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死霊使いの葬儀屋(アンダーテイカー)  作者: 緑色の変人
1部【風は波乱を呼ぶ】
6/16

<2-1>努力の過去形は過程

あれから学校へ復帰し、遅れて入学してきたという少し変わった人扱いされ一躍有名人となり、友達も順調に出来て、家に帰ると能力の訓練を行うという日々が続いた。

とはいえ、ぬいぐるみの訓練によって基礎能力がついたために、他のふたつの能力を会得するのは大して苦ではなかった。

そして今、僕は葬儀屋採用試験を受けようとしているところである。


「さて、コーマ。準備はできた?」


土曜の朝、僕と春花は早くに起きて、春花からざっくりとした説明を受けていた。

試験は今から自分で魔法陣を書くとこから始まる、その魔法陣を正しく起動できたならば試験会場へと転移される。試験の概要はたとえ誰であろうと口外してはいけない。とのことで僕は一切わからない。筆記、はたまた実技の可能性もあり、それからまた内容が絞られる可能性もある。との事だ。


「ああ、準備オッケーだ!」


試験という名目が着いている以上緊張はしてしまう。緊張を飲み込んで、僕は魔法陣を描く、魔法陣の形自体はそう難しいものでないため30秒と立たないうちに描ける。

そこに、能力を使うように少しだけ力を込めると、血が輝きを見せる。


「じゃあ、行ってくるよ」


最初のライン、魔法陣の行使は上手くいった。僕は春花に向けて手を振ると、頑張って! という春花の声と共に魔法陣の光に飲まれ、消える。


「んー? 何かを忘れているような……? まぁ、大したことじゃないでしょ。」

とてつもなく大事なことを忘れてしまっているということに2人とも気が付かずに、僕は試験会場へと向かってしまっていた。それが僕の試験のモードをイージーからハードへと変えてしまうということすら知らずに。



■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪



光が消え失せ、目が光景を視認する能力を取り戻した今でもなお僕は今どこにいるか、皆目検討がつかなかった。

何故ならば、僕は今森の中にいる。空は明るくも暗くもなくただ雲とは違う白があるのみ、それ以外はどこにでもあるような森、そしてそこにひとつ松明がある。そんな状況。

他にも受験者がいるのかそんなことすらもわからない。


「どうやら、試験内容は何かしらの実技で間違いなさそうだけど……。」


春花が今ここにいないということは、僕は今この地球上には存在していない、それが一番に行うべき解釈だろう。

ここは、魔法空間のようなものだと仮定づける。

試験管すらいないこの状況から、それが何となくだがわかる。そして、風の音とともに聞こえるザワザワとした何かの声、受験者か、幽霊かもしくはその両方か。

そんなことを考えているうちに、だ。どこかから声が聞こえた。いや、それは間違いだ。

まるで、直接的に脳に情報が埋め込められているような感覚、わかりやすく説明するならばテレパシーと言うやつなのだろうか。


『やあやあ、皆様お集まりで。私の庭城へようこそ! 私の名前はストラト、以後ご見知りおきを』


イメージが音声として流される、その声は三十代男性頃の痩せ型を想起させるような声だった。


『葬儀屋採用試験。いわばゲームですよ、ゲーム。ルール説明をチャチャッとしてしまいましょう。私長ったらしいのは嫌いでね?

さて、皆様。今から始まるのは、〝幽霊狩りゲーム〟です。ルールは簡単、今から1日以内にこの庭城内の幽霊を三体以上葬儀してその証を持っていてください。

おっと、幽霊の数は限られております。30、それが幽霊の数。受験者の数は教えられません、ルールですので。

葬儀の方法はどちらでも構いません、そしてルールはフリーとさせていただきます!

最後に、この庭城で起こった傷や死は元の世界に戻った時には反映されないものとなっております。ただし、このゲームが終わる、つまり幽霊が全て狩り尽くされる、または1日経過、その時まで回復は出来ませんのでご了承を。


それでは、ご健闘をお祈りしたします! ゲームスタートです!』


ストラトの声とともに、パンパカパーンと音声が流れると、空の白色が一気に満月の夜へと変貌した。そして、その月は大きな時計として存在している。あれがタイムリミットを示すもので間違いないだろう。

となれば、時間はない。ストラトが人数を明かさなかった。つまり、この空間には10人以上いると思われる。

そして、定員は最大10名だ。ストラト曰く、3体以上狩る。

それが示すのは妨害が可能であるということだ。

つまり、スピードが命となる。

僕は、松明の炎から火を貰うと、今の位置がわかるように、そして妨害工作として森に火を放った。


これでわざわざ灯りを持ってる必要は無い。暗い中灯りを持っているのは危険そのものであるからだ。ルールはフリーであり、死さえもリセットできるのだとしたら、略奪行為を推奨しているようなものだ。


焦らず、状況を一つ一つ確認していく、ストラトが言った言葉全てに神経を凝らして注意深く。


おそらく、受験者はまず幽霊狩りには走らない。おそらくこの暗闇に乗じて、暗殺を試みるはずである。同じレースを行っているものを少しでも減らすために。

だからこそ、1番に注目が向けられるような場所には行きたがらないはずである。鉢合わせは本望では無いはずだから。

魔法空間と言うよりは仮想空間と言うべきだろう。先程から木が燃えていくが、酸素が薄くなっているようには思えなかった。オブジェクトには殺害はできないようになっているらしい。

レーダーや、探知機などが無いからには、僕らは幽霊を目視で発見しなければいけない。だが、この広大と思われる庭城で群生する訳では無い幽霊がそう簡単に見つかるだろうか?

