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死霊使いの葬儀屋(アンダーテイカー)  作者: 緑色の変人
1部【風は波乱を呼ぶ】
4/16

<1-3>イメージ力は最も大切な力、これは間違いない


「さて、コーマ! やろうか、能力の訓練」


ごく普通の生活が行われ一日が経過し、午前10時。

僕と春花は少し広めの庭に出て、いの一番に春花はそう告げた。


「昨日説明されて大体はわかったけど、いまいちだな……」


「使い方なんてないわ、ただ思ったことが思った通りに起こる。コーマには私の使える能力が写っている状況だから、特別3つの能力が使えるの」


能力は1人1種類、天から与えられたものが使える、とはいえその幅は広く、〝点火する能力〟のような限られた能力から〝炎の能力〟のようなその属性を司る能力まで存在する。

その中でも、春花だけは特別であり、その能力が3種使える。そしてその能力のおかげで春花は〝ニコイチ〟として今この場に居て、僕は同じ能力が使えるようになった。


「死霊術、付与魔術、ぬいぐるみをぽんっと出す能力が使えるわ」


「最後の気になったんだけど?」


そう僕は言うと、春花は手を宙にかざしてみせる。するとそこに光が集まり、何かを形作っていく。

物体の形が見えた頃にはその作業は全て終わっていた。ぽんっというコミカルな音と共に手のひらサイズのテディベアが春花の手の上に置かれた。


「こういうなんてことない能力よ。作ったと同時に同等とみなされた金額が口座から勝手に引かれるから、お金稼ぎには使えないわよ?

とはいえ、これがいちばん簡単だから最初はこれから会得しましょ。」


「お金は?」


「私の口座は、葬儀屋(アンダーテイカー)の仕事のおかげで国家予算とまではいかないけど、サラリーマンの年収以上はあるかな? 一生遊んで暮らせるだけは入ってる」


「わぁ、そんなに?」


「これでも優秀な葬儀屋だったんだから」


ずっと一緒に暮らしていて、そんなことを初めて知った。彼女が葬儀屋に入っていたことも最近知った事だし、知らなかったことがまだまだあったんだなとドキドキもした。


「じゃあとりあえずやってみよう! 大事なのはイメージ、それさえあれば大丈夫!」


「イメージ…。テディベア……、テディベア……、テディベア……。」


僕は目を閉じて手を宙にかざし、テディベアを想像し、それを唱えた。ポムっと愉快な音がすると、「テディベア」と言う文字がぬいぐるみとして現れた。


「テディベア……、そうではあるんだけども……」


「〝テディベア〟をだそうということを意識しすぎかな。もっと外見的特徴を事細かに考える必要があるんだよ、それが基本。とりあえず見てそれを真似ることから始めようか! このくまちゃん見て、やってみて」


「わかった」


そう答えると、僕は〝テディベア〟を地面に置くと、春花の持っているテディベアをじっくり観察する。色、表情、手の形、足の形、胴や顔の形を見て再び手を出し、多少の煙を出してポムっと言う音が鳴ると、現れたのは春花よりも大きなテディベア。春花のが赤ちゃんだとするならば、僕のは大人だった。


「デカイな…」


「少しほつれもあるから、それはイメージ力と慣れで治してく以外の方法はないかな。これに関しては、向き不向きがすごくはっきり出るからね。能力を持ってても葬儀屋になれない人も沢山いるんだ」


僕はテディベアをじっくり観察して、ポムっ、ポムっと何度も何度もテディベアを出し続けた。それはもうお腹が空くのを忘れるくらいに。


「1回休憩にしようか、お昼頃だしね!」


くぎゅーと春花のお腹の音がなると、恥ずかしそうに顔を赤らめそう言った。意識をしていなかったから気が付かなかったが、お腹の音を聞くと突如この上ない空腹感が僕を襲った。


「あ、そうか。言ってなかった。能力使うためにはエネルギーが必要なんだよ、人それぞれ違うけど全ての能力に共通する対価なんだ、コーマの場合はお腹だったみたいだね。私は使いすぎると眠気がすごくなるんだ」


確かにお腹が空くはずだ。春花の作ったテディベアを見て既製品同等のものを作るのに、既に100個テディベアを出したのだ。能力を使うのにどれだけのエネルギーが必要かは分からないが、それだけ作ればお腹と背中がくっつきそうな思いをするのも当然であった。

適当な腹ごしらえをして、少し休憩した後に再び訓練を開始した。春花曰くこれがしっかり出来なければほかの能力を使うだなんてことは絶対にできないとのこと。そして、春花はこれほどまでに能力の訓練に適した能力は無いと自信満々に言っていた。その代わりお金は湯水のように消えるのだが。

夕日が綺麗なオレンジを空に写し出す頃、僕はようやく春花と同じサイズでほつれが一切なく、縫合がとても綺麗なテディベアが完成した。


「それじゃあ、見ないで自分の好きな、テディベアじゃないぬいぐるみ作ってみようか。今の感覚を忘れずに、しっかりとイメージして……。とはいえ、今日はもうこんな時間だし、やめておこうか。よく頑張ったね、よしよし」


