赤い糸【04】
フラッシュ・バック。
59秒。
ケトゥの声。
出発するトラック。
あの時、運転席には―・・・
ハンドルを握り、運送業者の制服に変装した男。
チェシャ猫の不敵な笑みが容易に想像できる。
会う、という定義が、どうとか、こうとか・・・
あれは―・・・
〝ふたをしたまま中身が取り出せるかね?〟
マジシャン・・・
「アリスもその能力を?」
「ああ・・・まだ未開花だが、いずれは大輪が咲くだろうと、と旦那は言っている」
「チェシャ猫は・・・異世界人なんですか?」
イカれ帽子屋の息子。
ならばマスターは・・・?
「いいや。ハーフだ。母親が魔女で、父親は―・・・」
教授は言葉を遮る。
ためらい?
迷い。
数秒の間。
「マッド・ハッター・マスターもまた、異常遺伝子の持ち主だ」
「こちらの人間なんですか?」
「不明だ。人間とは何か、の定義によって返答は異なる」
僕は思わず呟く。
「〝僕たち〟は人間?」
「遺伝子操作で生まれた、試験管ベイビー・・・キメラ。君は自分をどう思っている?」
キメラ。
遺伝子を一つ以上組み合わせ構成された生物。
僕らは人工キメラ。
しかし、天文学的数値で言えば、天然のキメラである人間もいる。
二卵性の双子が、何らかの理由によって溶け合い、ひとりの人間になる例も実際にある。
人間の定義。
どこから、どこまでが・・・?
「分かりません」
話題転換。
思考の打ち切り。
「それで・・・僕は・・・間違えて、偶然ここに来た、と?」
「白蝙蝠が〝隣街〟をここだと勘違いしたんだろう」
「昔から、周辺の住民は知っていたのですね?異世界への入り口を?」
「らしいな」
〝隣街までの近道〟。
〝入れば出て来られない〟。
「それでキムも知ってたんだ・・・」
「キムは隣街に?」
「きっと、わざとだよ。灯台元暗し、的な?」
「ああ・・・」
「まさか近くに寄って来るとは思わなかったんでしょう?」
「それをユア・ヒタは利用したのかもしれないな」
「え?」
「洞窟の噂を聞きつけて、君のヒタも近くに来たのかもしれない」
「マイ・ヒタ・・・どうやって森の近くまで?」
「不明だ。白蝙蝠の協力か、鍵人の所有・・・少なくとも、ここに関する情報が入手できる立場なのだろう」
養子、
義理の父の容態悪化、
世襲・・・
マイ・ヒタ。
お前は・・・・・・
「少なくとも、キムの生存は確認しました・・・長くはないらしいけど・・・」
〝悪い薬を〟
僕が、ウルフマンのもてなしを断った理由。
本能的な
拒絶反応?
「今は・・・どうしてるんだろ・・・」
あれから。
血飛沫を浴びたキム。
殺人犯の逃亡補助。
いや・・・
とどめをさしたのは・・・
いや・・・
あの軌道は致命傷だったはず・・・。
キム。
無理にでも、一緒に逃げていればよかった・・・
キム・・・
どんな気持ちだったんだろう?
僕を見つけた時。
「テフは・・・時期ははっきりと聞けなかったけど、子供を産んだ時の合併症で死んだって・・・キムが言ってた・・・」
最年少。
僕とひとつ違い。
発育のいい体。
顔つきに似合わない、幼さ。
言動・・・
みんなの、妹的存在。
「・・・子供を?」
「ええ・・・」
フラッシュ・バック。
彼女のはにかみ笑顔。
大きな目。
ゆるやかなウェーヴの黒髪。
「何人目の子供なのか、子供が助かったのかも聞かなかったけど・・・」
フラッシュ・バック。
隠れ家のベッド。
座っているテフ。
腹部に手を添える。
僕の手。
「彼女が最初に妊娠した時に死んだなら・・・」
僕は伏し目がちになる。
おだやかな胸の痛み。
思い出した。
どんどんと記憶がつながってくる。
「子供の父親は・・・僕だ・・・」
―赤い糸―




