赤い糸【02】
ファイルを握り締める。
「僕が旅に出たあと・・・ケトゥとカーリーは自殺したらしい・・・・・・」
彼らの心境を想像する。
ゆるやかな侵食。
ぐずぐずと崩れてゆく精神。
傷は穴ではない。
穴だとしても、円形ではない。
空洞というより、
空白?
いつの間にか空が表情を変えているような、
海の干満が、
雨の蒸発が、
湧き水が小川になるまでが、
いつの間にかおこっているように・・・。
いつの間にか・・・
むしばまれている心。
侵食。
悲痛、じゃない。
むしろ淡く・・・淡く・・・
はかなく
淡く
おだやかな痛み。
背中からそっと・・・
抱きしめられているような。
切なさ・・・
ふと、空白におとずれる記憶。
忘れていたわけじゃない。
忘れようとしていたわけでもない。
無意識の中の空白に訪れる、
日常的な記憶ほど、
胸を締め付けるものはない。
もう訪れることはない日常。
君がいない事実が、日常になっていく痛み。
それを受け入れようとしている自分への、苦しみ・・・そして安堵。
沈殿・・・
空白への。
沈殿・・・
内側への。
沈殿・・・
奥底への。
ゆるやかな。
ヨーグルトの中に沈んでいくベリーの、
侵食と沈殿のよう。
ホットケーキにかけた、
ハニーとバターが
だんだんと侵食していくように・・・。
「・・・ケトゥは―・・・」
そう。
きっと・・・
カーリーは『死ぬつもりで』生きるのを止めた。
ケトゥは・・・『生きるのを止めた』から死んだのだろう。
蓄積していたのか。
それとも
枯渇してしまったのか。
囚われたのか
解放されたのか。
その感覚を説明することは、
水面に映る虚像に触れるようで
触れると形を失って、
たちまち崩れて飛散して
とろけて揺れて・・・
濡れた手に
何色もついてやしないと
知るような・・・
しかし 水面には確かに、
元の姿が戻っていることを・・・
知るような・・・
つまり
虚像を見せる本物の姿しか、
その本物の本質は掴めない
感情。
彼は
死のうとすら思っていなかったんじゃないだろうか。
生きるのを止めただけ。
だから、飛んだ。
「〝飛び降り〟だったらしい・・・」
自分で自分を
殺したんじゃなくて
死なせただけ。
そんな印象。




