三章・疎外感01
〈三章・疎外感〉
【PM 10:50】
消灯時間。
✝自室✝
ベッドの中の僕は、そしてマイ・ヒタは、お互いが寝付けないことを理解していた。
見回り用ロボット=テロル。
その気配。
息を潜める。
自室のドアは電子錠。
テロルがドアにアクセスすると、曇りガラスが透明に変化。
監視の合理性より、兵士達への精神的束縛を目的とした、権力の具現化。
その視線・・・。
〈 ・・・異常ナシ・・・ 〉
ガラスが再変化。
テロルの気配が遠ざかっていく。
念には・・・念を。
耳の神経を外へ集中させ、
5秒数える。
五・・・
よん・・・
3・・・
にぃ・・・
イチ
マイ・ヒタの飛び跳ねるような大きな寝返り。
間接照明の点灯。
淡いオレンジ色の、光。
壁に顔を向けていた僕も勢いよく振り返る。
ヒタのはにかんだような、イタズラを企む子供のような顔を見つける。
僕もきっと、同じような顔をしているのだろう。
心がおどる。
「・・・・・・っ」
「っ・・・・・・」
無言の笑み。
口元がニヤついてしまう。
笑いを噛み殺す。
まくらに顔をうずめる。
愉快。
期待。
二人が同時に、同じものを感じている理解。
感情の増長。
肥大。
蔓延。
緊張。
マイ・ヒタがベッドを殴る。
必死に笑いをおさえようとして、体が小刻みに振動している。
連動。
つられた。
思わず吹き出す。
さらなる連動。
ヒタが小さく笑い出す。
声がもれる。
ベッドを殴る。
手足をバタバタと動かした。
僕たちはしばらく、そうやって感情を共有しあっていた。
あの頃の僕たちは、
これが悲劇の幕開けだとは知らず、
事情を知っている者の苦痛も、
ためらいも、
知ることができなかったよね。
【AM 12:57】
僕とヒタは、ベッドを出た。
消灯を過ぎると、部屋の鍵は朝まで開かない。
緊急時以外、軟禁状態。
コンピューターに管理されているので、ピッキングによる開閉は不可能。
〝極秘任務〟。
常識からの、
日常からの、
脱出。
アーミーブーツの靴紐同士を結び、肩にかける。
足音を極力消すための手段。
❖『テロルに見つかるなよ?』
視聴覚室を出る前の、クナイの言葉を思い出す。
❖『1時きっかり。それから3秒間、電子錠のシステムが切れる。その間に秘密裏に部屋を出ること』
〝秘密〟
の理由は分からない。
兵士は上官の命令に、いちいち質問しない。
それに・・・
秘密は甘美だ。
ドアに忍び寄り、外の様子をうかがう。
「―・・・時間は?」
「59分、さんじゅう・・・35、36、37、38・・・」
ヒタのカウントと共に、いったん落ち着いていた脈が高くなってゆく・・・。
「56、57、58、59、」
【AM 1:00】=鍵が開く。
僕たちはドアの間をすり抜け、廊下へと滑り出た。
薄暗い廊下。
左右の確認。
テロルは不在。
無人。
僕たちは裸足で走り出す。
監視カメラの存在が頭を過ぎるが、〝任務〟というからには対処されているのだろう。
小さな足音。
全力疾走。
曲がり角。
急停止。
慎重にのぞく。
無人。
顔を見合わせる。
ヒタがうなずく。
走る。
テロルと研究員たちの存在に集中。
緊張。
安心。
危機感。
中庭をはさんだ廊下で、テフとアナスと遭遇。
合流。
アイコンタクト。
無言の笑み。
愉快。
痛快。
僕たちはエレベーターに向かう。
廊下を見渡す。
気配。
死角に4人で隠れる。
警戒。
人影。
エレベーターのボタンを押している。
人数は2人。
4人は死角から走る。
エレベーターの扉が閉まりだす。
中の2人が僕たちに気づく。
体をすべりこませる。
最後のテフが入るとほぼ同時、扉が閉まった。
「ギリギリだね」
先に乗り込んでいた二人組みの一人、キムが言った。
少し息の上がったテフが笑うと、
扉にはさまれそうになった彼女を助けた、カーリーが口元を上げる。




