ローズ・ガーデン 02
『だあれ?』
すぐに気づく。
人間ではない。
彼女は〝リィ〟。
飼い主の娘。
再生精神のアンドロイド。
何となく、
初恋のシスターに
似ている。
二度目の恋。
ひとめぼれ・・・
彼女は
ここから出たことがないらしい・・・
鳥カゴの外をぐるりと回ったけど、
出入り口がない。
〝リィ〟は
『床から上がってきた』
と言う。
脱出不可能・・・。
俺はその日から、〝リィ〟のもとに通い始めた・・・。
幸せだった。
二人だけの時間。
おだやかな時間。
ゆったりとした
彼女のしゃべり方が・・・
耳に、
心地よくて。
俺は 彼女に
夢中になった・・・・・・
最新型の体。
リアルな体。
ふし目がち。
細い髪。
白い肌。
素敵な笑顔・・・
天井からもれる
小さな光たち・・・・
檻に背をあずけ、
彼女の話を聞きながら、
彼女の歌を聞きながら、
読書・・・
幸福。
至福の時・・・
母の子守唄・・・
母の腕の中・・・
母の腹の中にいた時のような・・・
安息の日々・・・
鼓動。
細い指・・・
閉じる瞳・・・
檻をつかむ 手・・・
触れる指先・・・
はねる
心音・・・
うずく、くちびる。
微熱・・・?
束縛。
拘束? うるむ瞳。
目を細める。
不思議そうな
彼女。
無邪気。
近づく顔・・・
吐息・・・
少しだけ触れた
くちと
くち・・・
やわらかい。
微笑。
取り払われる
〝心〟の壁・・・
鳥カゴの中から
解放された 〝心〟。
飼い主の帰宅。
安息の崩壊・・・・・・
キレる飼い主。
俺を殴り
蹴り続ける。
意味不明な暴言。
意識がもうろうとしてきて・・・
気絶・・・
『だいじょうウぶ?』
彼女の声で、意識を取り戻す。
目を開ける・・・
体中の痛み・・・痛み・・・
破けた服。
縛られている。
檻に背を向け、
鎖で何重にも巻かれている。
腕が
折れている。
体はアザだらけ。
赤黒く、
ムラサキに・・・
緑色に・・・
放置 されるようだ。
それ以来・・・
飼い主とは会っていない・・・・・・
どうやら
飼い主の機嫌を損ね、
助けてもらう
機会はもう・・・・・・
ないらしい・・・
・・・・
ドームの内側には
誰も来ない。
木陰。
緑のかげ・・・
小さな光・・・
鎖の鍵はない。
脱出不可能。
〝リィ〟は
『死』を知らない。
理解していない。
することもないだろう。
それでいい・・・
いまの俺は 幸せだ。
彼女は一日中、
俺の側にいてくれる・・・
かつての
母のように・・・
俺の耳元で、
可憐な声で、
同じ歌を
くりかえし、くりかえし・・・・
壊れた音楽機器のように・・・・・・
くりかえし、くりかえし・・・
ささやいて くれるから。
いままでで一番、束縛されているけど、
いままでで一番 心はおだやかで
自由だ。
泣きたいぐらい、
幸せだ・・・
切なさで
ムネが張り裂けそう
だ
なんて・・・・
そんなコトバ
使う日が来るとは
思いも
しなかった・・・
周りに咲いたバラが、
強く 香っている・・・
〝リィ〟の服にしみついた、
バラのにおい・・・
俺の首に腕をまわして、
『大スキだよ』
と言う カノジョ・・・
もう・・・
口が・・・
うごかない・・・・・・・
それでも俺は、心の中で
くりかえす。
おれもダイスキダヨ。
ダレよりも
あいしてる・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
ナミダがおちた。
スキすぎて。
ナミダがおちた。
かわいた血がとけて、ナミダは赤かった・・・・・・
イタミのない体・・・
クサリはじめたからだ・・・
クサリにまかれたカラダ・・・
止むことのない カノジョの うた。
やすらぎ。
俺は
もうすぐ
死ぬんだね・・・?
だって
あんたが 来てるから。
むかえに
きて
くれたんでしょ・・・?
〝おじさん・・・・・・〟
まってたんだよ
あなたを・・・
まだ
その スーツなの?
ちゃいろの・・・スーツ。
なつかしいな・・・
あつく ないの?
そっか。
おじさんは
ユーレー
だもんね。
・・・・・・・・・・・・・・・うん。
おれは
おじさん と いっしょに
いく よ
つれてって・・・
うん。
うん。
そう だね。
もう いたく ない
よ。
あり がと。
さよう なら
〝りぃ〟・・・
「 ダヨ・・・ 」
『私も大スキよ』
俺は、走馬灯の 最後に、
笑う 彼女の 幻を 見た・・・。
―ローズ・ガーデン―
主人公は・・・・
『砂漠 (スト)』の・・・?
まさか、ね・・・
『茶色のスーツ』なんて、
どこにでも・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・
・・・どこにでも?




