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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

悪人

作者: いかぽん
掲載日:2021/07/23

 新しい街についた旅人の私は、露店や屋台が立ち並ぶ、賑やかな通りを歩いていた。


 多くの人でごった返していて、暑苦しいが活気がある。

 私はこういった、旅情を感じる素朴な風景が好きだ。


「このクソガキ……! おい、泥棒だ! 誰か捕まえてくれ!」


 そのとき、屋台にいっぱいのりんごを積んで売っていた、露天商の男が叫ぶ。


 屋台の方からは、一人の少年がするすると雑踏をくぐり抜け、こちらへと走ってくるのが見えた。


 年の頃は、(とお)にも満たないぐらいか。

 薄汚れた格好をしていて、衣服も襤褸(ぼろ)である。


 少年は腹を出し、服のすそを持ち上げたものを袋代わりにして、たくさんのりんごを運んでいた。


「どけよ! 邪魔だおっさん!」


 少年は私をよけて、その横を通りすぎようとする。


 私はとっさに少年の腕をつかんで、彼を引きとめた。

 少年は私に捕まり、たくさんのりんごが地面に転がり落ちた。


「何すんだよ、おっさん! 放せよ!」


 少年は暴れ、わめく。

 私は少年の腕をつかんだまま、彼に質問する。


「少年、どうしてりんごを盗んだりしたんだ」


「食うもんがねぇからに決まってんだろ! 妹が病気なんだ! いいもん食わせてやらねぇと……!」


「親はどうした」


「そんなもんいねぇよ! 俺が捕まったら妹が……! 放せっつってんだろ!」


「なるほど」


 そこにりんご売りの男がやってきた。

 男は私に頭を下げる。


「ありがとう旅の人、助かったよ。──おらクソガキ、こっちに来い! 売り物のりんごをこんなにしやがって。ただじゃおかねぇ」


「待ってくれ店主。このりんごの代金は、私が払おう。ここは私に免じて、この子を見逃してやってはくれないか」


 私は男に、りんごの代金より多めの銀貨を手渡した。

 男は目を丸くして、次には「へぇ、旦那がそう言うなら」と引き下がって、屋台の方へと戻っていった。


 私は地面に落ちたりんごを拾いつつ、少年に言う。


「少年、キミに事情があるのは分かった。だが盗みは悪いことだ。金輪際(こんりんざい)、こんなことはするんじゃないぞ」


 私はそう言って、少年にりんごを渡してやる。

 だが少年は、私を睨みつけてきた。


「はあ? バカじゃねぇの!? じゃあ俺たちに、飢えて死ねって言うのかよ!」


「…………」


 どうやらこの少年は、私に助けてもらった恩を分かっていないらしい。


 少々腹が立ったが、私も大人だ。

 ひとまず我慢して、優しく諭してやることにした。


「盗みなんてせずに、まっとうな仕事をしてお金を稼ぎなさい」


「そんなもんねぇよバカ! 俺みたいなスラムのガキを雇ってくれるやつなんかいるもんか!」


「チッ……。だったら妹の体を風俗で売るなり何なり、いくらでもやりようはあるだろう。人生はつらく苦しいことだってある。逃げていてはダメだ」


「……っ! ふざけんなクソが! あんたたち大人は、いつもそうやって──」


「そろそろ聞き分けなさい。温厚な私も怒るぞ」


 私は少年を殴り、倒れたところで、腹に思いきり蹴りを入れた。

 少年は胃液をげぇげぇと吐き出しながら、芋虫のようになってもだえ苦しんだ。


「……やれやれ。子供だろうと、悪事を働くやつはやはりダメだな。性根が腐っている」


 私は少年を見なかったことにして、その場から立ち去った。


 世の中を良くするというのは、斯様(かよう)に難しいものである。


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― 新着の感想 ―
[良い点] さらっと読んだだけの時は上辺だけしか読み取れず、(旅人)を題名の[悪人]として書いた物語として読んでいました。 よくよく考えて読み返して見たら、これは(子供)を[悪人]として書いた物なのか…
[良い点] 一番胸糞悪い人をそのように描かれていないのですね。
[一言] 風刺作品何ですかね。 続くようであれば楽しみです。
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