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ロンリー・ウルフ 01



 〈ロンリー・ウルフ〉



 

 姫の小城。


 庭園。


 大きな傘の下。

 テーブルの上には紅茶。


 赤い唇。

 赤いドレスの女。


 チェシャ猫の隣。

 赤髪の美女。


 ハートの女王。




「だいぶ落ち着かれましたね、女王陛下」


「・・・ええ・・・」


 とろりとした女王の目。

 気だるげ。

 

 チェシャ猫はにっこり。


「お散歩でもしますか?」


「・・・そうね」


 日傘を差す女王。

 体の線を強調したドレス。

 流れるような曲線。


 庭師が植えた草木。

 動物やチェスの駒をかたどった緑のアート。


 塔。

 馬。

 歩兵。

 犬。

 翼を広げるユニコーン。


 

 コツン・・・



「あら?」


 女王は足元を見る。

 青い小さな玉。

 サファイア?


 今度はルビー。


 黄玉

 アメジスト

 エメラルド

 アンバー

 アクアマリン

 ダイヤモンド

 翡翠

 アマゾナイト

 アレキサンドライト・・・


 女王は傘から手を出す。

 手のひらに飴玉が落ちてくる。


 女王は空を見上げる。


「まぁ・・・」


 マーブル模様の空。

 綿飴の雲から降る飴玉。


「おかしな天気ね」


 馬のいななき。

 ユニコーンが翼を羽ばたかせる。

 真珠色の肉体へ。

 勢いよく空に飛び出す。

 小羽が舞う。


 歩兵と首上だけの馬駒の戦闘。


 緑色の犬がシッポを振る。

 ワンワン。

 走って行く・・・


「チェシャ猫・・・」

「はい、陛下」

「お前の茶葉は実にいい・・・」

「お褒めにあずかり、光栄です。陛下」


「ああ・・・ほれ。あの男が見える・・・」

「あの男?」


「ハンプティ・ダンプティじゃ」


 チェシャ猫は目を見開いた。

 漆黒の風。

 疾風が横切る。

 

 女王がいない。


「な・・・」


 ぽかんとしている兵士達。

 きょとんとしている女王。

 彼女を抱えている黒髪の青年。


 垣根の迷路の塀の上。


 女王の首に腕を回し、拘束している男・・・。


 卵男=ハンプティ・ダンプティ。


 女王の顔を自分に向かせる。


「やぁ・・・赤ずきん」


「・・・ハァイ」


 わずかに顔を赤らめる女王。


「あなたは全然変わらないのね」


 卵男の視線。

 白い胸の谷間。

 うっすらと見える血管。

 やわらかい感触。

 食欲。


「女王っ」

「女王様に何をっ」

「警備システムはどうしたっ?」


 ようやく兵が動き出す。

 銃を不審な男に向ける。


「女王様を放せっ」


 女王は状況が分かっていないのか、男に見とれている。

 

 恋する乙女、そのものの目。


「わらわをさらいに来てくれたのか?」


 卵男は口元を上げる。


「さよならを言いに来た」

「さよなら?」


 ガリッ・・・


 女王の目が見開く。

 首元に噛み付いた牙。

 細く赤い筋が胸に伝う。


「あっ・・・」


 口の中に溢れ出す興奮。

 なめらかな口当たり。

 生暖かいのどごし。


 ゴクリ・・・


 音をたてて飲み干す。

 罪の味。


 彼女の傷口を優しく舐める。

 二つの穴がふさがる。


 腰に添えた手をはなす。

 首に回した手を解放する。


 呆然としている女王の姿がいなくなる。


 垣根の迷路の芝生に落下。


 兵士達の視覚から消える。


「さっ、探せっ。女王をお助けしろっ」


 迷路に入って行く兵士達。


 卵男は妖しい瞳を恍惚と細めている。

 舌で口を舐める。


「赤ずきん・・・君の血と心は、十二歳の少女のままなんだな」


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