ハートの女王
〈ハートの女王〉
「あなたはどこから来られたのですか?」
知的に見える、マリー・ゴールドの質問。
「彼はアリスだよ」
テーブルの上をごろりと寝返るウルフマン。
「空から飛んできたのさ」
・・・意味不明。
ウルフマンはテーブルに伏して沈黙。
笑う。
寝たように静かになる。
トリップ・スリップ・スリープ。
マリー・ゴールドを見る。
目が合う。
計算。
賭け。
兵士的口調。
「塔に行って指示をもらうまでは、なんとも答えられません」
沈黙、観察。
「あなた・・・派遣の兵士さん?」
「指示をもらうまでは答えられません」
「・・・・・・・・・分かったわ」
どうやらマリー・ゴールドがローズ・ソルジャーズの司令塔。
リーダーのにおい。
『けして捕まるな。これ以上関わるな』
と、本能の警告を受ける。
「塔に行かなくてもいいんですの?」
赤ずきんの無邪気な質問。
「ああ・・・そうでうね。そろそろオイトマしようかな?」
できるだけ自然に立ち上がる。
レディたちに挨拶。
「行くのかい?」
バニー・ボーイの残念そうな声。
フラッシュ・バック。
渋派手な着物の、背中。
おぼろげな顔が振り返る。
行くのかい?
「ああっっ」
反射的にローズ・ソルジャーズが立ち上がる。
決して僕を心配したからではない。
その逆とも言える。
頭痛。
僕はテーブルに片手を突く。
めまい。
吐き気。
動悸。
早くこの場を離れよう・・・
「どうしたんだっ?」
バニーが駆け寄ってくる。
背中に手をおかれる。
顔をのぞきこまれる。
「ひどい顔色だ」
「大丈夫・・・」
「奥で休んでいった方がいい」
「いや・・・」
「いいから」
バニーの強引な介抱。
室内へ案内。
よろけながら館内。
帽子屋の店内。
壁の棚に帽子。
奇妙・・・
いや。
個性的な。
ひとりがけのソファ。
もたれる。
柔らかく、かたい感触。
ため息。
意識のよどみ。
重大な
喪失感・・・
何を・・・?
「ほら」
水を差し出すバニー。
受け取って、飲む。
フラッシュ・バック。
いける口?
「調子ど~~おぉ?」
ご機嫌なウフルマン。
僕はつぶやく。
「悪いよ・・・」
「お気の毒に」
ウルフマンはバニーに振り向く。
「俺の家に連れて行こうか」
「それがいいかもね」
「もうすぐ女王が来ちゃうしねぇ~」
ウルフマンは僕を見る。
「君、どう見ても不審者だしぃ」
彼は僕の肩をかつぎ、立たせる。
「〝バラのつぼみ〟を怒らせたくないからぁ、表から出よう」
そう言えば、いつの間にか道化師帽をぬいでいる彼。
ベルの付いたドアを開け、音色に見送られる。
「君は何者なんだろうねぇ?」
声を押し殺す。
「・・・誰も知らない」
「俺は知ってるかもよ~?」
ウルフマンを見る。
彼の不敵な笑い。
「本当に酔っているのか・・・?」
「マスカレ~ド・フンフフ~ン♪さて、君は誰の仮面をかぶってる?」
気分が悪い。
答えたくない。
「・・・君は?」
「道化師さ♪」
「じゃあ僕は・・・兵士だ・・・」
「誰の?」
誰の?
何の?
僕は誰になりたい?
何に属したい?
「・・・・・・僕の」
「ほほ~うっ。素敵な答えだね」
「どうも・・・」
二人で支えあいながら、舗装された道を歩く。
小高い丘。
階段。
クネクネの道。
「俺の家は高台にあってね。かなり坂道のぼるよ~」
最悪だ・・・。
「もういい。ここで休むから」
「しっ。静かにっ」
ウルフマンは茂みの陰に僕を押し込み、しゃがんだ。
異常察知。
死角から規則的な人工音を確認。
推測=馬車。
「ハートの女王の馬車だ」
真珠色と金色の、豪奢できらびやかな馬車。
ひづめの音。
馬=違う。
馬型ロボットが二体。
王室の権威、
威厳、
財力の見せびらかし。
馬車の窓。
人影が見える。
女の白い胸元。
首、あご、口元。
顔は見えない。
推測=美人。
馬車が正面下に。
今度は反対側が見える。
人影。
背が低い。
顔が見える。
金髪。
白人系。
青い目。
虚ろな目。
海兵みたいな青い服。
白いうさぎを抱いている。
緑の服のぬいぐるみ。
少年と一瞬、目が合った。
フラッシュ・バック。
フラッシュ・バック。
フラッシュ・バック。
衝撃。
拒絶。
漏電。
僕は、気絶した・・・。
―ハートの女王―




