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人生という名の電車の終着駅

 ふと目が覚めた。

 何か乗り物に乗っている。それが何なのか、直ぐには分からなかった。しばらく迷った後で「ああ、これは電車だ」と気が付く。

 直ぐに電車だと分からなかったのは、車内の様子が妙に古臭かったからだ。こんなのを喜ぶのはマニアくらいだろう。

 

 ――しかし腑に落ちない。

 俺はいつの間に、電車になんか乗ったのだろう?

 

 今日の仕事は終えた。通勤に電車を使ってはいるが、もう帰宅しているはずだ。夕食を食べた記憶がある。焼き鮭とサラダと味噌汁。鮭は少々失敗をしてしまった。味付けが塩辛かったのだ。それから俺は寝室に行って寛いだはずだ。

 その後、どうしたっけ……?

 そこで思い出した。

 

 「ああ、そうだ。最近、巷で流行っているバーチャル・ライフ・トレインをやってみようと思ったんだ」

 

 間抜けにも気付いていなかったが、俺はVRゴーグルをつけていた。

 バーチャル・ライフ・トレイン。

 通称は短くライフ・トレインなどと呼ばれている。

 ――インターネットが普及し、AIを活用するようになってから、膨大な個人情報がネット上に蓄積されるようになった。しかし、どんな情報が重要視され、どうそれが自分の評価に繋がっているのかを知る術はない。

 守秘義務がどうの、セキュリティ上の問題がどうの。理屈はよく分からないが、それは認められていないのだ。

 馬鹿馬鹿しいし、理不尽だとも思う。

 自分の情報なのだ。何故、知る事ができないのだろう?

 がしかし、その“バーチャル・ライフ・トレイン”を使えば、ある程度はネットに蓄積されたその個人情報を知る事ができるらしいのだ。

 それは電車を模したバーチャル空間で、乗り込んで進んでいくと様々な駅に辿り着く。それら駅は人生の様々なポイントを意味していて、客が入って来る。

 その乗客達は、その時代、俺が関わりのあった人間達で、それで俺は自分の人生を振り返る事が出来るという訳だ。

 もちろん、そいつらは本物の俺の知り合いじゃない。俺がネット上に残して来た記録を頼りにAIが合成した架空人格で、まぁ、幽霊みたいなもんだ。

 別に思い出に浸るような爺さんみたいな趣味はないが、それで俺のどんな情報が残っていて、その内のどんな情報がAIに重要と見做されているか、どう評価されているかがある程度は分かる。充分とは言えないが、それでも価値はあるだろう。

 俺は会社の山井って同僚からそれを薦められて、やってみる気になった。そいつの事は、正直言ってそんなに好きじゃないんだが。

 なんてぇか、馴れ馴れしいんだよ。あいつ。

 だからって訳じゃないが、山井が気のある女を落としてやった。笑える話だが、山井はそれにまったく気付いていないみたいだ。相変わらずに馴れ馴れしくて、この“バーチャル・ライフ・トレイン”を薦めて来たりなんかしたからな。

 まぁ、どうでもいい話だが。

 知らない振りをして、表面上は仲良く接するってのが賢い大人ってもんだろう。

 

 ライフ・トレインのサイトにアクセスをすると、俺は早速その電車の乗り込んだ。ところが、思いの外起動時間が長くって走り出すまでの間でつい眠ってしまった。

 さっきはそれをすっかり忘れてしまっていたのだ。

 電車は今は順調に走っているみたいだった。

 「――しかし、どうしてこんな古臭いデザインなんだろうな?」

 走っている電車の車内を見渡しながら、俺はそんな独り言を言った。

 物心ついた頃の記憶を掘り起こしても、そんな古臭い昭和臭漂うデザインの電車はなかった。外の光景も牧歌的で、どっかの田舎のように思える。もしかしたら、このライフ・トレインってサービスはもっと年配層をターゲットにしているのかもしれない。

