砂漠(スト)02
「おじさんは帰れないの?」
「盗賊が悪さをしなくなったら、帰れるかもしれないね」
「ここに住んでいるの?」
「〝住みついて〟いるのさ」
「・・・どういうこと?」
「食べ物も飲み物もないのに、人間が生きていけると思うかい?」
「うぅん」
「つまりそういうことだ」
「・・・どういうこと?」
「つまりわたしは〝生きていない〟ということだ」
「・・・え?」
「俗に言う、幽霊ってやつだよ」
「・・・・・・・・ええっ?うそだ!」
「嘘?なぜ?」
「だって・・・足がついてる・・・」
「幽霊に足がついていたらいけないのかい?」
「いけなくないけど・・・」
「じゃあいいじゃないか」
「・・・・・・・・・・うん」
中年紳士をじっと観察。
新聞は妙にくたくたで、日付も今日のものじゃない。
「お化けって顔がグチャ~ってなってて、人間をおどかして、お菓子をあげないとひどいことしたりするんじゃないの?」
「わたしは甘いものが苦手でね」
「そうなの?僕は好きなんだけど・・・」
「それに君、『お化け』は心外だ。せめて『幽霊』と言いたまえよ」
「何が違うの?」
「何か雰囲気的に」
「・・・・・・」
「そんなに怖がらなくても、わたしは子供をおどかす趣味はないよ」
「怖がってないです。呆れてたんです」
「そうか。ならば問題ないな」
「ないの?」
「ここにいるのは野良ラクダくらいだから、まともな反応が返ってくれば何でも嬉しいんだ」
「野良ラクダ・・・」
「ちょっと性格がやさぐれててね。話しかけるとツバを吐きかけて来る」
「やなヤツですね」
「そう。やな奴だ」
男は目尻にしわを寄せて笑った。
朝方。
まだ空には、うっすらと星が浮かんでいる。
「行くのかい?」
「うん」
扉を開けると冷えた空気が迎えてくれる。
砂に着地すると、扉の前に立っている紳士を見上げる。
「泊めてくれてありがとう」
「なに、かまわんさ。久々に楽しい夜だった」
「ほんと?」
「ほんとうだとも」
「・・・・・・おじさんも一緒に行かない?」
少し驚いた様子の紳士は、苦笑いの微笑を浮かべたままかぶりを振った。
「行けないよ・・・」
「そう・・・」
少年はふと、横倒しになった列車が気になった。
紳士が切り離したという、連結部分に回りこんでみる。
「やめておきたまえっ。そこには・・・」
紳士の忠告を無視して走る。
すぐに、
ピタリと足がとまった。
茶色の山高帽が砂の上に落ちている。
砂と列車にはさまって、大人の腕がのびている。
「これは・・・」
「わたしさ」
振り返ると、そこには死体と同じスーツを着た紳士が立っていた。
「これで分かったかい?」
「何を?」
「幽霊より、はるかに生きている人間の方が怖い―・・・ってことをさ」
「うん・・・そうだね」
少年は言う。
「おじさんは息子さんに会いたくないの?」
「会いたいよ。死ぬほどね」
「じゃあ会いに行けばいいよ」
「会いに?」
「そう」
「無理だ」
「どうして?」
「わたしは怖いんだ。わたしが家に帰って、息子に怖がられたらと思うと・・・死んでも死にきれないよ」
「大丈夫。帰ろうよ」
「しかし・・・」
「僕と一緒に」
フード付きのマントはボロボロで、食料と水はあとわずか。
一面に広がる砂漠を、線路沿いに歩いて来た。
サビが浮いて、赤茶けた道。
砂に埋もれ途中の道は途切れているが、それでも少年は歩いていく・・・。
ふたりで。
―砂漠―




