Heaven Corin Hell
〈Heaven Corin Hell〉
目玉焼きの黄身の中。
奇妙な味の頭痛薬。
満足そうな狼男。
大樹の下。
床からせり上がる家具。
狼男の居住スペース。
「女王が帰るまではここにいて。ドーム内なら好きにしていいから」
「ありがとう。少し・・・休んでもいいかな?」
「どうぞ」
狼男は調合した道具を片付けながら話している。
「さっきの話―・・・信じてないでしょ?」
僕は治療台のようなソファにもたれ、目をつぶる。
「ギネスに申請すれば?」
「できない。国は彼の存在を隠している・・・」
「だから閉じ込められているの?」
「彼は自分で逃亡の日々に終止符を打った。〝閉じこもって〟いるのさ」
「卵の中に?」
「そ。ここは彼のテリトリー。誰も入れない。普通は、ね」
「君は?」
「彼の血筋だから、内側の外側には入れてもらえるの」
「彼はずっと・・・あの中に?」
「時々降りてくる」
「彼は・・・・・・何者?」
数秒のためらい。
道具を片付ける音。
「彼は二百五十年ぐらい前、奇病におかされた・・・それ以来、成長が止まっている・・・」
「つまり、老けない?」
「そ」
「・・・子供に子供は作れない」
「あれは本当の姿じゃない。彼は・・・奇病におかされる前の姿なら、何歳にでもなれる」
「もっと小さく・・・赤ん坊にも?」
「さぁ?見たことないから・・・」
「ウルフマン」
僕は目を開けた。
「ティーは摂りすぎると体に良くない」
ウルフマンの微笑。
「やっぱり信じてもらえないわよねぇ・・・」
数秒の沈黙。
何度目かの疑問。
「なぜ僕に話した?」
「君が部外者だから」
道具を全て棚にしまう。
棚が沈む。
「それに・・・君は俺と似たにおいがする」
「・・・どんな?」
断続的機械音。
ウルフマンは樹の上の半球を見上げる。
「呼び出しだ。ちょっと失礼」
旧式の電話の音だと判断。
ウフルマンが受話器をとる。
「なぁに?グランパ」
〈今、塔から連絡があった。客人を外に出すな〉
「分かってるよ」
疲労感。
ここ数日、まともな睡眠をとっていないはずだ。
僕の意識は閉じてゆく・・・。
ウルフマン=信用?いや。警戒。
〝友達?〟
期待=皆無。
違和感=多少。
とまどい=少々。
目を閉じる。
半分眠る。
半分の意識は外側に残す。
特技。
〈それと、アリスを見なかったか?また見当たらないらしい〉
「いいや?お腹すいたら帰ってくるんじゃない?」
〈女王つきの小姓は?〉
「バニーの弟?いなくなったの?」
〈馬車から飛び降りて、森に入ったらしい〉
「あらら・・・」
ウフルマンは頭をかく。
「探しに行こうかしらねぇ・・・」
〈客人も一緒にか?〉
「いいや?」
〈私に接客しろと?〉
「もういい年なんだから、人見知り直したら?じゃあね」
ウルフマンは通信回路を変更。
「ああ・・・マスター?バニーの弟・・・・・・・え?大丈夫なの?うん、うん・・・ああ、そうなの」
―数秒後。
ウルフマンが近づいてくる。
顔をのぞきこむ気配。
「寝たか・・・ちょっと出てくるよ」
ウルフマンの気配が遠ざかる。
空間が広く感じられてくる。
思考―。
自ら閉じこもっている卵男。
迷いの森=出口不明。
幽閉と監禁・・・
なぜそれを自ら望む?
答え=〝不変の安息〟・・・?
母体。
その中の卵を連想。
守られている、という確信?
防御。
壁。
ここは彼の不変の園。
自分の周りに殻を巡らせ、閉じこもっている男。
ハンプティ・ダンプティ。
共感。
と共に、拒絶感・・・。
同族嫌悪?
閉所恐怖症?
いや・・・
『監禁恐怖症』か。
―なぜ?
答え=旅人だから。
【違う】
旅人になったのは?
答え=自由への願望?
【妥当】
なぜ自由を望む?
答え=不自由だったから?
【無難】
再回答=過去に閉じ込められているから?
体に、電流のような寒気が走る。
僕は跳ねるように起き上がった。
【正解だ・・・】
額から汗が落ちる。
「・・・・・・・ヘルン・・・」
僕が、昔いた場所。
閉じ込められていた所。
一部だけ、僕に記憶が戻ってきた・・・。
― Heaven Corin Hell ―




