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バニー and バニー


 〈バニー and バニー〉




 馬車の到着。


 女王の訪問。


 姫の帰宅と

 うさぎの登場。



「姫様」


 イカれ帽子屋のお茶会。

 チューリップの声。


「そろそろお家へお戻りになられませんと・・・」

「あら?もうそんな時間?」



 ローズ・ソルジャーズに囲まれ、裏庭を出るプリンセス。



「またね。グランマ」

「ええ、また」


 バニー・ボーイの笑顔の見送り。


 歌声が遠ざかってゆく・・・



 バニーはカップをさげに室内へ。

 帽子のコレクション・ルーム。

 うさぎ耳を取ると、マネキンの頭部に戻した。


 ため息・・・


〈・・・客人が帰ったか・・・〉


 黄緑色のシュー・ハットをしたマネキンの頭部。

 それには、目の部分にカメラが埋め込まれている。


「これからもうひとり来るよ」


〈弟か〉


「うん」


 バニーは微笑。


「研究の方はどう?」


〈試作段階だが、何とか形はできてきた。近日中には完成するだろうな〉


「おめでとう。こちらでお茶しない?こもりっぱなしじゃモグラになっちゃうよ」


〈そうだな・・・〉


 ブツリと通信断絶音がした。



 開いた窓。

 小さな羽音。

 銀色の小鳥が赤紫色のソファの背もたれにとまる。


 合成音声。


〈たずねたいことがある〉


「ああ・・・ハァイ、管理人さん」


〈少し困ったことになってね。変わった帽子の見かけない青年を見かけなかったか?〉


「はは。見かけない青年を見かける、って少しおかしな文章じゃない?」


〈少し焦っていてね〉


「あなたが?今日は珍しいことだらけだ」


〈見なかったか?〉


「見たよ。〝ひしゃげ帽〟さんでしょ?さっきまでお茶してた」


〈今は?〉


卵の殻(エッグ・シェル)の中だよ」


〈そうか・・・ならばこちらから連絡もできるな・・・〉


「あなたの知り合いなの?」


〈・・・昔の、ね・・・〉


「昔?」


〈もうひとつ質問がある。君の弟君は今日、ここに来たか?〉


「いや。まだだよ。もう女王は森に入ったんだね?」


〈・・・もし彼が来たら、連絡をくれるか?〉


「なぜ?」


〈エッグ・シェルと姫の小城の付近で、行方が分からなくなったそうだ・・・〉


「・・・・・・はぁっ?」


 バニー、数秒の放心。


「事故?何かあったの?」


〈いや・・・くわしい事情は分からないが、どうやら逃げたらしい〉


「逃げる・・・?」


 バニーの眉間にシワが浮かぶ。


「誰から?」


〈恐れ多くて口に出せないおかた・・・もしくはグロテスクで華やかな国一番の美しい檻から〉


「王宮はそんなに嫌な所?」


〈兵隊は森中を探し回っている。言葉に気をつけろ〉


 逃走は厳罰だ。


「・・・・・・・・・なぜ・・・」


 バニーは座り込む。


「そんな馬鹿げたことを・・・」


 口をおおう。


 ドアが開いて、別の部屋から老人が出てきた。

 曲がった腰。

 杖をついている。


「マスター・・・」


 気配で分かったのだろう。

 バニーは小さな声で言った。


「   が、にげ  って・・・」


「なに?」


〈彼女の弟君が逃げ出した。行方が分からない〉


「君にもか」


〈磁場が一定しないので、カメラの調子が、ね・・・娘も探さねばならないし〉


「また徘徊か」


〈あなたの息子に、もう薬はやるなと言っておいて下さい〉


「アレはわしの言うことなど聞かん」


〈とにかく、見つけたら連絡を〉


 銀色のコマドリは空へと飛び立った・・・。










 ✝室内✝



「・・・・・・・・・もういいじゃろ」


 静かに、ドアが開いた。

 バニーは立ち上がる。


「・・・お前っ」


「ごめん・・・姉さん・・・」


 そこにいたのは金髪の少年。

 水兵を思わせる、土ぼこりで汚れた青い服。

 緑色の服を着た、白いうさぎのぬいぐるみを抱いている。


 無表情な顔をうつむける少年・・・。

 人形のような、美しい顔立ち。


「なぜ逃げ出して来た?捕まったら何をされるかっ・・・」

「もうイヤなんだよ」


 少年はぎゅっと、ぬいぐるみを抱きしめた。


「僕・・・王宮では女王のペットだった・・・でも今は・・・人形だ・・・」


 少年はバニーを見る。

 無表情。

 目だけが赤く潤んでいる。


「姉さん、僕・・・」


 涙がほほを伝う。


「僕は・・・・・・・・・」


 涙が床に落ちる。


「僕・・・・・・」


 少年の腕から、ぬいぐるみが落ちた。



 いや。

 降りた。



 着地に失敗して床に転んだうさぎは、自分の手を突いて起き上がった。


 呆然とするバニー。


 バニーを見上げるバニー。


 少年の口が言う。


「僕、女王のせいでぬいぐるみになちゃったんだ」



 動かないバニー。

 目を見開いているマスター。

 無表情の少年。

 ぬいぐるみ。


「前の王子が十四で死んだから、お前はいつまでも死なないように、って・・・」


 緑色の貴族服。

 小さなシルク・ハット。

 水色の小さな目。

 片眼鏡。


「王子は病気で亡くなったんじゃない。女王の愛の束縛から逃げるために、自殺したんだ」


「じ・・・さつ?」


「女王は何人もの魔法使いを呼んで、僕の体と心を引き離す魔法をかけさせた・・・」


 感情の感じられない、少年の声。


「体はそのまま、心はぬいぐるみの中に・・・」


 ぬいぐるみは両手を動かしてみる。


「最新の機械が入ってるから、少しは動けるんだ。僕は話せない。体は僕が近くにいないと動けない」


 少年はぬいぐるみを抱き上げる。

 ぬいぐるみはバニーを見ている。


「だから、一緒に逃げて来たんだ・・・」


「・・・・・・・・・」


 見つめ合う、バニー and バニー。


「・・・・・・・・・夢だ・・・」


 バニー・ボーイの体がふらりと傾いた。


「姉さん」


 少年の体が姉を支えようとする。


 バニー・ボーイの体が床に倒れる。



 彼女は

 気を失った・・・。




                                   

―バニー and バニー―


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