ヨトギバナシ 壱
〈ヨトギバナシ〉
歓楽街。
活気に満ちた、夜の街。
ちょうちんの列。
女達の声。
誘いの声。
袖からのぞく細い手首が、
「おいでなさいな」
「寄ってきなさいな」
格子の中から、
男達を
呼んでいる・・・。
「お兄さぁん。寄ってかないかい?」
赤い唇の女に腕をつかまれた。
蛇のようにからみついてくる。
「旅人さんだろぉ?休んでいきなよぉ」
酒やけした声。
猫なで声。
酔っているようだ。
酒の匂い。
おしろいのにおい。
「悪いが金を持っていない」
女の顔つきが変わる。
舌打ち。
卑猥な暴言を吐くと、すぐに別の男を探しにそっぽを向いた。
「お兄さぁん」
ため息・・・
安宿でいいから、とにかく体を休めたかった。
酔っ払った女の相手などまっぴらだ。
夜の女達が声をかけてきて、その度に誘いを断る。
小さな橋を渡った。
ここは静かだ・・・。
立ち止まる。
ライターでタバコに点火。
赤く小さな丸が、闇に浮かぶ。
夜風。
柳がゆらゆら、さわさわ揺れている。
泥酔し、千鳥足の男女が支えあいながら、橋を渡って来る。
どんっ
向こう側からぶつかって来た。
「いってえなっ。気をつけろっ」
うろんな目の男が怒鳴り、隣の女がキャラキャラと下品な笑い声をあげた。
まぁ、いいか・・・。
旅人はそう思い、暗い川に目を移す。
男女はそのまま歩いて行こうとするが・・・
「お待ちよ。そこのご両人」
男女の反対側から、大きくはないが、よく通る声がした。
「あ~~~~~~~っ?」
ガラの悪い男が振り返る。
旅人もそちらを見た。
橋の端、柳の木の下に男がひとり、立っている。
さきほどまで小雨が降っていたせいか、和傘をさしている。
前のめりになった傘のせいで、顔は見えない。
しかし・・・
その手が傘のふちをわざとらしく撫でると、手の甲の刺青が見えた。
波、だろうか?
それを見つけた酔っ払いは、顔色を変えた。
「あ・・・あの・・・」
「置いていきな」
男はふところから財布を取り出して橋に放ると、逃げるように去った。
「いくぞっ」
「何でっ?せっかくのカモをっ・・・」
「いいから、行くぞっ」
「・・・・・・・」
旅人は財布を拾った。
男に近づく。
「・・・どうも」
男は傘を少しあげ、顔を見せた。
役者ばりの美しい顔立ち。
「いいや・・・」
男の側で、計算されつくした絵のように、柳の緑が揺れている。
夜風にのって、香のかおりが仄かにした。




