階段 02
思わず拳を振り上げると、手首のアクセサリーが揺れた。
アンティークの十字架が付いている祖母の形見で、とても気に入っている。
接続部分がゆるくなっているので、そろそろメンテナンスに出す予定だ。
地上に出るには、けっこうな数の階段を上らなくてはならない。
もちろんエレベーターもあるが、最近運動不足だ。
どちらが楽かと言えば、当然運ばれる方だけど・・・
でも、頑張ろう。
頑張れ、私っ!
私は地下から出て、階段をのぼりだした。
空が眩しかった。
片手を目の前にかざすと、手首の十字架がぶつりと切れて、階段を跳ねた。
「あっ」
十字架は小さい光を反射させながら、階段の真ん中あたりまで降りた。
ちょうど段差の広さを余分にとってある空間で止まり、私を待っている。
面倒くさいが、そこまで引き返した。
しゃがんで十字架を拾うと、薄暗い影がかかった地下から視線を感じた。
こちらを見上げているのは、
男性だった・・・
先輩似の、
でも、先輩ではないひと・・・。
先輩ほどじゃないけど、ちょと・・・かっこいいかも。
彼はじっと、私を見つめている。
気のせいかと思ったけど、明らかに私を見ている。
黒い瞳が私だけを・・・
どうして?
当然の疑問と、ほんのりとした期待がふくらむ。
お茶にでも誘ってくれるのかな?
その不思議な魅力を宿す瞳に囚われて、動くことができない。
鼓動が早くなる気がする・・・。
彼がゆっくりと、
階段を上ってきた。
周りの雑踏や雑音が間延びして聞こえている。
その中で、彼の足音だけが鮮明に聞こえてくる。
私の後ろから、階段を全力疾走で下りて来る野球少年がいた。
周りが見えていないようで、私の横をドタドタ通って、彼の肩をかすめていく・・・。
いや。
肩同士がぶつかった?
重なった?
何だろう、今のは・・・
半透明になって、肩を通り抜けているように見えた。
少年は彼にあやまることもなく地下に消える。
あやまるどころか、彼の存在に気づいていないようだった。
・・・目の錯覚?
彼も少年に興味がないようだ。
私の目の前まで来るとしゃがみこみ、具合を確かめるように靴紐に触れた。
「なぁ、俺のこと・・・」
上目遣いで私を見た。
猫科の猛獣のような、妖しい瞳だ。
「見えてるんだろう?」
頭の中が真っ白になった。
胸のあたりからイヤなものが染み出してくる・・・。
いや。
実際には、
そんな気がしただけだ・・・。
「見えているなら救いようはある。俺は花屋だ。好きな花ぐらいは供えてやろう」
「・・・え?」
「だから早く、成仏しろ」
雷を浴びたような衝撃。
封印していた記憶が蘇って来る・・・。
私は
先輩に告白しようとした
その日・・・
事故で死んだ。
―階段―




