ヨトギバナシ 弐
「宿をお探しか?」
「ええ・・・雨風をしのげる安宿でいいのですが・・・」
「案内しましょう」
男は旅人を先導し、歩き始めた。
旅人は一瞬ためらい、男について行くことにした。
男は傘から手を出し、空中にかざす。
波、ではない。
植物のツルの刺青だ。
「やんだか・・・」
傘を閉じ、男は旅人を見た。
「どちらから?」
用意していた答え。
「西から」
微笑。
「そうでしょうね・・・綺麗な金髪だ」
「あなたは生粋の?」
「いいえ。ハーフです」
なるほど。
足が長いし、色素が微妙に薄い。
「どこまで行かれるんです?」
「さぁ?・・・気ままなひとり旅なもので」
「わたしはルリテイのヒョウギク、です」
「わたしは・・・・・・旅人です」
再び微笑する氷菊。
「では〝マァ〟さんとでも呼びましょうかね」
「マァ?」
「間夫のことですよ」
一瞬以上の思考停止。
ためらい。
とまどい。
「あの・・・わたしにそのような趣味は・・・」
氷菊は目を細める。
「分かっています。なに。とって食ったりはしませんよ」
氷菊は再び、旅人に背を向けて歩き出した。
【瑠璃亭】
旅人は高級宿を前に、ますますの困惑をしめした。
「あの・・・本当に・・・金がないんです・・・」
「料金はいただきません」
まずい。
売られる。
もしくは、食われる・・・っ。
「さぁ、どうぞ」
「あら、兄さん。お帰りなさいな」
「おう」
店の呼び込みの出迎え。
氷菊は店の敷居をまたいだ。
煌々とした灯りが、道に光の影を落としている。
その上に、氷菊の細い影。
手招き。
苦笑。
「見せたいものがあります」
旅人はためらった。
しかし・・・
あの顔や雰囲気に、少なからず興味がわいてくる。
頭の中がザワザワとしてくる。
もしかしたら、何かが〝見える〟かもしれない。
旅人は瑠璃亭に入った。
男ばかり。
陰間・・・妙なスリルを感じながら、廊下を歩く。
小部屋に通される。
ふすまが閉まる。
氷菊は畳に座り、片ヒザを立てて座った。
頭痛。
デジャ・ヴュ?
違和感・・・
「おかけよ」
氷菊は酒瓶を取り、杯にそそぐ。
「いける口?」
「・・・ええ」
杯をもらう。
何か混ぜものをした様子はない。
しかし、すでに入っていればアウト。
杯に何か塗られていれば、やはりアウト。
賭け。
半ば投げやり。
本能的な、『無害』の予感。
一瞬の計算。
賭け。
透明な酒を飲む。
すきっ腹が熱くなる。
雑用係りの少年が茶を運んでくる。
「酒の肴を適当に運んで来ておくれ」
「はい」
少年はちらりと旅人を見て、部屋を出て行った。
気配が遠のく・・・
間合いが外れたな、と旅人が思ったと同時、氷菊が言った。
「今までどこに?」
「・・・・・・え・・・?」