 などと思っていたら、車内の様子が変化し始めた。少しずつ近代的に。俺の子供の頃の記憶に近付いて来る。そして、それと同時に車内に人影が現れ始めた。真っ黒な影だが、これは俺とまったく関わりのない人間達を表現しているのかもしれない。

 「……なるほどね。こーいう演出な訳か」

 そこで俺はそう独り言を言った。

 恐らくは時代が進めば進むほど、車内が近代的になり、そして俺の記憶との整合性を取るように変化していくのだろう。

 さっきの古臭い車内は、「生まれる前」という演出なのかもしれない。

 やがて外の景色に駅が見え始めた。最初の到着駅か?と思ったが、電車は停まらず、そのまま通り過ぎてしまった。“幼稚園時代”という駅名が見える。

 流石に幼稚園時代は、俺はネットをほとんどやっていない。だから、情報不足で何も用意できなかったのだろう。

 そう思いながら、俺は「そういや、俺が周りの連中をいじめるようになったのはいつの頃だったけかな?」とそう呟いた。

 小学校低学年の頃、俺は既に誰かをいじめていたような気がする。幼稚園の頃も似たような感じだったのじゃないかと思う。まぁ、だとしたって何の記録も残っていないのだったらあまり関係がないが。

 そんな事を思っていたら電車がスピードを緩め始めた。

 どうやら駅に停まるようだ。

 “小学校高学年”

 駅名はそうなっていた。俺はなんとなく笑ってしまった。

 その頃、初めて親にスマートフォンとノートパソコンを買ってもらったのを覚えている。文字も自由に扱えるようになったものだから、俺はネットを盛んにやり始めたんだ。

 楽しかった。

 ……そして俺は、

 

 電車が駅に停まった。

 小さな影がいくつも電車内に乗り込んでくる。俺はそれを見てとても懐かしい気分になった。

 「おお、いる、いる。

 よっちゃんに、キムチにチャゲ。

 長谷川さんか……、今頃きっと美人になっているんだろうなぁ」

 記憶もおぼろげな懐かしい顔。

 今じゃ、流石に何処に住んでいて何をしているのかも分からない。仄かに芽生え始めた性の中、意識し始めたあの当時の女の子は、なんでか今でも神秘的に思える。

 郷愁に浸る気持ちはまるでなかったが、意外にも、俺はそれを楽しんでいた。お陰で本当の目的を忘れかけてしまっていた。

 仲が比較的良かった連中の後に続いて、怯えるような目で電車内に乗り込んでくる三人の子供の姿があった。

 「田野崎に、小谷、目黒川」

 そいつらを見やって、俺はそう言った。

 「そう怯えるなって。俺もいい大人だ。もういじめやしないよ」

 上目遣い。やや警戒した表情で俺を見るその三人に向けて、俺はそう言った。

 そう。

 小学校の頃、俺はこいつらをいじめていた。ネットも使っていた。掲示板に悪口書いたり、面白い動画や写真をさらしたり。

 だから当然、こうして記録にも残っていて、AIもそれを把握しているのだろう。

 「まぁ、そりゃそうだ。でも、ここまでは予想通りだ」

 そう呟く。

 それからいじめていた三人のうちの一人、目黒川って奴が怯えた顔で近づいて来たので、思わず頭を引っ叩いちまった。

 俺の“いじめ”が、AIに把握されていたと分かって、予想通りとはいえ、俺は苛立ってしまっていたのかもしれない。“しまった”とは思ったが、流石にこれは記録されないだろう。多分。

 やがて電車は再び走り出した。

 走り出すと、徐々に薄くなっていくような感じで俺の小学校時代の知り合い達は消えていった。

 問題は次からだ……

 そう俺は思う。

 ここまでは、社会的に許容範囲内だろう。幼い頃の話だし、過激な事はあまりやっていなかったし。

 やがてまた駅が見え始めた。時代が進んだ事の演出なのか、車内の光景がまた少し変わり、外の風景にもビルなんかが混ざり始めた。電車が緩やかに停まる。“中学校前半”という駅名が見えた。

