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歌う花達



 〈歌う花達〉



 《詳しい話は会ってしよう。私はあの子を追わなくちゃいけない。君はこの道に沿って塔に来てくれ》

「塔?」

《いずれ見えてくる》


 機械のコマドリは空のかなたへと飛んで行ってしまった。


 しばらく進むと、急に開けた場所に出る。

 花畑だ。

 黄色、ピンク、白、紫、水色、薄黄緑色・・・

 風にさわさわと揺れる花の間から、女達の笑い声が混じった歌声が聞こえてくる。


 絵に描いたような美しい光景。


 薄暗い森から花畑に出ると、たくさんの光が眩しくて目を細めた。


 円形の噴水に、それを囲む堀状の池。

 ドーナツ型だ。

 そこでタイプの違う美女達が集まり、歌っている。

 一番若い女は少女と呼べる年齢で、彼女の歌に合わせて美女らがハミングをしている。


「こんにちは」


 突然のことで驚いたのか、女達はいっせいに振り返る。

 警戒しているのか、知的そうな美女が固い声で言った。


「どなた?」


「塔に行きたいんですが・・・」


「新人さん?」

「新人?」

「あら、違うの?」


「ねぇ、それ・・・あなたそれ、銃じゃなくて?」


 赤髪の少女が、灰色の目で腰の辺りを見ていた。


「あぁ・・・ええ・・・」

「まぁ」

「どうして武器なんか」

「兵士さん?」

「でも私服よ」

「私服の兵士さんかしら?」


 白髪に緑色の目。

 黒肌に柔らかそうな厚い唇。


 なめらかな白肌。

 すらりとした足が隠れていそうな、ロングスカートの女。


 本物の花よりも魅力的な華やかな花達。


「いえ・・・僕は・・・迷い込んでしまったみたいで・・・」


「迷子なの?ふふふ・・・大人なのに」


「ここに迷い込む?一体どうやったら、そんな器用なことが・・・?」

「さぁ?僕にもよく分からなくて・・・管理人さんが塔に行くようにと」

「管理人さんが・・・?」

「だったら信用してもよろしいんじゃなくて?」

「姫様がおびえないんですから、悪い人間ではないと思います」


「・・・姫様?」

 僕は聞く。


「何かしら?」

 少女は花がほころぶように笑った。


「それはあなたの愛称ですか」

「いいえ?愛称ではなくて称号・・・身分をあらわす言葉ですわ?ミスター」


「称号?」

「あなた本当に私服兵士ではないようね?」

 知的美女が言う。


「王様の娘を『姫』と呼ぶのよ?ミスター」


 姫は編んでいた花輪を隣の黒肌美女の頭に飾りながら言った。


 ロングスカートの地味目の女。

 清楚美人の冷ややかな瞳が、こちらを窺っている。


 赤髪の姫はマーガレットを摘むと、その香りをかいだ。

 数年後に会いたいな、と思わせる美少女・・・。


 ここまで美人がそろうと、夢と現実の中間に迷い込んだ気分になる。


「それは・・・失礼しましたプリンセス。ご無礼をお許しを」


 彼女はアリスと同じ症状なのかな、と思いつつ、帽子を取って胸に当て、挨拶。


「よくってよ。知らなかったんですもの。塔はあそこよ」


 姫が示す方向に、木々から頭だけを見せた人工物がある。

 灰色の塔。

 あそこに管理人がいるらしい。


「じゃあ、失礼します。プリンセス」

「ねぇ、ミスター。お時間があるならお茶会にご一緒しませんこと?久しぶりのお客様だもの。外の話が聞きたいわ」


 聞かれると、困る。


「申し訳ありませんが、先を急ぎますので・・・」

「そう。残念だわ。気が変わったらいつでも声をかけて下さいませね」

「ええ。では・・・」

「お気をつけて。イタズラ好きの看板があるわ」


 清楚美人。

 その禁欲的ストイックなロングスカートの中に銃が隠されているだろうことに気づく。

 気づかないふりをする。


 その細い手がスカートの中に伸びない内に、僕はその場を離れることにした・・・。





                                                   

 ―歌う花達―



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