魔女
〈魔女〉
茂みにひそむ小さな魔女。
サラダ菜を抱いて
塔を見上げる。
出入り口の見当たらぬ塔。
こがれるひとを待ちわびて
てっぺんの窓を
見上げる王子。
この三つ編みがのびたなら、
あの窓まで・・・
幽閉された姫に似た、
一心異体
双子の王子。
突然、少年の耳に吐息。
「ふぅ・・・」
「うわ」
飛び上がる勢いで振り向く。
腰をかがめている人物を見つける。
安堵・・・
「アリス・・・」
笑顔の美少女。
服が変わっている。
金髪は二つ結びに。
勝手に隣に座る。
「さっき女王に会ったけど、つまんないから戻って来ちゃった。何をしているの?」
「しゃがんでる」
「楽しいの?」
「まぁね・・・他で遊んだら?」
「ふたりでお喋りしたら、もっと楽しいと思うの」
「兵に見つかるとマズいんだ」
「守ってあげるわ。友達ですもの♪」
「ああ・・・そう・・・ありがとね」
「それであなた・・・名前は?」
思考。
手頃な名前を探す。
なぜかバスケットの中身を思い出す。
「・・・ラプンツェル」
「サラダ菜?変わった名前ね」
「植物の名前はけっこういるよ」
苦し紛れ。
「そうね。わたしのグランマはポピーって言うの」
「グランマ?いるの?」
「いなかったらわたし、産まれてないわ?」
生真面目なアリス。
思春期の少年には少し恥ずかしい。
「まだ生きてるの、ってこと」
「さぁ?魔女は長生きなんですって・・・もしかしたら生きてるかもしれないわ」
「・・・魔女?」
「ええ。おじいちゃまとおばあちゃまは道ならぬ恋をしたのよ」
「なんで自慢げなの?」
「そうゆうのって憧れない?」
「全然」
「夢がないのね」
「悪夢なら見るけどね」
「どうして?悩みでもあるの?」
「今、見えてるものが悪夢だよ」
「・・・・・・・」
数秒の沈黙。
「寝ぼけてるの?」
「君には言われたくない」
「現実は現実でしかないわ。どちらの夢も、頭の中の作りもの」
意外な答え。
「君の現実は本物なの?」
「ええ。間違いなく。でも、世界の見分け方が難しくて・・・」
アリスはため息。
口をとがらせる。
「みんなは、どうしてこちらの世界と別の世界の見分けがつくのかしら?」
「ありえない事がおこるのは別世界だよ」
「確率の問題ね?でもありえるのかないのか、見分けるのは難しいわ?」
「・・・確かにね」
こんな姿になるなんて・・・。
「飴食べる?」
棒飴を差し出す少女。
受け取る少年。
ほっといて欲しいような、
もう少しならかまってあげてもいいような気分。
飴を舐める。
味覚はない。
だけど、栄養補給は必要だ。
「君のグランマは『迷いの森』にいるの?」
「別の世界よ」
アリスは棒飴を空中で回す。
王宮の教育係を思い出した。
「世界はいろんなカケラでできているのよ」
「チェシャ猫さんも言ってたね」
「ええ。カケラはひとつになる。ひとつひとつながってるの。それが別世界」
「人と家とで街。街と街とで国。国と国とで、世界?」
「そんな感じね」
「別の世界・・・王宮と庶民の暮らし、みたいな?」
「わたしの思ってる別世界とは違うかも・・・」
アリスは飴を口に入れる。
「説明が難しいわ・・・」
アリスを見つめる。
細い首だ。
うなじの辺りの残り毛を見つけてしまう。
「つまり、グランマは別の世界に行ってしまったの。魔法の世界に」
「魔法使いなら会ったことがある。別の世界を行き来できるから、体と心も離せるの?」
アリスは首をかしげた。
「さぁ・・・?」
立ち上がる。
屈伸体操を始める。
「ただ、わたしにできるのは―・・・」
アリスは持っていた傘を広げた。
足元からすくい上げるように肩にかける。
少年の無表情な目。
本当はとても驚いている。
アリスの服が変化している。
この、一瞬と呼べる時間で。
青い水兵みたいな。
小姓の服。
髪も短くなっている。
片手に持っているのはうさぎのぬいぐるみ。
眼帯をしている。
アリスは真剣なまなざし。
「わたしにできるのは、彼らの気をそらすぐらいよ」
「君、僕のこと気づいて―・・・」
アリスは茂みを飛び出した。
「またね」
「いたぞっ」
「捕まえろっ」
アリスは走って行く。
あとを追う王様の兵。
身代わり。
「・・・アリス・・・」
立ち上がるわけにはいかなっくなった。
塔から〝彼〟が出てくるまでは。
彼女の協力を、
ムダにしないためにも。
―魔女―




