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木陰(モア)02


 恋人は何を読んでいるのかと表紙を見てみると、こむずかしそうな歴史書だった。

 来月の私の誕生日のために買い物に行ったと聞いていたのに、どうして衣類やアクセサリーではなく、ましてや私の趣味ではない書物が大量に増えているのだろう?

 おかげで、近々書庫を増築しなければならないらしい。

 だから周りから『本の虫』と呼ばれているのに、本人は気にしていないようで・・・。


 いや・・・


 そう呼ばれていることに本人が気づいているのかさえ、どうも怪しい・・・。


 幼馴染の延長で恋仲になったためか、私には素っ気無い態度の恋人である。

 どこに惚れたのだろうと首をかしげる時もあるけれど、寝顔を見ているだけで、全財産を投げ打ってでも『寝顔独占権』を買い占めたいと思ってしまうのだから、我ながら変わった趣味だと思う。

 周りの友人からも、

「どうしていまだに一緒なんだい?」

 とよく聞かれる。


「君の容姿なら、もっと別の相手がいるだろう?」


 と言うような話だ。


 自分でも、私の顔が普通より、水準の高い顔立ちであることを自覚している。

 してはいるが、『自覚している』のと『自慢に思っている』のとは太陽と月ぐらいに違う。


 私はこの容姿のためにしなくてもいい苦労をしてきているので、自分のことを可愛いと思えないところがあるのだ。



 そう言えば恋人は、容姿や身分を気にせず生きている人だから、そこに惹かれたのかもしれない・・・。



 私は異国人との混血が明らかな顔立ちをしている。

 この国ではあまり多い人種ではないので、奇異な目で見られることもしばしばあった・・・。


 いや。

 正直に言うと、現在でもある。


 恋人は世間のように私を見ることがなかったから、今も続いているのだろう。



 まったく、うらやましい人だ。


 

 

「んん・・・」



 恋人が身じろぎすると、かぶっていた着物の羽織りがずれた。

 私は空いている方の手でそれを直してやり、無邪気な寝顔を見て微笑した。

 こうして見るとなかなか整った顔立ちをしているのに、世間の目は節穴だ。


「君の幼馴染は偏屈だ」


 と酒の席で友人に言われたことがあったけど、それは違う。

 まったくの誤解だ。


 私の恋人は偏屈なのではなく、

 とびきり変人なのです!


 ・・・・・・それは、まぁ、過去をふりかえれば、数々の珍事が走馬灯のように思い起こされるけど、悪事を働いているわけではないので、慣れてしまえば大したことではない。


 さすがに公園の川に橋から飛び込んだり、

 いい年をして木登りをしてうえ足を滑らせ骨折したり、

 お茶会で主催の婦人にカップの中身をぶちまけた時は眼球が飛び出るかと思ったけど・・・。


 しかしそれも、川で溺れそうになっている子供を助けるためだし、

 木の上から降りれなくなった震える子猫を助けるためだし、

 婦人のドレスの上を歩いていた、いかにも毒を持っていそうな色鮮やかな蜘蛛を退治するためだったのです。


 肝心な部分だけがいつの間にか抜けて、妙な噂だけが一人歩きする・・・。


 もしかすると誰かが悪意をもって操作しているのかと思うと、腹立たしいことこの上ない。


 穏やかな性格の私にしては珍しく、犯人を見つけて日傘で叩いて、ヒールの底で煙草をもみけすようにぐりぐりと踏んでやろうか、というぐらいに許せないことである。

 着物の帯で縛って、何か重いものを入れた巾着袋で叩いてやるのもいいかもしれない・・・。


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