否だ、見つかるわけが無い。

そこでだ。僕の能力、死霊術が役に立つわけだ。

死霊術には、幽霊を探知する力が存在する。故に春花はこの死霊術という能力については嘘ばっかりであったということになる。神経を研ぎ澄ませ、辺り数百メートルの魂の息吹がわかるわけなのだ。


――だがおかしい。

周囲に人物は一切居ない。そう認識してしまっていたかもしれない、今のこの状況を。春花がこの場にいないということを忘れていたら、の話ではあるのだが。


「もしかして、僕。能力が使えないときましたか……」


僕の計画が全ておじゃんとなった瞬間であった。作戦は全て能力を加味した上で作ったものだ。

試しに、ぬいぐるみの能力を使ってみるが出てくる気配はない。これは確かに能力が使えないとみて間違いないだろう。

春花が居ない時点でしっかりと察しておく必要があった、だが、僕はそれが出来ていなかった、緊張してたが故に。

春花が能力を貸し与えているだけだということに気がつくべきだったのだ。


となると、防戦も難しい。

無能力、つまりはいくつか使える魔法陣と、この肉体だけで幽霊を三体狩り、自分自信を守る必要があるのだ。

かなりの無理ゲーである。


「お、落ち着けコーマ。作戦を立て直す……。」


僕はその地面に座り込んだ。もはやこの場所を明るく照らしてくれている山火事が、死には至らないことは、数人が知っているだろう。その中でも、きっと1人、勇気のあるやつが僕を殺しにくるはずである。逆に言えばこの状況は、僕はここにいます! と言っているようなものだからである。


「ならば、協力してもらうしかないのか?」


他に、考えれば作戦なんていくらでも湧いてくる。

ただ、その全てが限りなく僕を合格へと導いてくれるものとは程遠い。ならば、その中でも1番確率の大きいもの、それを信じる他ないだろう。

そう考えているうちに、1人炎の中に影が見える。影は走ってはいない、僕をかなり能力に自信のある奴だと思い込んでいるのだろう、そして影の相手も能力に自信がある、それ故に大胆不敵に歩いてみせている。


「君が来るのを待っていたよ。協力しようじゃないか」


僕は、影に聞こえるくらいの声でそう言った。


「この炎、まさかとは思ったが。おびき寄せの作戦だったとは、それも協力要請の。」


炎の中から現れたのは、同い年くらいではあったが、とても整った顔つきの中肉中背の少年だった。少しナルシストも入っていそうな少年は、そう言うと両刃の剣を虚空から取り出した。


「俺に君と協力する意思はない。今ここに俺の武器の餌食になってもらうのだから」


そう言って、少年は剣を振り上げ振り下ろすと、少年の周囲にいくつもの空間の歪みが生まれる。そこから顔を出したのはいくつものマシンガンである。

僕は顔を真っ青にした。1度落ちれば試験は二度と受けられないために、この試験には何としてでも受からなければならないと言うのにだ、初手からこの状況は余りにもハードだ。


「お願いだ、話を聞いてくれ……。」


「いいや、君とはこの時以来サヨナラだ」


先程より伸びたと思われる金髪が靡き、マシンガンが全力照射される。僕は魔法陣を描き簡易的な防御壁を作り続ける。

ダダダダダと放たれる弾とともに、彼の髪が伸びる。少しずつ少しずつ。マシンガンでの攻撃が無駄であると悟った彼はマシンガンを分解すると、手に持っている剣で僕に襲いかかった。


「僕は戦う意思はない!」


僕に今必要であったことはただ1つ、時間。

時間さえあれば、この状況を打開できるはずなのだ。

彼は剣を振りかぶり、そのまま振り下ろす。洗練された技、ひと目でわかるその姿はまるで、剣の軌道がわかるかのように真っ直ぐであった。否、その通り剣の軌道が手に取るようにわかった。だが、速い。

僕は、何とか2、3回躱すが、その軌道は剣が振られる度に分からなくなっていく。精々あと2回躱すことが出来るか、それくらいだ。それまでにその時が来てくれればいいのだが。

1振り、複雑化する軌道が消えかけている。今までの回避行動は、剣の軌道が見えたからこそのものでありそれが消えればそれに対応できなくなるのは道理だ。頬に剣先が触れ血が滲み出す、痛覚はしっかりあった。ほんのりとした痛みを感じつつも、2振り目に備え、姿勢を戻す。

2振り、完全に軌道が見えなくなった。速さも格段に上がっている。この攻撃には避けられるような気がしなかった。

だが、元から仕組んであった防御壁を発動して2振り目を防ぐ。それと同時に魔法陣が壊れる。

もう防ぐすべはない。運動神経は人並みである僕に剣の達人の攻撃を見切ることなんてできない。


「遅咲き流の楽しいところはこれからだ!」


3振り、おそらく時間がやってくる頃であろう。出来ればその時間が、この3振り目が僕に直撃する前にやってくるのを願うばかりだ。


「うぉぉぉりゃぁぁっ!」


まるで綺麗な飛び膝蹴り。それが剣の彼に直撃する。

来た! 第2陣! 来てくれてありがとう! じゃなきゃ死んでた。飛び膝蹴りを食らわせた禿頭の彼、気配を一切感じさせず、かなり遠くからの攻撃と思われる一撃、そして彼はこう思っての攻撃だったはずだ。

――弱いものいじめを助けた。と。

となれば、その精神状況はこうだ。油断。


「君。大丈……グハッ。」


油断に満ち溢れた奴ならば、不意打ちで簡単にやっつけられる。事前に空けておいた穴に禿頭の彼を埋めると、交渉相手は金髪の彼。彼には助けたという大義名分が用意されている。飛んだイレギュラーな性格では無い限り、この交渉は実行される。

さて、目覚めるまで待つと致しますか。


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