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不思議の国



 〈不思議の国〉


 


 走る。

 走る。


 バスケットが揺れている。


 息が上がる。


 走る。

 走る。


 わざと道を走っている。


 細い道。

 獣道?


 眩しい空はアッシュ。

 少年の鼓動はラッシュ。

 横の茂みからダッシュ。

 ひらめくスカートとクラッシュ。

 バスケットはマッシュ。


 うさぎを奪取。


 謎の美少女。




「キャアッ」

「うわ」


 プリンス・ページは抑揚の薄い声で悲鳴をあげた。


 自分を押し倒しているのが、同じ年頃の美少女であることを知る。


 突然飛び出してきた、美しい獣かと思った。


「ああっ・・・ごめんなさい。わたしったら、ちゃんと前を見ていなかったものだから・・・」


「いや・・・」


「あら、うさぎさん。こんな所にいたのね?」


 しまったっ。


 少年は側に転がったバスケットを見る。

 ふたが開いていて、うさぎのぬいぐるみが出ている。


 少女はうさぎを抱き上げ、にっこりと笑った。


「やっとつかまえたわ♪うさぎさん」


 うさぎのぬいぐるみがもがく。


 ぬいぐるみの指令。

 少年がぬいぐるみをはぎ取る。


「あっ」

「どいて」


「うさぎさんに何をするの」

「こっちのセリフだよ。どいてアリス」


 アリスは不思議そうな顔。


「なぜわたしの名前を?」

「え?」


 そうか。女装中だった・・・


「それは―・・・」

「ああっ。分かったわ。あなた、別の世界から来た魔女ね?」


 相変わらずのジャンキーだな。


「・・・そうだよ」

「やっぱり。そうだと思ったわ」


「どいて」

「わたし、あなたとお友達になりたいわ」

「じゃあどいて」

「向こうのお話を聞かせて欲しいの」

「分かった。じゃあどいて」

「ええ」


 アリスが上からどく。

 プリンス・ページはバスケットにうさぎのぬいぐるみをつめる。

 スカートの汚れを払う。

 歩き出す。   

 

「あっ、ねぇ待ってっ」


 無視。

 妄想癖の美少女、としか印象がない。

 森の管理人の娘。

 鍵人(キーパー・ソン)の娘。


 アリスが隣に並ぶ。


「ねぇ、向こうはどんな所?」

「〝向こう〟って?」

「別の世界。あなたが住んでいる世界のことよ」


 あなた=魔女?


「ひどい所だよ」


「どんな風に?」


「たくさんの鏡を並べて、自分を見ている気分だよ」


「鏡の国なの?」


「人はたくさんいるけど、みんなひとりだ」


「どういうこと?」


「そのままだよ」


「不思議な所なのね」


「ここより不思議な所ってないんじゃない?」


「じゃあここは不思議の国なのね?」


「そうだね・・・」


「あなた、空は飛べる?」

「君は飛べるの?」

「いいえ、まだ」


 アリスはバスケットを気にしている。


「チェシャ猫さんは『君には素質があるから、世界の違いを見分けられるようになれば、すぐにでも飛べるようになる』って言ってたわ」


「そう」


「さっき綺麗なキノコを食べたのだけれど、体が大きくなったり小さくなったりで大変だったの」


「拾い食いはやめたら」


「ええ、そうね。大きくなったら兵隊さんに銃を向けられて、小さくなったらアリに追い回されたのよ」


「災難だったね」


「逃げる途中でキノコの反対側を舐めたから、もとに戻ったの。それであなたとぶつかってしまったの」


「ああ、そう」


「ごめんなさいね」


 適当なあいづち。

 歩き続ける。


 彼女はスカートのポケットの内側を出して、ぱたぱた。


「どこにいったのかしら?本当に綺麗な柄だったのよ?」


 歩く。

 引き離す。


「ぶつかった時に落としたのかしら?」


 少年は立ち止まる。

 振り返る。


「兵隊に銃を向けられた・・・?」

「ええ」

「どこで?」

「そこで」


「君たち」


 アリスの指を差した方向。

 タイミングよく?

 兵士二人がしげみから出てくる。

 冷たく光るライフル。


「ここで何を?」


 警戒。

 普通に。

 少しおびえた風に声色を変える。


「こわいわ」


 アリスの背中に隠れる。

 顔が見えないように。


「小姓を見なかったかね?」

「いいえ。どうなすったの?」

「いや・・・見てないならいいんだ・・・」


 去ろうとする兵士。

 振り返る。


「その顔・・・」


 少年の鼓動が跳ね上がる。

 兵士はまじまじと観察。


「そこのお嬢さん、さっき森の中にいなかったかい?」


 アリスは平然と答える。

「いいえ?」


「・・・そうか」

「森には固有種が多いからな。幻想草にでもやられたんだろう」

「だが、あの大女にそっくりだ」


 去ってゆく兵士。

 見送る二人。


 アリスは少年を見て笑う。


「撃たれるのはごめんよ」


「君は・・・・・・どこまでが本気?」

「あら。わたし冗談は好きだけど、嘘は嫌いなの」




―不思議の国―

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