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木陰(モア)01


 次の話は、ある悩みを抱えているこの話だよ。



 主人公には好きなひとがいて、

 そのひとは・・・                


 いや。


 多くを語るのはやめよう。



 

 タイトルは『モア』。どこかの国では、木陰という意味らしい。





 〈木陰 (モア)〉 



 また、

 いつもの所にいるらしい。


 私はため息を吐いて中庭に向かい、思った通りあのひとが長椅子に横になっているのを見つけた。

「まったく・・・」

 読書の途中で眠ってしまったらしく、顔の上に本の屋根がかぶさっている。

 ちょうど苦しそうに唸ったので、本をそっとどけてあげた。

 それで起きるどころか、気持ちよさそうに寝息をたてはじめたけど、いつものことなので気にしない。


 ああ、私はなんて優しい恋人さんなんでしょう。

 と、自分で自分をほめてみる。


 中庭には二人きり。

 聞こえてくるのは小さな寝息だけ。


 反応なし・・・


 ちょっとだけ、

 ちょっとだけさびしかった・・・。



 一度寝るとなかなか起きないのは長年の付き合いで知っているので、今度は午後の日差しが気になった。

 夏の日差しを長時間浴びるのは危険だと言っているのに、どうやらここでの昼寝をやめる気はないらしい。


 おバカさんめ・・・


 空は澄んだ水色で、遠くに入道雲が浮かんでいる。

 風に遊ばれる葉の色は濃い。


 地面にハンカチを敷いて座ると、長椅子のへりに背中をあずけた。

 持っていた日傘を広げ、私と恋人の顔に影ができるようにさす。

 顔をあげると、レース生地の内側には視界いっぱいに白い光が満ちていた・・・。


 綺麗だなぁ。


 心地よい風が髪をなでていくと、周りにはえている木々の葉がさわさわと揺れた。

 地面に映る木の葉の影はすぐに形を変え、小さな光がいくつにも別れて踊っている。

 蓮華が浮いている小池の水面が、太陽の光に反射してまぶしかった。

 その小池の中で泳いでいる赤い小さな人魚達は気まぐれに群れをなして、丸い葉の間から背中をのぞかせている。

 しっぽが水面を叩き、ポチャンと音をたてた。

 細かな波紋が広がってゆく・・・。

 

 『人魚』と言うのは内戦後の爆戦地付近で発見された、上半身がみごとに人間の擬態をしている突然変異の魚のことだ。


 味は・・・・・・最悪。


 一部の珍味好き以外には観賞用として飼われている。

 

 池で泳いでいるのは祭りの時に『人魚すくい』で手に入れた最小級の新種で、二・三匹なら片手におさまってしまうサイズ。

 細い髪がゆれて、極小のうろこが光る。

 オスが両手で投げキッスをしてメスに求愛しているのを見て・・・


 ため息。


 ひざに置いてあった本が風のイタズラでぱらぱらとめくれた。

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