春花は疲れてその場に座り込んだ僕の頭を撫でた。このテディベアを作るのに400程のテディベアが作られた。それらは全部春花の手によってどこかへと消し去られていったが。

あれは、春花曰く〝すぴりっとぱわー〟らしいが、種は簡単で能力者なら誰もが使える魔法のようなもので、無限の容量を持つ倉庫の中に詰め込んだだけであった。

それらは本来血で魔法陣を描いて発動するものだが、春花は服の光と同じような光を指先から出して魔法陣を描いていた。


そんなことはさておきだ。

夕食を終え、お風呂に入り、僕らは眠りについた。

明日どんなぬいぐるみを作ろうか、そんなことを考えながら僕が眠ってしまったのが悪かったのだ、きっと。たしかに寝苦しさはあった、妙な暑さと柔らかな何かによる圧迫感それらの主を特定することは容易である。

朝起きて直ぐにこの溢れかえらんばりのぬいぐるみの山を見ればだ。


「春花ー! 助けてくれー! 死ぬ、死ぬー!!」


返事はない。春花は物体に触ることが出来るが、任意ですり抜けも可能である。つまり、いまぬいぐるみに殺されそうな

この事態をどうにかできるのだ。

何度か呼びかけるが、一向に返事や変化はない。


「どうにかならないのか?」


今は身動きが一切取れない状況にある。夢の中にいたのか、ぬいぐるみはウサギ、クマ、ライオン、キリン、ゾウなどなどとたくさんの種類があった。そしてどれも既製品のように綺麗である。夢の世界だったらこんなのもできるか……と思いながらもこの危機的状況を自分で打開する方法を模索した。


確か、能力の種類は3つ。

一つ、死霊術。

二つ、付与魔術。

三つ、ぬいぐるみ。


死霊術ってのは何かわからないが、付与魔術ってのはわかる。ゲームで言うところのバフデバフ、つまりエンチャントだ。春花が言うには〝想像力〟と〝イメージ力〟が能力の幅を決めると言っていた。つまりは、たとえ〝点火する能力〟であろうと想像力とイメージを働かせれば、強大な能力となり得るということだ。

じゃあ、この事態を概要もその使えるもかわからないあと2つの能力でどうするかだ。それが1番の考えるべき点だ。


自分の置かれている状況を1回整理しよう。

今僕は、ベッドの上で布団を被って寝ている。身動きをとることも出来ず、視界は不良、むしろ数体のぬいぐるみ以外は見えない。部屋の奥の方はどうなっているかはわからないが、この圧迫感は部屋全体にぬいぐるみが敷き詰められている状態で間違いないだろう。ドアは閉まっており、カーテン、窓も閉まっている。隣の部屋には1度寝たら自分から起きるまで絶対に起きることの無い春花が眠っている。もちろん今も尚返事はない。


能力の言葉の響き的にこれらを消すということは不可能だろう。エンチャントに関しても、生物以外にも付与できるかなど、どこまでできるのかという問題と何を付与するかという問題が発生する。死霊術に関しては一切概要不明だ。

確か、能力者なら誰でも使える魔法のようなものもあったな。だが、あれを使うには血の紋が必要になるのだが、指先から血を出す手段が分からない。僕の手が動かせる範囲で魔法陣を描くほどの血を出せるようなものは存在しない。

ならば、春花が起きるまで、待つべきか? いや、春花は1度寝たらいつ起きるか春花当人でさえ分からないような睡眠を持つ、ごく稀にまるまる1日寝ていたこともあったので、今日がそれでは無い確証はない。

お願いだ、誰か助けてくれ……。


そう願った時であった。僕が光り輝いたのは。

それと同時に、知らないだれか声がこの部屋から聞こえ、ガチャとドアが開く音がする。ドアが開くのと同時にぬいぐるみの山が崩壊し始める。ぬいぐるみはどんどんドアを押し部屋全体に行き渡っていたぬいぐるみが僕が動ける程度にはなくなってくれた。ぬいぐるみの大きさが小さいものが多かったのが幸いした。


「助かった……。どこの誰かは知らないけれど助かったよ、ありがとう。」


お礼を言うとどこかから微かな声が聞こえた。それを聞くと僕は行ってしまったと確信する。恐らく助けてくれたのは幽霊だ、どうして助けに来てくれたのかはわからないが。

僕はぬいぐるみを押しやると、ぬいぐるみが散乱した部屋が見えた。


「ふぁーあ。ん? コーマ? どしたのこのぬいぐるみ?」


どうやら今起きたらしい。なんてタイミングの悪い彼女なのだ。と、思いながらも、僕は


「いや、大したことじゃあないよ。ただ、片付けてくれるとありがたい。」


とだけ伝えた。彼女の前でカッコつけたいのは彼氏だからこそだと思う。春花はいいよと軽く返事を返すと、魔法陣を描きぬいぐるみを一気にシュポッ! と吸い込んだ。


「コーマ、おはよう」


春花は何も聞かずに、何事も無かったのかのように眠たい眼を擦って言った。僕が微笑ましげにおはようと返す何気ない日常の朝だった。

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