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蝙蝠 bad umbrella 傘 01


 次は・・・

 ・・・・・・・・・・・君はコウモリって生き物を知ってる?


 ギザギザの黒い羽を持つ、

 動物・・・


 ・・・鳥?


 あれ?

 どっちだっけ・・・?



 君は知ってる?


 白いコウモリを。





 『裏切り者』の、童話を―・・・。








 〈蝙蝠 bad umbrella 傘〉




 ごつごつとした岩に囲まれた、山の麓。

 崩れかかっているのか、それとも隠すために積んであるのか。

 絶妙な岩山の配置をぬいくぐり、飛び降りる。


 遺跡のような荘厳さと、

 廃墟のような不気味さ。


 隣の街に行く、一番の近道があるという洞窟。

 その手前に広がる、小さな広場・・・。


 怪物の口のように開いた暗黒を見つめ、旅人は立ち止まった。


 途中で拾っておいた枝に火をおこし、洞窟の内部を照らしてみる。

 女の悲鳴のような、狂者の笑い声のような鳴き声。

 大量の、耳を打つようなバサバサという羽音。


 まいったな。


 と、旅人は思った。


 洞窟の内部、その少し先に、白く大きな骨が倒れている。

 馬らしきものと・・・人間のもの。

 洞窟の中にいるヤツらのしわざだろう。

 この洞窟を地元の人間が使わなくなった理由。


『入った者は、二度と出ては来られない・・・』


 その噂は、あながち間違いではなさそうだ・・・。


「どうしたものか・・・あれだけの数に襲われたら、ひとたまりもない」


「お困りですか、旅人さん?」


 旅人は驚いて後ろを振り向いた。

 そこにいたのは、岩の一つにしゃがみこみ、こちらを見ている細面の少年。

 旅人は言葉を失った。


 アレは白い悪魔か?


 美しい顔をした少年は全部が白い。

 象牙色の肌を持つ女よりもなお白く、髪も肌も、瞳の色も純白。

 そして細い背中からはえている、大きなコウモリ羽も純白だ。


 人間ではない『何か』が、人間の言葉で喋った。


「ここは通らない方がいい。あそこから逆さにのぞいているヤツらは、迷い込んだ者の血を一滴残らず吸いつくす。戻るなら急がれた方がいい」


「どうしても・・・?」


「もうすぐ本当の夜が来る・・・夜はヤツらの味方。ヤツらの手先・・・あるいはヤツらこそ、夜の傀儡・・・危険を理解したなら、走って街まで帰りなさい。それでも間に合うかどうか、分かったものじゃないけれど・・・」


「ご忠告ありがとう。でも、街には戻れないんです。ちょっと騒ぎを起こしてしまって・・・ここに隣の街までの近道があるというのは本当ですか?」

「ええ。本当ですよ」

「では、行かなくては」


「殺されますよ」


「殺されない方法はないのですか?」

「ありますよ」

「どんな?」

「わたしに守られる」

「守ってくれるんですか?」

「いいえ」

「肩透かしですか」

「どちらかと言うと、ぬか喜び」

「ひとをからかうのがお好きのようで」

「からかうより、食う方が好きですね」

「人を食ったような喋り方?それとも本当に人を食べるのですか?」


「気に入った人間しか通さない。気に入らなければ、ヤツらに襲われるのを笑って見ているだけです」


「あなたはヤツらの親玉?」

「わたしは誰も束ねない」


「この洞窟の守人ですか?」

「わたしは誰にも、何にも属さないのです」

「僕もです」

「あなたも?」

「ええ。僕には行くべき場所も、帰るべき場所もない・・・」


「ほう・・・立ち話もなんでしょう。お好きな所におかけなさい」


「・・・そうですね。どうせもう、あなたに気に入られる以外、助かる道はなさそうだ」

「その通り。かしこい人間は好きですよ」

「気に入りました?」

「もしかすると、気に入られる方向」

「では希望を持ちましょう」

「ふふん。余裕ですね?」

「いいえ。慌てる余裕すらないのです」


 旅人は広場の真ん中に火を起こした。


「あなたは人間ではありませんよね?」

「ええ。しいて言うなら、あなたを見つけてヨダレを垂らさんばかりの、あそこの生き物に近い。ええ、とてもね」

「コウモリなんですね?」

「ええ」

「どうして白いんですか?」

「みんなと同じ色は嫌なのです」

「目立つでしょう?」

「ええ。結果的には・・・個性を優先すると、団体から抜けてしまう。目立ちたいわけではないのですが目に付く姿ではありますね」


「あなたの名前は?」


「名前などありません。呼びたいなら、どうぞお好きに」

「じゃあ・・・・・・”白いコウモリ”さん?」

「なんでしょう?」

「いえ、呼んでみただけです」

 白いコウモリの微笑。

「あなたが女性だったらよかったのにな」

「人間の?コウモリの?」

「どちらでも。コウモリなら嬉しいし、人間なら若い女がいい。子供を産んだばかりのが一番、美しいならさらにいいが・・・贅沢を言ってられないな。最近は狩りがむずかしい」

「あなたも血を吸うのですか?」

「もちろん。コウモリですから」


 コウモリは純白の羽を動かしてみせた。


「どうして、みんなと同じが嫌なのですか?」

「・・・あなたは、『裏切り者のコウモリの話』をご存知か?コウモリは動物か、それとも鳥なのかが問題になった・・・」

「ええ。最後にはどちらにも受け入れられず、夜の世界、洞窟に閉じこもり、コウモリだけで住んでいる・・・」

「そう。コウモリは”コウモリ”という生き物なのです」

「それで・・・あなたは?」

「コウモリは、自分達を『裏切り者』だと言った生き物を許していない。昼の間は寝ているか、悪口を言い合っているか・・・洞窟と夜しか、世界を知らないヤツらだ」

「でも・・・あなたは違う?」

「そう。わたしは元々、あの洞窟の中にいたんですよ」


 数秒の、間。


「わたしはみんなとは違った・・・どうして我々は『裏切り者』と呼ばれなければならなかったのか・・・我々に悪い所はなかったのか。仲直りの道はないのか。みんなが悪口を言っているのは、本当にそう思っているからなのか。それともみんなが言っているから、のけ者になるのが嫌で、合わせているんじゃないのか。わたし以外に、同じことを考えている者はいないのか・・・わたしだけが、そんなことを毎日毎日、考えていたのです」


「その時にはもう、体は白かったのですか?」


「いいえ。だんだんと、だんだんと、色が薄くなって・・・闇の中でも目立つようになると、みながわたしの変化に気づき、わたしを遠ざける者が出てきました。わたしを黒くしようと頑張ってくれる者もいました・・・。わたしは嬉しい反面、黒に戻りたくないと思っていました」

「なぜ?」

「さぁ?みなと同じが嫌だったのか・・・それともわたしは、生まれながらに異質だったのでしょう」

 

 コウモリ少年は自分の羽を撫でた。


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