<2-2>急がば回れ、回れ、回れ。
待っている間に、幽霊が全て尽くされることなんてないだろう。そう確信していた。何故なら、僕が先程起こしたこの炎があるからである。これは、ある角度から見れば「自分はここにいるよ!」の合図であるが、大火事になれば話は別である。それは、ただのマヌケから、恐怖の対象へと変わる。
真なる目的を探すために、人々は疑心暗鬼になるはずだ、ならば容易に動くものは少ない。
何か、策が込められているかもしれない炎の中には迂闊に入らず、ただ炎を避ける動作が1時間ほど続くとみていたからだ。
魔法陣には、とても便利な効果が沢山ある。防御、転移、回復、保管などなど。僕が知っている魔法陣では、そうな効果が存在している、春花から聞くには、世の中にはまだたくさんの魔法陣が眠っているらしい。僕もこれがどういう仕組みかは分からないのだが。
回復の魔法陣を描き、少しでも早くこの金髪の彼が目覚めるのを願った。予定より少し遅く目覚めた金髪の彼に周りの状況を確認させる。
「さて、君。話をしよう。」
まるで、見てくれと言わんばかりのたくさんの回復魔法陣、埋まった禿頭の彼、それらを見れば直ぐに自分が助けられたのだと錯覚する。
「君が助けてくれたのか。」
「ああ、僕が、君を倒して油断していた彼を倒し埋めた。
僕は君と交渉をしていたからな。」
「なるほど。これは1つ借りができてしまったようだ」
全て練られた罠だとも知らず、彼は僕の話に乗った。
この火事が僕らを蝕まないのがとてもついていた、そして禿頭の彼が僕の思った通り動いてくれたことにも感謝している。何せ、助けて貰えるように、わざと大きな声で助けを呼ぶように、交渉をせがんだのだから。
「君がもしいいのならば、僕と協力してくれないか。
このゲームは、協力者が多いほど有利なゲームなんだ。」
僕は金髪の彼に、このゲームの状況を混じえて説明する。
30体しかいない幽霊、参加者未知数の状況。それならば協力してできるだけ多くの人数を合格させた方が良いこと。
そして、禿頭の彼は僕らの敵、これは共通認識である。悪い事をしたとは思っていない、全ては春花の為だ。
「なるほど。ならば協力関係になろうではないか。俺は柊夜だ。」
「柊夜、よろしく。僕は降真だ。」
僕は手を取りあった、協力関係となった。
もちろん、全てはほんのりと事実を練りこんだ嘘である。
ポーカーフェイスはこれでも上手い方で、僕は生まれてこの方、駆け引きのある対戦ゲームで負けたことがない。
「それで、コーマ。君の能力はなんだい? 俺の能力は、武器を作り出す能力なんだが」
「僕の能力は、ちょっと特別でね。ある人が居ないと使えないんだ……、どうやらはぐれてしまったみたいで……。」
「じゃあまずは、その人を探すのかい?」
「いや、彼女はとても凄い、きっともう目標は達成している、それよりも僕らの分を狩らないと……」
ここは仮想空間である。ゆえに、幽霊もモブのような作られたものなのだろう。そして、柊夜の能力は明らかに殺傷系、温厚にやれるわけも時間もない。
「でも、どうやって探すんだ? 俺が走ってここに来た時は誰とも何ともすれ違ったり見たりはしてないぞ」
「問題はそこなんだ。幽霊は30体、フィールドはおそらく無制限、時間は24時間、既に1時間がたっているから残りは23時間だけど……。
きっとこれは、見つけるってだけじゃない。きっとどこかに何かしらのヒントが隠されているはずなんだ。」
オブジェクトは人を殺せない、つまりこの火事は僕らを死に至らしめることは無い訳だが、それはおそらく幽霊に対しても同じことが言えるだろう。ならば、〝自分は本物であると思い込んでいる幽霊〟は、もちろんこの家事を避けるはずある。幽霊が簡単にこの炎を逃げずに避ける方法、それはひとつ、この空に飛び立つことだ。
だが、空には人の影ひとつ見えやしない。つまり、避けていないという状況と、ここには居ないという状況のふたつが考えられるというわけなのだが。
無制限だと思われるこのフィールドで、こんな近くに3人も配置されている。それすら超大人数の受験者がいたとしたなら別だが、30体という幽霊の数である以上大量の人を同じ試験に受けられるはずがない、精々20人、多くて25人くらいだろう。つまり、この状況はあまりにも不自然だ。
ならば、考えつくことはひとつ、元からこのフィールド内には、〝自由に動くNPC〟としてでは無く、〝隠されたオブジェクト〟として存在している可能性が非常に高い、つまりこれは宝探しサバイバルRPGとでも言うべきゲームなのだ。もっと端的に言えば謎解きゲームだ。
「ヒントね……。もしこの森、だったところにヒントが隠されているとして、燃えてしまっている可能性が高くないか?」
「もし、柊夜がゲームの製作者になったとして、それが無ければ物語が進まない大事な大事な宝のヒントを、自然災害、人為的な破壊、魔法などの攻撃で壊れるような設定にするか?」
「いや、俺なら絶対に壊せない設定にする」
ストーリーの進行上、どうしても壊さなければいけないヒントであるならば別だが、このゲームは制限時間が存在している。そもそもこのことに気が付かなければ、ヒントを探すという行為すらしないであろうこのゲームに余計なストーリーを入れるとは考えづらい。
「そう、森を焼いていたのはそのためだ。僕らはここに来て木と松明それと空しか見ていない。そうだな?」
「ああ、変な建造物なんて存在しない。言いきれるぜ」
