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バニー・ボーイ



 〈バニー・ボーイ〉



 「なるほど・・・」


 地図にない場所。

 王女の隔離。

 森にいる住人達。

 兵士と言う言葉。

 森の管理人。


 いくつかの疑問が解消される。


「王族相手の帽子屋なのか・・・」


「いいや。それはもう、店主の趣味程度だね。『帽子屋』って通り名だけど、今は畑の管理人さ」


「君達はその手伝いを?」


「僕は野菜の畑しかいじらせてもらえない。基本的に家事手伝いさ」


「野菜の他に畑が?」


「茶葉のね」


 狼男のイタズラっぽい笑い。


 イカレ帽子屋=アリスのお気に入りの場所・・・。


「王室はその茶葉でティー・パーティーを?」


「王室と、王様の兵のね」


「痛み止めか」


「上質なものは渡らないけどね」


 狼男はテーブルに腰掛けている。


「俺達はその〝おこぼれ〟をもらうのさ。不自由のごほうびにね」


「なぜ君達はここにいる?」


「必要だから、さ」


 バニー・ボーイは首飾りに触れた。

 小さなエメラルドが光っている。


「もともとはイヤリングだった・・・両親が持たせてくれた、唯一の金目のものさ・・・弟が王宮に上がる前、加工して片方をやった・・・」


 モノトーンの中の、緑色。


「どうしてここだけでしか会えない?」


「僕は運がいい。普通なら一生会えない・・・病気かケガか・・・ヒマを出されるか・・・肉親だって面会は難しいのに、血のつながっていないきょうだいなんて・・・面会は不可能だ」


「・・・血が・・・」


「孤児院で一緒だったのさ」


 バニーの微笑。


 謎の

 胸の痛み。


 かきたてられる虚空。


 〝行くのか・・・?〟


 頭の中の穴。

 暗い暗い闇・・・。


「そう・・・」


 胸騒ぎ。


「今日が女王様の訪問日だから、昼過ぎには会えるんだ」


 嬉しげなバニー。

 黒い目が細くなる。


 狼男はスコーンをほおばる。


「いつぶりだったかしら?」

「三ヶ月と二日ぶりだ」

「ふぅん・・・よかったわねぇ」


 バニーは無言。

 幸せそうな笑み。

 茶をすする。


 ウルフマンも口元を上げている。

 不敵なものではなく、優しげで穏やか。


「弟君はいくつ?」

「今年十四」

「もっと幼く見えるけどね」

「亡くなった王子に顔が似てたんだよ」

「ああ・・・ハートの女王の病弱王子か・・・」


 王には、スペード、ダイヤ、クラブ、ハートと言う愛称の妃がいる。

 ハートの女王には王子がいたが、十四で亡くなっている筈だ・・・。



 どうしてこんなことだけは覚えている・・・?

 


 僕は眉間を寄せる。


「王子の死後、姫がすぐに生まれたけど、女王が欲しかったのは王子だ。姫は酷いあつかいを受けて精神を病んだ・・・だからここにいるのさ」


「姫は女王をうらんでいないの?」


「全然」


「だって覚えてないんだもの」


「おぼえていない?」


 興味をそそられる。


 狼男はクッキーを差し出す。


「いかが?」

「ありがとう」


 受け取る。

 体力回復アイテムGET。


「忘れたって?」

「そのままの意味さ」

「ハートの女王は、王子が亡くなったショックで精神を病み、姫が生まれてからここに入るまでの記憶がない」


「自分が姫に何をしたのかも・・・?」


「そう。ゴッソリと・・・都合のいい話さ」


「姫は姫で、女王に階段から突き飛ばされて頭を打った時、それまでの記憶を全てぐらい失くしてしまった・・・一生頭の中は六歳児って言う後遺症を残してね・・・」


「人間は自分の心が耐え切れないほどのショックを受けると、自分を守るために記憶を消すことがあるんだって」


「同盟のために人質として他国からとついで来た身・・・自分の国のためには、どうしても王子を生まなければいけなかった・・・」


「しかし、他の妃と国の政治からすれば、それは迷惑な話だった、と言うことさ」


「とついで来たのは確か、十二歳か・・・僕なら耐えられないな・・・」


「女王も耐えられなかった・・・」


 バニーの寂しそうな目。


「だから僕の弟は、王子の代わりに連れて行かれたのさ・・・」


 バニーは首飾りを握り締める。


「・・・・・・・・・」


 彼らは安全か?


 計算

 分析     

 推測

 想像

 本能・・・

 結果=未知数・・・


 賭け。


「僕も・・・記憶がないんだ・・・」


 二人の視線が僕に集まる。


「実は・・・・・・この森で目覚めてから前のことが・・・いっさい思い出せない・・・」


「あら、まぁ・・・」

「ほんとに?」


 頷く。


「どうしたもんかね・・・」


 バニーは頭をかく。


「あなたは本当に私服兵士さんじゃなかったの?」


 ウルフマンはほほに手を当てる。


 兵士

 捨て駒

 チェス

 弾丸

 引き金


 連想。


「・・・分からない・・・」


 

 僕は改造銃と大金を持った、記憶喪失者だ・・・。





―バニー・ボーイ―

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