01-06
『神竜』
竜族のなかでもただ飛び回る飛竜や地を這う土竜などとは違い、元来の竜に持ちえない特別な力を持ち、ときとして人智及ばぬ力を保有し、高い知能を携えた竜達を十把一絡げで呼んだものだ。
神竜と呼ばれるものがいかに『凄い竜』というか説明を饒舌に語るロウに、右流辺には辟易とした表情を浮かべ理解できた。そしてそれ以上は説明など一文字も頭に入ってこなかった。
「それで神竜の次の伝説で、大陸の──」
「わかった、わかった。神竜のことはよくわかった。ほんじゃ幾つかしつも~ん」
「な、なんですか?」
神竜に纏わる伝説を尽きることなく語るロウを遮るように右流辺は声をあげる。
「そのスゲエ竜の鱗がこれらの素材を買い揃えても多額の御釣りが返ってくるくらいに稼げるってことはわかったけど、まず刻限までにその竜の居る場所を往復できるのか?」
「行くことは簡単ですよ。街の転移用魔法陣から安値で行けますから。
会うだけなら日帰りツアーで行けますよ」
話しを聞く限り件の神竜が住まう魔窟は観光スポットとして扱われるほど有名であり、そこまでの道はしっかりと舗装されているらしい。
「んじゃ、二つ目。
その神竜から鱗を取る事は簡単なのか?」
「概ね死にます」
満面の笑みでロウは答えた。
借金で首が回らなくなり、一寸先は闇の人生に立っている者がどうやったらこんな屈託のない笑顔を浮かべることができるだろうか。右流辺としてはロウの心情を読み取ることができない。
「そうかオオムネ…………ん? なんだって?」
あっけらかんとした彼女の唇から出た言葉。その単語は右流辺の脳が理解を拒んだ。
「俺の聞き違いか? 今──」
「死にますよ。ほぼ確定で」
再びロウがあっけらかんとした笑顔を浮かべて答えた。
今度こそ聞き間違いはなかった。
──『死』──
生を謳歌する者達からすれば絶対の恐怖を持つ単語。右流辺が何においても避けなければならない事象だ。