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木陰(モア)03


 ああ・・・

 言い忘れていたけど、

 最近の世間では洋服と和服をかけ合わせたファッションが好まれている。


 私はもっぱら洋服派。

 恋人は気ままに両方を楽しんでいる。


 恋人は今日も和洋折衷な格好だが、『そこらへんのものを羽織った感』がすごく出ている。

 しかし、それが似合うのだから不思議だ。


 恋人はファションに興味を持つタイプじゃないけれど、本当は全て計算されたものではないかと言うぐらいに似合っている。

 生まれつきにセンスがいいのだろうか。

 これでもかっ!

 と自己主張した煌びやかな服よりも、デザインは地味だが質のいい生地が似合う・・・。





 この話で私が何を言いたいのかと言うと、

 なんのことはない。


 つまりは・・・



 『のろけ』だ。


 一度通したソデは二度と通さないという者もいる中、恋人はそういった見栄や外聞をまったく気にしない人間だ。

 少なくともそう見えているが、何を考えているかつかめない所があるので、本当はそうじゃないのかもしれない。

 私が言えることは、恋人の精神構造はとても複雑であるために表現が追いつかず、無造作に見えてしまう言動が多い、ということだ。

 本人を前にしては、

 絶対にっ、

 絶対に死ぬまで言わないだろうが・・・

 私としては・・・

 そこがまた、

 いい。


 ああ!

 またのろけてしまった。


 顔が熱い。

 誰に聞かれているはずもないのに、何となく恥ずかしくなって、コホン、とせきばらい。


 ・・・・・・・・・・・・・・ん?


 どこからか舌打ちが聞こえたのは気のせいだろうか? 



 私はアリの行列をしばらく見つめていたが、それにも飽きて恋人の本を読むことにした。

 ひざを立てて支えにすると、片手でページをめくりながら歴史書に目を通す。

 顔をうつむけた状態でいると、うなじが日差しにさらされて、ちりちりと焼けてきた。

 いつの間にか夢中になり、日傘の位置がずれていたらしい。

 首筋にうっすらと汗が浮いているのを感じた。


「歴史的な大きな一歩・・・」


 そう呟いていると、小さなため息と、大きな身動ぎを背中ごしに感じる。

 ふと左手が軽くなり、日傘が奪われた。


 かすれた恋人の声―・・・


「ずっと差していたのか?」 

「・・・まぁね」


 恋人は寝ぼけているようで、気だるげにため息を吐くと、私の首に抱きついてきた。

 体重がのしかかり、前のめりになる。

「重いよ・・・熱いし・・・」

「ありがと」

 耳元でささやかれると、さすがに恥ずかしくなって肩をすぼめた。

 耳が熱い。

 恋人は私を解放すると、他人事のようにあくびをして背伸びをした。

 私だけがやきもきしているようで、何だか腹立たしい・・・。


 ちゃんとした交際の宣言が私達の間にはないので、私の気苦労は人一倍だ。

 嫌われてはないし、むしろ好かれている自信はある。

 しかし幼馴染みゆえに、これまでの関係が崩れてしまうのではないかという不安が常にある。

 私は恋人であることを望んでいるけれど、あちらの気持ちをはっきりと聞いたことはない。

 怖くて聞けないのだ・・・。

 だが、

 そろそろ決めなければ・・・、

 という思いもある。 


 最近は両親が、

「結婚しなさい」

「早く孫の顔を見せろ」

 とうるさいのだ。


 私よりも長生きしそうな仲のよい両親に言われても、弟か妹を作った方が早いのではないかと思うのだが、両親の年齢上、それは無理に決まっている。


 男はある程度の年齢までなら、独身であっても問題はない。

 しかし女の場合は、世間体を抜きにしても、肉体的な『結婚適齢期』というものがある。

 世継ぎを必要としている両家にとって、それはとても重要な問題だった・・・。

 恋人の両親は数年前に流行病で他界したため、恋人が家を継いだ。

 私にもきょうだいがいない・・・。

(無論、腹違いがどこかにいるのかもしれないけれど)


 今は二人とも、表立った跡継ぎ同士なのです・・・


 神様・・・もしいるんだったら、健康で年上で血のつながった兄をください。


 その時の私は、半ば本気で願いをこめていた。


 ん?年上の兄?

 兄はたいてい年上だろうに。


 あとで気づいて、自分のアホさ加減に落ち込んでしまった・・・。

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