 やはり同じ様に懐かしい顔が入って来る。ただ、俺が確認したいのはそんな連中の顔じゃない。

 また、最後尾の方で、俺がいじめていた奴らが現れた。

 深田に、薬谷。

 俺はそれを見て「チッ!」と舌打ちをした。やはりこの時代も俺は、まだネットを使っていじめをやっていたらしい……

 

 この頃の俺はまだ子供だった。だから、迂闊だったんだ。

 

 それを見て俺はそう思った。

 “いじめ”は今の時代は特に社会悪として認識されている。いじめを行っていたと知られれば、下手すれば社会的地位を失いかねないほどだ。

 実際、学生時代のいじめがバレて就職が駄目になったり、出世の道を閉ざされたってな奴らがいるらしい。

 冗談じゃない!

 そんな事で人生を踏み外して堪るか!

 俺がネットを使って、つまり記録が残る方法でいじめをやる事のリスクに気が付いたのは、多分、中学の頃だったと思う。仮に世間に知られたとしても、中学生ならば許されるのじゃないだろうか? もちろん、印象は悪くなってしまうかもしれないが……

 

 “中学校後半”

 電車が次の駅に停まった。

 乗客が乗り込んでくる。だが、今度は俺がいじめていた連中は最後尾に入って来はしなかった。普通に仲良くしていた連中に混ざっている。ホッと安心した俺は、その一人に話しかけてみた。

 「いよぉ 久しぶりだな。今は何をやっているんだ?」

 海原というその男は、朗らかな笑顔でそれにこう返した。

 「ああ。今は人材派遣関係の営業の仕事をやっているよ。もし良かったら、連絡を取ってくれ。何かビジネスチャンスにつながるかもしれない」

 俺はそれに目を丸くした。

 まさか、個人情報に繋がるような事を教えてくれるとは思っていなかったからだ。

 驚いてライフ・トレインのマニュアルを確認してみると、SNS等で本人がネット上に公開している情報に限っては質問をすれば個人情報でも教えてくれるらしい。

 そこで俺は思い出した。

 そう言えば、俺も個人情報を公開していた。このサービスを知り合いの誰かが受けていたら…… 否、それ以前に誰かがネットで検索をかけたなら、俺の情報が知られてしまう訳か。

 まぁ、当たり前の話なのだが。

 やがて、電車は高校時代の駅に停まり、大学時代の駅に停まった。その期間も俺はいじめをやっていたが、電車に乗って来た連中の中にそれを匂わせるような態度を執る奴はいなかった。“成功だ”と俺はそれに満足した。

 高校時代以降、俺はネット上に証拠が残るような方法でいじめをやるのは止めていたんだ。

 そんなんで、人生を踏み外すのは、はっきり言って馬鹿のやる事だろう。

 そう思って。

 社会人になって、俺は一回会社を変えているのだが、その駅の連中の態度も特に変わった様子はなかった。もっとも、社会人になってからはもっと巧妙に俺はいじめをやるようになったから、ネットどころかリアルでも俺のいじめ…… 嫌がらせに気付いている奴は稀だろうが。

 パワハラだとか、セクハラだとか、学生時代を遥かに超えるリスクが社会人になるといじめにはあるんだ。

 バレるようなやり方でやるのは、はっきり言ってかなりの間抜けだ。

 そして、俺はそれに成功している。

 ほら、女を取ってやった山井って奴の話をしただろう? あいつみたいな感じで、誰も気が付いていないんだよ。

 多分、俺の人生は安泰だ。少なくとも、いじめがバレて人生を踏み外すなんて事にはならないはずだ。

 俺は大きく息を吐き出した。

 満足だ。安心した。

 そうして満足気な気分に浸っていると、電車のスピードが緩やかになって来た。また駅に停まるようだ。窓から見てみると、どうやら終着駅らしい。

 俺はゆっくりと席を立った。

 始める前は馬鹿にしていたが、思ったよりは楽しめたかもしれない。演出はどうかと思うが、バーチャル空間のリアリティに関しては申し分ない。

 懐かしい顔も見られたし。

 電車のドアが開いた。俺は足を踏み出して電車を降りる。がしかし、その瞬間、俺の足は止まった。目の前に覚えのない顔の男が立っていたからだ。しかも、画像が不鮮明で全体が濃い灰色のようなノイズに覆われている。

 ――なんだ? バグか?

