四章・閉塞感01
〈四章・閉塞感〉
「・・・どういうこと?」
アナスが質問。
全員の疑問を代表。
クナイは視線を落とす。
「ヘルンは今日、午前2時30分をもって、封鎖される」
「・・・・封鎖?」
僕がつぶやく。
ケトゥの補足。
冷血なまでのクールボイス。
「正確には、ヘルンの制圧・封鎖・移動・改装が目的だ。そして我々兵士、もとい実験体達の処分が予定されている」
驚愕、唖然。
沈黙・・・再び愕然。
拒絶。
疑問の胎動。
「なぜ・・・?」
テフの涙声。
「トリアナ・ハイネトの作戦失敗に関係しているのか?」
カーリー。
あくまでも淡々と。
「費用だ」
クナイの暗い声。
「僕達を飼うだけの維持費がなくなったのか・・・それとも飼い主さん達は新しいペットを見つけたのかね?」
キムの予測と質問。
「どちらもだ」
ケトゥの回答。
「新しいプロジェクトが開始されるらしいが、その内容は知らされていない」
リーダーの声。
わずかに感情の揺れを感じる。
「ヘルンにいれば、殺される・・・だから我々は〝外〟に行く」
【AM 1:16】
僕の質問。
疑問の出産。
「なぜ僕たちだけが脱出を?」
「〝教授〟と私の願望だ」
クナイの回答。
「私の遺伝子の約半分は〝教授〟のものであることは知っているな?〝教授は〟自らの遺伝子情報の断絶を拒み、私に制圧計画を話した」
彼女の特別なあつかい。
周知の事実。
トリアナ・ハイネトの見舞い=特権。
「それはいつ?」
僕の質問。
「五日前」
あの日だ。
二人で話した日。
逆光の彼女を思い出す・・・・。
「私だけなら、脱出は難しくなかった・・・死体をひとつ用意するだけですむからな・・・」
ケトゥ「クナイは〝教授〟に、俺達の延命を申請した」
カーリー「受諾した、と・・・?」
「〝教授〟は、ね?」
意味深なキム。
クナイ。
暗い表情。
「そうだ。これは任務ではない。逃亡・・・私の願望だ。死体を八人分用意するのに手間取ったんだ・・・用意できない場合は、脱出をあきらめるつもりだった・・・」
カーリーの追求。
「なぜ我々まで保護しようと思った?我々の遺伝子は、それほどまでのリスクをおかしてまで利用価値のあるものではない。ヘルンの封鎖がその証拠だ」
カーリーにしては饒舌。
彼も少なからず、興奮しているようだ。
そして求めている。
自ら生まれた疑問、
その
答えを。
みんなが、
存在理由を。
存在価値を。
求められている、という実感の要求をしている。
答えの予測。
期待。
願望。
渇望。
「必要だったからだ」
クナイはほとんど無意識に、ゴミ袋の中から銃を取り出す。
引き金に軽く指をかけ、銃を弄う。
「私達に遺伝子的なつながりはないが、私は〝教授〟よりも、私のハイネトを家族だと思っている・・・私はみんなと・・・・・・・」
クナイはみんなの様子をうかがう。
不安そうだ。
「言ってくれ、リーダー」
カーリー。
ハイネトの年長者。
兵士の性=〝従順〟。
それを再度、手にしたがっている自我。
意志。
願望。
「言って・・・」
テフ。
無邪気な最年少。
純粋な要求。
「私は・・・・・・・・・みんなと生きたい・・・」
行き場を失くした僕たちは、よりどころとなる言葉が欲しかった。
彼女は僕たちの要求に、最良で最善で最高の答えをくれた。
『みんなと生きたい』
他人への干渉。
自我の要求。
自己主張。
ヘルンでは重く禁止されていた全てを破る、彼女の言葉。
彼女の意志。
〝私のハイネト〟
なんて
素敵な言葉。
生まれてからこれまで、
みんながどこかで、
無意識に、
心の奥で渇望していた瞬間・・・。
僕たちでなければ、できないこと。
代わりのない、
必要とされる存在・・・。
その位置―・・・。
クナイは泣いていた。
はじめて彼女の涙を見た。
滴が床にはじけ、気づいた。
僕も泣いている。
ヒタも。
テフとアナスもほほをぬぐった。
カーリーとキムとケトゥは泣かなかったけど、信頼の匂いがした。
濃厚な時間。
みんなが同じ、
内側から溢れ出てくる思いを抱いて、共有していた・・・。




