砂漠(スト)01
・・・・・・・・・・・・意外だった?
でも、うそは言ってないよ?
だって、
『一人のひとを思い続ける女の子の話』
だったでしょう?
さて、次は・・・
そうだなぁ。
うん・・・
アレにしよう。
謎の紳士と、少年の話。
〈砂漠〉
少年は顔の前で両手をすり合わせると、息を吹きかけた。
寒い。
昼間はあんなに暑いのに・・・。
フード付きのマントはボロボロで、食料と水はあとわずか。
一面に広がる砂漠を、線路沿いに歩いていた。
サビが浮いて赤茶けた道。
砂に埋もれ途中の道は途切れているが、それでも少年は歩いて来た・・・。
目の前をまっすぐと伸びていく線路沿い。
そこから外れた砂漠の中に、
列車が二両、
どうしてか残っている。
最後尾に繋がっているもう一両は横倒しだ。
すでに藍色の空に星が瞬き始め、気温も下がってきた。
昼間は五十度。
夜は零度までに下がる。
どうしてもあの列車に泊まりたい。
でも・・・
あやしい。
灯りが煌々とついている。
誰かいるみたいだ。
もしかしたら、
盗賊かもしれない・・・・・・
でも、
そうじゃなかったら?
少年は恐る恐る、なるべく自分の影が明かりに映らないように列車に近づいた。
「やぁ」
少年の肩がびくりとは跳ね上がり、草食動物並みの素早さで後ろを振り向く。
そこにいたのは、茶色の山高帽をかぶり、茶色のスーツを着た中年の紳士だった。
「こんばんは」
紳士は持っていた杖で、帽子の鍔を少し上げてみせる。
「どうしたんだい、こんな夜に。迷子かな?」
恐怖。
少年は唾を飲み込んだ。
不審がられているのが分かったのだろう。
中年紳士は苦笑すると、少年を通り越して最後尾の列車に乗り込んだ。
逆光になってほとんど顔の分からない人影が振り返る。
やわらかな渋い声が言った。
「よかったら上がっていきたまえよ」
それきり紳士は顔を見せなかったので、少し考えてから少年は決意した。
よし、入ってみよう。
手すりをつかんで左側に傾いた列車にのぼると、中年紳士は新聞を読んでいた。
広げた新聞紙からはみだした、組んだ足と山高帽の先っちょが見える。
「寒いだろう。閉めたまえ」
少し怖かったが、少年は遠慮がちに扉を閉める。
背中に扉をピッタリとつけ、中年紳士を観察する。
「久しぶりの客人に申し訳ないんだが、おもてなしできるものが何もなくてね。宿に困っているなら泊まっていくといい」
「あなたは・・・どうしてここに?」
「旅の途中さ」
「ひとりで?」
「今はね」
「この列車はどうしてここに?」
「切り離したのさ」
「誰が?」
「わたしが」
「あなたが?」
「そう」
「どうして?」
「切り離したかったから、さ・・・」
中年紳士は新聞をたたみ、座席に置いた。
「そんな所に立ってないで、好きな所にお座り。今日はわたしと君の貸切だ」
警戒しながらも扉に一番近い座席に座ると、久々にクッションの感触を思い出して体が喜ぶ。
それに気づかれないように、少年は固い顔を保った。
「他に大人はいないの?」
「いないよ」
「本当にあなた一人だけ?」
「疑っているのかい?」
「・・・ちょっと・・・」
「はははっ。正直な子だ。大丈夫。誓ってわたしは一人きりだ」
何が大丈夫なんだろう?
不安だ。
「どうして君は一人でこんな所を?ご両親は?」
「いません」
「・・・それは・・・・・・どういう意味だろうか」
「僕は今、迷子中」
「ああ、そういう意味か」
「僕は今迷子中で、両親は死にました」
数秒の沈黙。
「それは・・・いつ?」
「二日前」
「・・・なぜ?」
「盗賊にやられたんです。両親も旅の仲間も。僕だけが助かったけど、ここがどこなのか、どこに行けばいいのか・・・分からないんです」
「そうか・・・わたしもだ」
「おじさんも?」
「そう。わたしもだ・・・」
「おじさんは盗賊?」
「わたしが?まさかっ」
少年はうつむいた。
「・・・ごめんなさい・・・人に会えたのは嬉しいけど、人に会うのは怖いんです・・・」
紳士は気まずそうに咳払いをした。
「君の気持ちはよく分かる・・・やはり今日は泊まっていきなさいね。盗賊が来たらわたしが追い払ってあげよう」
「どうして親切にしてくれるんですか?」
「君に死んで欲しくないからだよ」
「どうして?」
「君ぐらいの年齢の息子がいるんだ」
「どこに?」
「今頃は街かな」
「会いには行かないの?」
「行けないんだ。心配事があってね」
「どんな?」
「盗賊さ。またヤツらが悪さしないか心配で心配で、わたしはここから動けないんだ」
「・・・『また』って?」
「盗賊はいつも悪さするものさ」
「もしかして・・・この列車も?」
「そう。君は頭がいいね・・・君がここに来る前、盗賊は列車を襲った・・・わたしと、わたしの家族と、他の乗客を乗せたこの列車をね」
最後尾から侵入して来た盗賊を入れまいと、わたしと男達は必死に戦ったよ。
荷物を投げたり、ナイフやフォークを振り回したりしてね。
それはそうだ。
なんて言ったって、ここらに出る盗賊は残酷で有名だ。
女も子供も関係なく殺すし、殺す前に死んだ方がマシだと思うようなことをされる。
「うん。僕もされた」
・・・・・・だからわたしは乗客を奥へ奥へと逃がし、最後尾とその前の車両を空にして、わたしはそこに残り、乗客が乗っている車両を切り離したんだ。
列車は急速に失速。
後ろを走っていた盗賊の車両と激突。
運悪く線路はカーブを描いていた。
車輪が浮いて。
バランスが崩れた。
滑って。
転がって。
着地・・・
「だからこの列車はここに・・・」
「そういうことだ」