 その灰色は俺の前から動こうとしなかった。仕方ないので、俺はその灰色を無理矢理押し退けようとしたのだがまるで手応えがない。

 本当にバグなのかもしれない。

 そこで声が聞こえた。

 

 「彼は深田信司だよ。君も知っているだろう?」

 

 山井の声だった。

 「君が中学時代にいじめていた人だ。姿形がはっきりしないのは許してくれ。彼はもうこの世にはいないんだ。だから、鮮明な画像が用意できなかった」

 俺は不気味な予感を覚える。

 「なんだ? 山井。どうして、お前がいるんだ?」

 ここはバーチャル空間だ。本物の山井ではないと考えるのが普通だが、今のこの状況はどう考えたって普通じゃない。

 「ハッキングだよ」

 と、その声は答えた。

 「君が“バーチャル・ライフ・トレイン”をやるのを待っていた」

 「うそつけ」

 と、俺はそれに返した。

 俺の中で警鐘が鳴り響く。

 何かが、何かが物凄くまずい気がする。

 「お前にそんな技術があるか。あったら、もっと別の職に就いている」

 ところがそれに淡々とした口調で声は返すのだった。

 「僕がハッキングをやっているなんて、一言も言っていないだろう?」

 そのタイミングで、駅のプラットフォームに黒い影がいくつも浮かび始めた。

 「深田さんは、20歳くらいで死んでしまってね。どうやら自殺だったらしい。神経症を患っていて、ずっと苦しんでいたようだ」

 山井はそう言った。俺は返す。

 「だからどうした? 俺の所為だってのか? 俺が深田をいじめていたのは中学の頃だぞ? 関係あるか!」

 「心の傷ってのは、そんなに簡単に癒えるもんじゃないんだよ。ずっと残る。そして、その所為でコミュニケーションが難しくなり、生きづらくなり、場合によってはそれを克服できず、死に追い込まれたりもする。

 間接的には、君が殺したようなもんだよ」

 「そんなの知るか!」

 俺はそう怒鳴った。すると、プラットフォームに現れた黒い影達が寄って来た。俺はまた怒鳴る。

 「なんだ、お前らは!?」

 すると、山井の声が言った。

 「田野崎さん、小谷さん、目黒川さん、薬谷さん、村上さん、五反田さん。

 君が今までの生涯でいじめ続けて来た人達だよ。知っているだろう?」

 「あ? こいつらも死んだってのか? 俺の所為だってのか?」

 「安心してくれ。彼らは生きているよ。

 ここにいる皆は、一緒に君がライフ・トレインに乗っている様子を観察していたんだ。この中にハッキングの技術を持っている人がいてね。協力してもらったんだ」

 俺はそれを聞いて青くなった。嫌な汗が流れて来る。

 ――つまり、これは罠だったのか?

 山井は続ける。

 「君、僕が好きだった彼女に手を出したろ?

 別にそれは良い。恋愛は自由だ。

 ただ、もし君がろくでもない男だったら彼女が不幸になる。心配になった僕は、君が前にいた会社の人間にコンタクトを取ったんだ。いやぁ、良い時代だよね。SNSで検索をかけたら直ぐにヒットしたよ。

 すると、ある人が、君から嫌がらせを受けていたと教えてくれたんだ。君は上手くやっていたつもりみたいだったが、バレていたみたいだよ」

 その声を合図に黒い影達が大きくなったような気がした。

 「それが切っ掛けだった。

 不安になった僕は他にも君の被害者がいないかと調べてみたんだよ。君がいじめていた人の中には、ネット上に君の実名を書いている人もいてね、検索に引っ掛かった。まぁ、お陰で芋づる式に色々な人に巡り会えたよ」

 そう言い終えると、山井は「アッハッハ」と笑った。乾いた声だった。まるで警告音のように聞こえた。

 「随分と間抜けだなぁ、君は。

 まさか、自分がいじめの証拠をネット上に残さなければ、それで証拠が残らなくなるとでも思っていたのかい?

