ルンペルシュツルツキン 弐
✝植物園✝
進む。
蝶が飛んでくる。
何匹も・・・
毒々しく、美しい・・・
フラッシュ・バック。
闇夜に浮かぶ光。
色とりどりのネオン。
夢と欲望の光。
彼らと見た風景・・・
・・・〝彼ら〟?
「君に頼みがある・・・」
めまい。
「・・・何ですか」
「わたしを死なせて欲しいんだ」
頭痛。
軽い吐き気。
「なぜ・・・?」
天井から差す光。
目が痛い。
なぜこんなに明るい・・・?
そうか。
ドームより高い木がないのか。
卵男の背後に、ひらひらと舞う蝶。
「君なら・・・理解してくれるだろう?」
理解。
共感。
誘導?
「ええ・・・」
ふたが開きそうだ。
僕が開きたいのか。
内側が呼んでいるのか・・・
生きたいと同時に、
放たれたい願望。
全てを投げ出したい衝動。
しがみついてる焦燥。
「でも、どうやって・・・?」
「わたしをここから脱出させてくれればいい」
「ここは・・・結界か何かが?」
「魔法めいたハイテクの結界だ」
「魔法?」
「体に埋め込まれた虫のせいで、あの水に近づけない」
「虫・・・?」
「大量の水を感知すると、体の中で暴れだし、組織を破壊する。わたしは半不死だ・・・」
想像して、
ぞっとした。
「再生を繰り返す・・・?」
彼を守るはずのドーム。
丸い殻。
卵。
楽園・・・〝僕らの楽園〟。
『ヘルン』。
耳鳴り。
意識が遠のく。
「・・・僕にどうしろと?」
「塔に行くんだろう?電源を切って欲しいんだ」
「あなたをまだ、信用できない」
ニヒルな苦笑。
蝶が彼の目の前に。
彼の流し目。
幼児ではありえない魔性。
小さな手に止まる蝶。
「言ってみただけだ・・・気にしないでくれたまえ」
指先で羽を開け広げ。
青と緑。
光の加減で赤と黄色。
宝石のような羽だ。
「管理人さんはどんなひとなんですか?」
「どっちのことだ?」
「どっち?」
「二人いるだろう」
「え?」
「森の扉のキー・パーソンとその内縁の妻だ。チェシャ猫は神出鬼没らしいが・・・今日は彼女の訪問日だからいるだろうな」
「チェシャ猫?」
紫色の瞳。
飴を食べていた男。
左を差した棒飴を思い出す。
「知らないか。うちの子と一緒ならイカれ帽子屋には行ったかね?」
「ええ。彼には会いました。帽子屋の息子だと」
「ああ」
「内縁の妻とは・・・バニーのことですか?」
「いいや。あの子は居候だ。あの若さだが精神医学者らしい」
「精神医学?」
「言動が中性的と言うか、両性的と言うか・・・まったく少年みたいな子だよ」
「ええ・・・じゃあ、内縁の妻とは?」
「さぁ?名前を知らない。聞いたかもしれないが、興味がない」
予感。
胸の奥のふたが、
きしみながら開いていく・・・
内側が呼んでいる。
「チェシャ猫さんにお子さんは?」
「ひとりいる」
〝my・プリンセスか〟
「その子の名前は・・・?」
「アリス」
つながった。
頭の上に叩きつけられる衝撃。
頭の中で響き渡る耳鳴り。
湧き上がる情報。
乱舞する情報。
駆け巡る情報。
ほとばしる電撃。
めまい。
ヒザから崩れ落ちる。
開け放たれた扉。
うねり出る情報。
感情の上昇。
トラックの暴走。
ヘルンの暴挙。
「キみィ・・・だぁい丈夫かぁね?」
外側への鼓動。
冷や汗。
めまい。
伸び縮みする音。
「ぁの子のクすりのチョう合がわルかったのかぁあ・・・?」
呼吸。
深呼吸。
内側への意識。
収容。
収納。
抑制。
防御。
静かに・・・
静かに・・・
落ち着け。
ゆっくりとでいい・・・
深呼吸。
整理。
並び替え。
つなげる。
「いえ・・・大丈夫・・・」
Rink
僕はよろけながら立ち上がる。
「行かなくちゃ・・・」
深呼吸。
出入り口へと振り向く。
歩き出そうとして、卵男に振り返った。
「ミスター・ロンリー・エッグ・マン。あなたの願いを、叶えてあげる・・・」
逆光に目を細めるロンリー・ウルフ。
何かを言おうとしている。
それを待たず、僕は植物園をあとにした。
―ルンペルシュツルツキン―




