くものいと 弐
今度はヤクとかでぶっ飛んだまま死にたい。
絶好調のまま、笑いながら死にたい。
たぶん今、笑いながら書いてる。
他人から見たら、完全に頭おかしなヤツだと思われるだろうな。
でも、どうでもいいや。
今はもう、どうでもいい。
お前らに会えてよかった。
ありがとう
最初で最後だろうな・・・・・・こんな恥ずかしいこと書くの。
この日記をここに―・・・
いや、遺書か?
まぁ、どっちでもいいけど・・・
・・・これをここに埋めておく。
俺は誰に向けて書いてるんだろう?
お前らが気まぐれでココに来て、これを掘り返す可能性はかなり低いと思う・・・。
俺の知らない誰かが手にしたんだったら、
埋め戻すなり、煮るなり焼くなり好きにしてくれ。
黙って出てきたから、朝までには戻らないとマズい。
じゃあな。
きっと、ココに来るのはこれで最後だと思う。
死ぬって分かってても、あんまり悪い気はしてない。
空が澄んでる。
いい夜だ。
これが誰にも見つからないことを願って・・・・・・。 』
内容を読み終わる。
その文章・・・口調、筆跡。
これが本物だという確信・・・。
「森の近くで動物がくわえているのを、旦那が見つけたそうだ・・・」
脱力感。
僕はよろける。
背中がガラスにぶつかる。
『 死ぬと分かってっても 』・・・
目をつぶる。
まつ毛が濡れている。
ファイルを握り締める。
「いつ拾ったの・・・」
「五ヶ月前だ」
『 あと半年で死ぬって 』
皮膚を伝うしずく。
透明な道。
生死、不明―・・・
後頭部を打ち付ける。
後頭部をガラスに。
消えてしまえ。
こんな情報。
後頭部を打ち付ける。
忘れてしまえ。
全てを。
後頭部を打ち付ける。
忘れてしまえ。
もう一度・・・
後頭部を打ち付ける。
嗚咽をもらす。
のどの奥が閉まる。
歯を食いしばる。
忘れられないよ・・・
忘れられないよ・・・
もう・・・
後頭部を、小さく打ちつける。
目を開ける。
目頭が熱い。
鼻の付け根にわずかな痛み。
声の変質。
「続き、聞く・・・?」
すがるような質問。
許容の要求。
渇望?
「ああ・・・」
教授の返事。
クナイを思い出す。
深く 海のように。
深く 森のように。
数秒の間。
深呼吸。
「僕たちは隠れ家を転々として・・・」
遠い目。
過去が呼んでいる。
「最初は闇の仕事が多かったけど、少しして、好みとか特性を生かした仕事を始めた・・・」
カーリー=バーの用心棒。
未成年者の取り締まり。
キム=音楽スタジオの店員。
オーナーの愛人。
ケトゥ=芸術面開花。
画家。
テフ=無職。家事全般。
僕=バイク屋の店員。
短期の工事現場隊員、ウエイター。
他にも、いろいろ・・・
「僕は・・・クナイが好きだった。ケトゥもだ・・・・・・リーダーへの信頼とか、仲間としての愛情じゃなくて、女性として・・・」
フラッシュ・バック。
振り返るケトゥ。
安いアパートのアトリエ。
自立?
引きこもり。
より、無口に。
大きな木枠の窓。
両開きの窓。
彼が飛び降りた窓・・・。
「ケトゥは・・・アトリエにこもりっぱなしになってた・・・みんなで交代で様子を見に行ったりしてた・・・」
記憶のあいまいさ。
ぬるま湯に手をつけた気分。
「僕はヒタを探すために、闇の情報屋と連絡をとってて・・・ヒタらしき人物を見つけたって、情報が入って・・・」
引き出される記憶。
期待がふくらむ。
不安が広がる。
銃を持ち直す。
「待ち合わせ場所は水上レストランだった・・・ヒタらしき人物が、僕が探していることをかぎつけて、僕に会いたい、って・・・」
豪華客船。
高級レストラン。
華やかなムード。
「でも会えたのはヒタじゃなくて、銃弾だった・・・」
フラッシュ・バック。
複数の悲鳴。
聞きなれた音。
発砲音。
割れる高級花瓶。
弾く水。
向けられた銃口。
逃げる。
避ける。
走る。
追ってくる。
ラウンジ。
暗い海に飛び込む。
銃弾が腕をかする。
「海に飛び込む時に撃たれて、体勢を崩して頭を打った・・・」
出血。
そのまま数秒気絶。
気づくと水中。
パニック。
必死でもがく。
大量の水泡が噴き上がる。
のどの奥に海水が奇襲。
再度、気絶・・・?
「気づいたら病院のベッドの上で・・・記憶を失くしてた・・・」
白い天井。
白いカーテン。
白衣の女性が顔をのぞきこむ。
「救急車が来た時には、ひとりで港に倒れていたらしい・・・」
僕はけだるい仕草で帽子のつばを指で弾く。
「その時には、片目もやられてた・・・」
舞い降りる沈黙。
気持の沈殿。
背中のガラスの感触。
銃を持ち直す。
「僕は旅に出た・・・何だか旅に出なくちゃいけない気がして・・・」
所持金はわずか。
(なぜか入院費が事前に払われていたけど、そのせい・・・?)
身元の確認は避けた。
怖かった。
警察、という響きが。
国に関する組織が。
「何かを探さなきゃいけない気がして・・・」
目を細める。
過去を見たくて。
「〝答え〟が欲しくて・・・」
記憶の糸をたぐる。
細い細い、
蜘蛛の糸のような。
「街を出てしまった・・・」
あの日の青空。
泣きたくなる。
沈黙。
ため息。
沈黙。
ファイルを示す。
「いま・・・分かった・・・」
ファイルを少し、振ってみせる。
「溺れた僕を助けてくれたのは、マイ・ヒタだ・・・」
単語の羅列。
キーワード。
「僕はあの日、会場に合わせて正装をしていました・・・黒髪のカツラをつけて・・・」
僕らは人種が違うけど、背格好がよく似ている。
「推測だけど、ヒタは闇の世界で高い地位を手に入れた。だから別の派閥に命を狙われていたんだ・・・」
ヒタの暗殺計画。
僕のせい・・・?
奇襲。
失敗。
原因=僕。
「背後からの攻撃だった。
やつらは僕とヒタを間違えて、僕を襲ったんだ・・・
ヒタは僕を助けてくれたけど、それで顔を合わせ辛くなって・・・
また僕の前から消えたんだ・・・」
―くものいと―




