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ルンペルシュツルツキン 壱



 〈ルンペルシュツルツキン〉




 エッグ・シェル。


 ヤシの木。

 見たことのない赤い花。

 見たことがある青い花。


 銃口の先。

 

 幼児の頭への軌道。


 二百年も生きた

 幼児の頭。




「吸血鬼・・・?」


 目にかかる黒髪。

 青い目。


「そうだ」


「僕、最近寝不足だから・・・」

「飲んでも美味しくないって?その気なら背後に回って、もう飲んでるさ」

「それはよかった」


 銃を降ろす。

 卵男の微笑。


「他人の言葉は、あまり信用するもんじゃない」


「あなたからは敵意も殺意も感じられない」


 彼の足元。

 床に落ちた枝や葉を吸い込む、ヤドカリ。

 もしくはアンモナイトみたいな掃除機が視界に入る。        


「もう何年も、直接吸血はしていない」


 ウルフマンの腕・・・。

 つながれたチューブを思い出す。


「血液パックですか」

「ああ。塔から支給される」


 塔=森の管理 (監視?)

 森=王室領。

 塔=王室の所有物?


「・・・では、国からの支給なんですか?」

「そういうことだ」

「あなたがここにいることでの、利益と不利益があるのですね?」

「頭のいい人間は好ましい」

「あなたが人間を襲わないように?」

「ここにいるのか、と?」

「はい」


 卵男は歩き出す。


「そうだ」


 上着を引きずっている。

 小さな足。

 何となくあとを追う。


「あなたを生かしておくことの利益は?」


「わたしは死なない」

「そんなはずない」


「ご名答・・・それもあの子に聞いたのか?」

「あなたは半不死だと」


「そう。吸血鬼の弱点は知っているか?」

「いくつか。しかしあなたは、昼間に行動している・・・」

「夜に狩に出る方が効率がいい、というだけさ。人間は暗闇を恐れる」

「あなたは怖くないんですか?」


「わたしはむしろ、暗闇の小さな光を恐れる」


「・・・動物の目?」


「いや。ランプ、ろうそく、星の光、希望・・・いつ本当の闇が来るのか分からない」


 卵男はディー・エヌ・エー・レプリカ・フラワーズの鉢を見つめる。


「次の満月に開花する・・・」


 僕を見る。


「わたしを生かしておくことの利益・・・だったね。わたしの血液で若さを保ち、兵士の強化をたくらんでいる・・・」


「死なない兵士・・・?」


「現実にはなっていないがね。どうやら吸血鬼化の成分は、空気に弱いらしい。感染するのは主に、吸血被害者だ」


「じゃあ、あなたも・・・もとは・・・」


「今は違う〝何か〟だ、としか言いようがないな。好きに呼びたまえよ」



 ✝森の小道✝



 振り返るプリンス・ページ。


「ついて来ないで」


「どうして?お友達でしょう?まだあちらの話を聞き終わってないわ~」


 無視。

 きびすを返す。

 足早に歩く、三つ編み少年。

 追うアリス。



 ✝植物園✝



 また絵画。

 

 題名:ブルー・ローズ。

 本物の青薔薇の中に、罠のように置かれた絵画。


「ここの固有種だ」


 フラッシュ・バック。

 逆光の中の女。

 光の壁。

 くらむ・・・目。


「綺麗だけど、まがまがしい・・・」


「そう。まるでハートの女王だ・・・」


 彼女、女王の情報を引き出す。

 検索結果=プリンセス・ローズへの仕打ち。


「もし貧血になっても、あのひとの血は吸わないほうがいい」

「マグマのように熱いから?」

「血が通っているかどうか・・・」

「かわいそうな子だよ」

「彼女の肩を持つんですか?」

「昔は可愛かった。今は美人らしいが」


「会ったことが?」


「嫁いで来る前の・・・少女期にね・・・彼女は両親からひどいあつかいを受けていたらしい」


「―彼女も?」


「争いも戦いも、愛も希望も・・・全ては連鎖する」


「それが・・・あなたの〝答え〟?」


「世界の真実さ」


 数秒の、感傷的沈殿。


「誰かが断ち切ることはできるんでしょうか・・・?」


「何を?」


 僕は遠くを見ている。

 どこか遠く。

 僕の知らない世界。

 その幻影を。


「連鎖を・・・」


「・・・断ち切る必要が?」


 ああ、

 まぶしい・・・


「分かりません・・・・」



 ✝森の中✝



「はぁ・・・」


 少年はトリネコの木にもたれる。


「いい加減にしてよ」


「あら、ねぇ・・・あれ・・・」


 アリスは少年の頭上を見上げている。

 思わず上を見る。


 トリネコ・・・鳥猫がいる。

 翼のはえた猫だ。


「な・・・何、あれ・・・?」

「鳥猫ね」


 鷹の翼を持つ、茶色毛の猫・・・


「あれって・・・」


 鳥猫なるものがこちらをにらむ。

 姿勢を低く。

 狩の体勢。


「肉食ね。この前兵士が食べられてるの見たけど・・・これって危機的状況?」

「なに冷静に言ってるの・・・」


 彼女の手をとる。

 鳥猫から目を逸らさないよう、後ずさる。


 ゆっくりと広がる羽。


「どうしよう?」

「どうしよう、って・・・どうも、こうも・・・」


 二人は顔を見合わせた。

 一拍あと、二人はしげみに向かって全力で走り出す。

 鳥猫の恐ろしい鳴き声。

 恐怖の追いかけっこ。



 =連鎖する世界=



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