既に柊夜は、衛生を飛ばしていた。上空から周りの景色を確認するために。それを目で確認すると確かに柊夜は断言した。
「ならば、木に何かが掘られている可能性が高い。破壊不能オブジェクトであるならば、燃やされず残っているはずだ。確認できるか?」
「いいや、俺の能力はあくまで兵器を出す能力だからな。轟轟と燃え盛る炎を超えて見れるような高性能な偵察機器は出せない。」
「じゃあ、今からその木を探しに行くぞ。」
「こいつは?」
「置いてく」
「りょーかーい。」
そういうと僕らは立ち上がった。とりあえず辺り一面が炎が未だ燃え盛る焦土の中、影のある方向へと僕らは歩き出す。
僕はここまで考えていたのか。と聞かれればそうだと答える。僕は努力した、努力し、努力し、天賦の才がなくとも知恵をつけ、頭を柔軟にした。ゆえに必勝の策を考え出すことも出来るし、不可能犯罪も解ける。地頭が群抜にいいだけの春花とは違うアプローチの仕方で春花と競っていた。
まず、あのストラトという男が説明した段階でおかしいと思ったのだ、それからその説を思いついた。あとは、必要なものを集めるだけであったのだ。能力が使えないというイレギュラーは起こったもののだ。
「ところで、降真は今、俺と降真の2人で行動してるが、他誘う必要は無いのか?」
「無いな、基本は。ストラトが言うにはこのゲーム、クリア条件は証を3つ以上持っているということであった。
ならば、妨害以外にも証を3つ以上持っている価値があると思わないか?」
「特別点だな?」
「とりあえず今は、僕と柊夜でことが足りているからね」
「俺の頭脳と力があれば完璧だからなっ! へっへー」
にこやか笑顔で、そう柊夜は言った。
守ってあげたくなる誇らしげなその表情を見ると、いや、頭脳は明らかに僕だし、むしろ護衛係みたいなもんだぞ。という言葉は飲み込むことにした。
「お、あれじゃないか? 影」
辺り一面が焦土と化した炎の海であるその中に、ひとつ、高く聳えた1本の木があったのだ。明らかに不自然、だからこそ怪しく、思った通りである。
「そうだな。ま、簡単に見つかるとは思ってたよ」
「となるとあれか? ヒントがあるんだよな?」
木の麓に行くと、木にナイフで刻まれたような文字が見えた。なんて書いてあるか、いまいちよく分からない。〝文字〟と判断したのだが、それは暗号と言った方が正しい。
「なんだろうな、これ。なぁ、降真はなんだと思う?」
「なんだろう……。踊る人間のように、一つ一つに〝あ~ん〟までの意味が込められているのか?」
暗号であるはずなのだが、それはまるで、理解不能であった。意味が感じとれないほどに共通点がない。
「誰かの能力で、ここにおびき寄せられた説ってないのか?」
「いや、その可能性もあるが……。」
周りに隠れる場所なんて存在していない。土の中に埋まっているというふうに解釈するのならば、この木が燃えていない証拠が無くなる。なんてったって、約1名を除いて能力は一人一つなのだから。
「これが、幽霊に繋がる何かである可能性がいちばん高いと思う。」
「でもそれ、まるで、幼稚園児の落書きだぜ? 意図なんて組めやしない」
暗号、幼稚園児の落書き。2人が共通認識しているそれは、燃えていない木に書かれている。この状況を説明できる可能性は3つ、受験者、あるいは幽霊である場合、ヒントが書かれた破壊不能オブジェクトである場合、あるいは何かしらの能力が付け加えられている場合だ。
「ヒントか書かれているのなら、これは破壊不能オブジェクトで間違いないんだよな?」
「俺、詳しいことはよく分からないけどよ。多分そうなるな」
「なら柊夜、この木、切り倒してくれないか? それが落書きか暗号かを見極めるためにも」
「お、おう。わかった」
柊夜は返事をすると剣を虚空から取り出し、それで、この木を一刀両断。縦に斬った。
この行動で僕は、ふたつわかったことがあった。
こいつは、馬鹿であるということ。
そして、この木は、罠であるということが。
「柊夜、襲撃が来る可能性が非常に高い! 今すぐ周囲を警戒するんだ!」
「お、おう! 斬れるって言うことは破壊不能オブジェクトじゃなかったってことだからだな!」
「そうだ。考えられる可能性は3つからひとつに変わった! これは明らかな罠だ。そして、そいつは……」
メラメラと熱い空気が凍りつく。周囲が一気に緊迫した空気へと変貌する。柊夜は剣を構え、僕はとりあえず柊夜の背中を守る。上下以外の全方向から視線をそらさずに、警戒する。
「よォ。お二人さんよォ! その傷を見ているって事は、気づいたってことだよなァ?」
どこかから、声が聞こえる。
「柊夜、最大火力で全方向一斉照射だ!」
「降真! ムリだ! 今、俺の兵器はあくまで実在したものしか出せない! つまり、火薬で銃弾を飛ばすような兵器を、この状況では使えない!」
「くっ! なら、もう一個その剣を出して、貸せ」
僕に最低限の装備が加わった。かと言って、僕は剣術を心得ている訳では無い、授業の一環で行った剣道なんてのは所詮お遊び程度、実践なんて一切考えて指導はしていない。
「僕には、戦力を期待しないでくれ。ものすごく弱い」
「協力体制だ。俺が絶対に降真を護ってやるよ。言っとくがな? この俺に負けなんて万一にも存在しない」
さっき、飛び膝蹴りを食らわされて気絶していたような……。そんな言葉は出てくるはずがなかった。この緊張感に、全ての意識が持っていかれているのだから。
「さぁ、来るなら来いよ!」
柊夜は吠えた。