金の糸 【弐】
服も肌もボロボロで、
みんな赤い。
赤い
赤い
生暖かいにおい・・・
側にしゃがみこむ。
あのひとだ。
金髪が赤い。
白肌が赤い。
恐る恐る、ほほに触れてみる。
弱々しく開いた目は・・・
ああっ・・・
ああ・・・
あなたは・・・
もしかして・・・
僕の・・・
僕は必死でもがいた。
サラダ菜が邪魔だ。
かきわけて、ふたを押し開ける。
本体を使えばいいのに、頭が回らなかった。
あなたはっ・・・
あなたはっ・・・
彼の腕がのびる。
僕の本体に。
僕ははっとして
操作
フードを落とす。
彼は 母の名を呼んだ・・・。
やっぱりあなたはっ。
「・・・・・・父さん・・・?」
閉じた瞳。
笑っているように見えた口元は、何も答えてくれなかった・・・。
「・・・・・・父さん?」
彼から広がる血、だけが、生きているみたいに地面を浸食している。
静かだ・・・
とても静かだった・・・
彼は動かない。
「・・・父さん・・・」
何も考えられなかった。
いや。
頭の中がいっぱいだった?
どちらでもあるし、ないかもしれない。
僕は呆然と
彼を見つめている。
ゆすってみる。
敷き詰められたガラスの破片は羽毛。
赤い血はバラのようで―・・・
長い長い眠りについた人物は、王子のキスで目が覚める・・・
僕は優しくゆっくりと
彼にキスをして・・・
彼は魔法にかけられた姫でも、
僕が王子なわけでもないことに気づく・・・
涙が一粒、左から。
本当に悲しい時は、思ったより泣けないんだね?
父さん・・・?
ねぇ
目を開けて?
僕を見てください。
ねぇ・・・
あなたに話したいことが・・・
聞きたいことがっ・・・
ねぇっ
たくさんあるんですっ。
ねぇ・・・
今は何も・・・
思い浮かばないけれど・・・・・・
僕は彼の髪に指先をからめる。
細い・・・金の糸のような髪。
僕はそれを、つむぐようにして―・・・
エレベーターの扉が開く。
僕は反射的に振り向く。
中から女のひとが出てくる。
目が合う。
「・・・君は・・・」
僕はとっさにぬいぐるみを掴むと、身をひるがえす。
理由は分からない。
本当は分かっている。
怖かった。
彼女が落としたのだと思ったからだ。
父さんを。
彼女が恐ろしい魔女に見えたからだ。
父さんっ・・・
母さんっ・・・
姉さんっっ。
僕は森を走り出した。
来た道なんか分からない。
イカれ帽子屋の方向へ。
姉さんのいる場所へ。
何もかもから
逃げ出したかった・・・
迷いの森の緑色。
小さな白い人影は、
ただただ
自由を求めて
走り続けた。
―金の糸―




