8話 『君を殺しに来たんだよ』
「能力については隠してたわけで何でもなくて、本当に俺は分からないんだ」
俺は率直にそう投げ返す。
ちなみに出生や転移については隠しっぱなしだ。
「ふーん、自分でも分からないならしょうがないね」
何かまだ疑念の余地があるような目をしてリンネはそう言った。
というか俺は告白でも何でもなくて、ただあの時のことを聞かれるだけだったのか。
クソッ! 勘違いさせやがって!!
こうして俺の告白イベント? は終わったのである。
寮の自室に戻ると待っていたかのようにエデンがこちらを見ていた。
「なあ、実地演習何があったか差し支えなければ教えてくれないか」
言いづらかったような顔をしている。
実際、仲間同士での戦闘があったのではないか、とか低級悪魔にもやられてしまったのではないか等、あの実地演習の後色々な憶測や噂はあちこちで立ちのぼっていた。
実地演習の前にアカギがあんなことを言い放ったのだ。エデンは同士討ちの方を疑っているのだろう。
「本当に上級悪魔に遭遇したんだ。んで、実際どうやったかって言うと全部俺がどうにかした」
「マヒロが一人で? 信じられない」
信じられない、というのは俺の実力もそうだが上級悪魔を一人で撃退したという事実の方だろう。
「君はあの時実力を隠していた、そういうことなのか?」
「いや違うんだ。隠していたんじゃなくて俺自身も知らなかったんだ。ギフトなのかすら分からない」
「実は君を見込んで頼み事をしたかった。けど君が自身をコントロール出来ないというならしょうがない」
大層落胆している様子だ。
何を頼みたかったのだろうか。
「コントロールうんぬんはこの先なんとかなる、いや、何とかして見せる。だから頼み事ってやつを言ってみろよ」
事実として、あの力を何とか使いこなせるようにしないと俺はこの先で命を落とす可能性が高い。
自分の身は自分で守れるようにならなくては。
「......分かった。実は倒してほしい上級悪魔がいるんだ。もちろん君一人とは言わない、俺も戦うよ」
「なんで?って聞いてもいいか?」
「私怨でね、妹の敵討ちさ。上級悪魔イフリ、奴は快楽で人を殺す。奴を倒す力をつけるためにこの学校に入学した」
彼の声色には悲痛な思いが込められていた。
「そうか、妹さんを......俺も手伝う。手伝わせてくれ!」
俺には彼の痛みを同じようには分かってあげられない。
けれどこの復讐に燃える彼の心を救ってあげたいとは思った。
「ありがとうマヒロ。君は俺にとっての希望だ。困った時はお互いで支えあおう」
仲間、共闘者、共謀者。
俺はこの学校に入って初めて本当の意味での仲間を手にしたと思った。
その後談笑に包まれ、俺達は寝床に着いた――
――時同じくして学園内
少女は思う。
私には力が足りないと。
少女は思う。
私には家の名前を使う資格が無いと。
赤髪の少女はひたすらに鍛錬をしていた。
無力だった。戦えなかった自分を悔やみ......
「クソ! 私はあの時......!」
弱い自分への苛立ち、同年代であれほど強い候補生がいるのに対し自分はどうだ。
上級悪魔に一矢報いることもなく、ましてや触れることすら敵わずに一方的に倒された。
情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない情けない。
自罰的な思いがこみ上げて来る。
......そして虚を突かれる。
「こんばんはー、アカギ・ベルツさん? こんな時間まで凄いねー」
へらへらとした口調で黒髪のすらっとした細身の男が訪ねてくる。
「......何の用だ」
鍛錬が中断されたことに若干の苛立ちを覚えながらそう答える。
苛立ったのはそこだけではなく、この男、どこか不快な男だと思った。
「何ってさ......」
そう言うと男はゆっくり近づき――
「君を殺しに来たんだよ」
ゆっくりとそう述べ、仕込んでいた刀で襲い掛かる――