るような暇はない。咲希の背中を思い切り押し出してやる。


「ほら、急がないともう行っちまうぞ」


 最後に少しだけ、二人だけの時間を。


「うん」


 それから、彼女が妹にどんな言葉をかけたのかは知らない。一言二言言葉を交わして、二人はすぐに別れた。けれど、ちゃんと送り出せたのだろうとそう思う。


 蟠りが消えて、歪な姉妹の形は陽だまりのような姿へと変化して、そうして新たに進んでいく。

 そんな二人の姿に俺は眩しいものをしまい込むように、目を瞑るのだった。


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