ハンプティ・ダンプティ 【02】
青年は黒いエプロンで手を拭いた。
腰には大小のハサミ。
植物相手の、美容師的雰囲気。
「ハンプティ・ダンプティ・・・?」
「ミスターぐらい付けてもらいたいね。これでもかなり年上だ」
パチン、と音がして卵男の手の中に花が落ちる。
どうやら選定中。
気が付かなかった。
一体いつ、目の前に・・・?
『特殊体質者』という可能性より、第三者を考える方が現実的だ。
ウルフマンが嘘をつく理由は?
その利益の計算。
思考結果・・・見当たらない。
「君はどうしてここに来た?」
「・・・分かりません・・・記憶がないので・・・」
パチン。
枝の落下。
「・・・そうか・・・」
疑問の胎動。
「あなたは・・・どうして自分からここへ・・・?」
「・・・なぜだと思う?」
「他人からの干渉の拒絶?」
「あながち間違ってはいないが、正解ではない」
「じゃあ、他人への干渉を拒絶」
パチン。
葉が落ちる。
「遠からず、だ」
「・・・正解は?」
「その両方」
「・・・なるほど」
共感。
嫌悪感の減少。
「二百年も生きれば、そりゃ生きたくなくなる時もあるでしょうね」
「私は死ねない」
「死ぬ、と生きないは、キャベツとレタス・・・ニラとネギ、牡丹と薔薇に似ています」
「似て非なるもの、か・・・」
男の微笑。
「君は〝生きて〟いるのか?」
「分かりません。存在理由が知りたいんです。存在価値が・・・」
ジャ・・・キン。
「青いな・・・」
枝が落ちた。
「若い頃は私もそうだった・・・〝答え〟が欲しかった・・・」
「あなたは・・・自分の〝答え〟を見つけたんですか?」
「存在していることに価値があるのさ」
「生きることは、誰かに干渉し、影響を与えること・・・ですよね?」
「ある意味ね。しかし自分から干渉しなくとも、他人に影響を与えることはできる」
「どうやって?」
「『他者の介入』だ。花はただそこに存在しているだけで、ハチを呼ぶ」
「それは互いに利益があるからでしょう?」
「植物人間はどうかね?ただ寝ているだけの存在だと言われている・・・」
「・・・・・・・」
「しかし、ある種の者からすれば、呼吸をしているだけで大きな喜びを与える・・・」
男は別の花をかまいだす。
白い花だ。
「私の妻もそうだった・・・」
パチン、パチン。
「彼女がいてくれるだけで、私は幸せだった・・・」
ジャ・・・キ・・・ンッ・・・
枝ごと花が落ちる。
「存在していることに意味があり、存在しているからには、必ず他者に利益と不利益ができる」
「つまり・・・あなたの存在も、それによって利益と不利益があるんですね?」
「正解だ」
「それはウイルスか植物に関係あるんですか?」
卵男は意外そうに僕を見る。
「人狼から聞いたのか」
「ええ・・・」
卵男は床に落ちた枝を拾う。
「君は・・・魔女の由来を知っているか?」
困惑。
「魔 女?」
卵男は枝を指揮棒のように振った。
「薬草や医学に精通している女達が、男尊女卑によって排除されたのが始まりだ・・・」
バサッ・・・
小さな音。
卵男の姿が消えた。
「これで分かったかね?」
幼く、大人びた口調。
僕はぎょっとする。
半球の中で出会った声・・・
僕は視線を落とす。
「ワー・ウルフは隔世遺伝、『先祖がえり』が原因で私と似た症状を抱えている」
キャンパスの裏。
黒い上着を引きずって、幼児が出てきた。
「私は吸血鬼だ」
大きな目が僕を見上げている。
妖艶な目。
「だから二人で、貧血を抑える薬を開発している」
―ハンプティ・ダンプティ―




