3話 『俺のギフト!』
ギフト検査場とやらについた。周りには遮蔽物等は何もなく、一見すると学校のグラウンドのような見た目である。
「はー、すごく広い場所だな。ここで皆ギフトとやらを披露するわけだな」
「おうとも、俺のギフトも君のギフトも検査の時までのお楽しみだ! 百聞は一見に如かずってな!」
エデンのギフトも気になるが、そんなことより俺のギフトである。異世界に召喚されたからには俺にもすごい、俗に言うチート性能のギフトが備わっているに違いない。
剣を自在に伸ばせる、大地に潜れる、色々なギフトがあった。どうやらギフトには発動条件があってそれを満たすと発揮できるらしい。酷いものは自分の腹を刺すなんてものもあった。
というか自分のギフトの発動条件なんて知らないぞ!?
「いよいよ俺の番だな、マヒロ見とけよ見とけよ~」
エデンのギフトは瞬間移動だった。発動条件は右目のウインク。イケメンがやるとムカつくな......
「すげーだろ俺のギフト! まあ10m圏内しか移動できないんだけどな。あとやりすぎると目から血が出る」
「あぁ、良いギフトだな。でも俺のギフト見たら腰抜かすぜ? まあ楽しみにしててくれよ」
「ほお、言うねー。どっちが英雄に近しいかまずはお手並み拝見だな」
俺のギフトは絶対に凄い能力だ。これは確信している。この手の召喚ものではお決まりであろう。
とはいえ発動条件もギフトの規模も分からない。検査場ごと吹き飛ばしてしまったらどうしようか。
「マヒロ・アリマ! 君の番だ」
俺の名前が呼ばれた。楽しみにしておけよと言わんばかりにエデンに不恰好なウインクを飛ばし検査場とやらに立つ。
しかし発動条件が分からない。試しにこれまで他の人がやっていたものを試してみる。ウインク、手を叩く、腰を落とす、腹を刺す......は流石にできないが。
何も発動しない。
いくらチート能力でも発動条件が分からなければどうしようもないぞ?
「もういい、君は後で検査装置で検査してもらうから」
うんざりした顔でそう言われた
穴があったら入りたい。消えてしまいたい。
係の人にそう言われると俺は顔から火が出る思いで検査装置のある場所へ移動を促された。
エデンが憐れむ顔でこちらを見ている。やめてくれ、その目は今までクソほど向けられてきた目だ。
エデンと顔を合わせることもできない。
しかし発動条件さえ分かれば! その一縷の望みにすがり俺は検査場から離れた。
「じゃあねーこの箱の中に入って、この装置頭につけるだけでいいからー」
係のおばさんがそう言ってアニメや漫画でよく見るような頭につける装置をこちらに手渡してきた。
あぁ、今から俺のギフトが判明するのだ。汚名返上の期待感に胸を膨らませ装置をつけ箱の中に入る。
箱の中に入って10分ほどだろうか、検査終了の合図が出され満を持して俺は外へ出る。
「どうですかねぇ」
チート能力なのは分かってる。けどもいかにも自信の無さそうな雰囲気を出しておばさんに聞いてみる。
「うーん、そうだねぇ」
おばさんの顔が険しくなった。きっと取り扱い注意のギフトなんだろう。使えば国一個が滅ぶレベルとか?
「まず君のギフトの発動条件から言うと、指パッチン、正式名称はフィンガースナップというものだね」
良かった、自傷行為などではなくありふれた能力発動行為ではないか。なぜ先ほど試さなかったのかが悔やまれる。
そして早く言うのだ。俺のギフトを。さあ言え、早く言え!
溜息を一つついてから淡々とおばさんは述べた。
「でね、ギフトの方は身体強化。現段階だと最大で2倍まで強化出来るね。けど体への負荷が強いから2倍強化は出来ても2回まで。それより使えば即戦闘不能だと思っていいよ。だから普段の戦闘では1.2倍とか1.5倍にまで抑えて使ってね。」
あれ?
思っていたのと違うぞ? もっと派手で最強な能力とかずるい能力を期待していたのに。
なんだこの能力は。今まで検査場で見たどの能力よりもひどい。
「ちなみにですが、そのギフトってどれくらいの凄さなんですか?」
震えそうな口元を抑えつつ恐る恐る聞いてみた。
「うーん、まず英雄は無理だね。」
断言されてしまった。
無理なのか俺に英雄は。
あの男も無茶を言うものだ。もっと他に候補いただろ!
「まあギフト持ちってだけでも希少性はあるし、頑張れば小隊長くらいまでにはなれるよ」
励まされてしまった。
とはいえギフト持ちは貴重らしい。この世界への造詣がまた一つ深まった。
指パッチンで身体強化、この能力でどうすればいいのだ。
一応身体能力はそこそこあって素の握力は60kgだから最大で120kgまで強化できるというわけだ。
とはいえ2倍強化は何回も使えないので普段は1.5倍程度、つまり握力で換算すると80kgくらいか......
これ元の世界の強い人には勝てないじゃん......
どうすんのこれ、英雄どころかクラスメイトの一人にも勝てないかもしれない能力って。
しかもパワー系は物語だと大体かませ扱いである。
あぁ、終わった。
クラスに戻るとニヤニヤ笑って見てくるやつ、不思議な顔で見てくるやつ、裏口入学かと訝しげに見てくるやつ(まあそうなんだが)で色々な視線を一気に集めた。
エデンだけは気の毒そうな目で見てくる。お前はいいやつだな......
いかにもなキザな男がニヤニヤしながらこちらに声をかけてくる。
「やあ、マヒロ・アリマだったけか? ギフトの発動条件は分かったのかな? 分かったのなら是非ともギフトも教えてくれよ」
嫌味なやつだ。
後から分かったがこの国ではギフトも発動条件もまともな親なら出生後にすぐに検査されるらしい。
要するに発動条件すら分からない時点で、俺はまともな親ではないか孤児扱いのようだ。
こういう時は恥ずかしそうに言ってはいけない。もちろん自信満々に言うわけではなく少々自虐的に、笑いを交えながら言うのが鉄則である。
「ははは、身体強化だって」
「へぇ、どのくらい強化できるんだい?」
「最大で2倍、ただ最大強化出来るのは2回までで基本は抑えて使わなきゃいけないんだ。まあ地道に努力を積み重ねていくよ」
「生まれた時点でもう終わってるんだよ」
ボソッと男は言うと
勝ち誇るような口ぶりで
「まあ君、“頭は”いいんだな」
そう言うと席に戻っていった。
嫌いだ。こういう物言いは。
そしてこれも後から分かったことなのだが、この学校の入学試験は筆記試験60点分と40点分のギフト評価点の100点満点で決まるらしい。
先ほどのギフト検査はあくまでそのギフトを持っていることの証明に他ならなく、入学試験の時点で程度の低いギフトを持つものはほぼ合格不可能なのだ。
つまり周りの俺への認識は勉強だけは出来るやつという認識なのだ。もちろんそんなものもすぐに化けの皮が剥がれて裏口入学への確信をされるのだろうが。
学校生活終わった! 英雄どころかまず退学にならないように祈るだけだ!
そう思っていると担任の教師らしきものが教室に入ってきた。
先ほども思ったがこの教師目が死んでいる。もうちょっと人にもの教える目ってものがあるんじゃないのか。
教師は無機質な声でこう言った
「それではパーティ分けを発表する。」
パーティ!? そんなものは聞いてないぞ!