 君がいじめていた人達だって、君の事をネットに書けるのに」

 「なんだと? そんなのただのデマかもしれないだろうが! 俺への嫌がらせの為のフェイクニュースだ!」

 「アメリカの大統領かい? 君は」

 山井は馬鹿にしたような声を上げた後に、急に真面目な口調になってこう続けた。

 「だが、確かにその通りだ。人違いかもしれないし、嘘の情報かもしれない。

 でも、だからこうしてみんなに集まってもらって、君の“ライフ・トレイン”を見せてもらったんじゃないか。

 ……結果は予想通りだったよ。皆の証言と君のライフ・トレインでの内容は一致した。流石にこんな偶然はないだろう。フェイクニュースとは考え難い。

 呆れたね。君はずっと何処にいてもいじめを繰り返して生きて来たんだ。

 しかも、隠しているって事はリスクがあるって分かっていたんだろう? なのに止められなかった。多分、君は病気なんだよ。いじめに依存しているんだ」

 声は静かに続けた。

 「ただ、だからと言って、僕は…… 否、彼らは君を許す気はないよ。

 ところで、深田さんはさっき僕が言った通り既に死んでいる訳だけど、こうして君と会話ができる。

 もちろん、当時の情報からAIが復元した架空人格ではある訳だけど、それでも実際に話ができる。

 これって、幽霊だとは思わないか? 現代科学は遂に幽霊までも創造してしまったんだよ……」

 

 俺はその山井の言葉の途中で急いでVRゴーグルを外した。スマートフォンを見てみると、いくつもメールが届いている。

 件名、よくも殺したな よくも殺したな よくも殺したな

 送り主は、深田信司。

 馬鹿馬鹿しい。

 こんなのは、ただの嫌がらせだ。

 俺はそのまま直ぐに自分のSNSにアクセスしてみた。すると、そこには俺に過去いじめられていた連中がたくさんの書き込みをしていた。

 俺に金を奪われた話、俺に物を隠された話、俺に彼女を奪われた話……

 俺は慌ててそれらを削除する。

 ふざけるな!

 会社の人間だって、このSNSを見ているんだぞ!

 だが、削除した先から同じ内容が書き込まれていく。追いつかない。くそう…… まずはこいつらをロックして、いや、同じコミュニティ以外からはアクセスできないようにする方が手っ取り早いか……

 そこでスマートフォンのベルが鳴った。

 山井からだった。

 「あっはっは! もう何をやったって無駄だよ。僕が皆に報せちゃったし! 断っておくけど、他の会社に逃げたってどうにもならないからね。

 君は色々な人から恨みを買い過ぎなんだよ。何処にいたって、君の過去の悪行はさらされ続ける!」

 俺はスマートフォンを、思い切り投げ捨てた。

 

 ふざけるな!

 こんな事で、人生を踏み外して堪るか!

 

 そこで気が付いた。

 自宅のベランダ。そこに、濃い灰色の姿をした何かがいる事に。

 『よくも殺したな。よくも殺したな』

 その影はそう言っていた。

 「深田……」

 俺は思わずそう呟いた。

 

 それはあのバーチャル空間で見た深田の姿とそっくりだった。AIが創り出したに過ぎないはずの幽霊。

 

 その時、床に転がっているスマートフォンのメール着信音が鳴った。山井からだった。

 「これが、君の人生の終着駅だよ」

 そこにはそう書かれてあった。

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