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お嬢様が悪役に染まりつつあります

お嬢様、それは悪役のセリフでございます。

作者: 佐崎咲

「君にはついていけない。僕には他に愛しい人ができた。婚約破棄させてもらう」

「そんなテンプレ聞き飽きましたわ。ですので、わたくしはそれを却下します」

「どうしてだ! ここはしれっと『わかりましたわ。それじゃあお幸せに』とか言ってさっさと別の道を歩み始めるところだろう!」


 あなたが激昂する場所は間違っていましてよ。

 わたくしはそう言ってやりたかったけれど、話が進まないのでスルーいたしました。


「だってあなた、今わたくしと婚約破棄するととても後悔することになりますわよ」

「そんなことはない!」

「でもあなた、わたくしのこと、本当は嫌いになったわけじゃないでしょう」

「どの口が言うか! 君がイレーネに酷いことをしたと私は知っている。全てイレーネに聞いた!」


 あなたがとったのはわたくしの首ではない。それは猫の首でしてよ。

 ダミーに煩わされるなんて、次期国王ともあろう方が嘆かわしい。

 だけど本当は、まだどこかで疑っていて、わたくしに否定してほしいと思っているのはわかっています。

 でも悔しいからわたくしからは真実はお話ししてさしあげません。

 ちゃんと自分でお調べになって、わたくしを疑ったことを後悔なさって。

 イレーネもわたくしもただ一人。どちらの言うことに傾いても、為政者としてはやっていけません。


「イレーネ一人からの情報で判断する国王が、正しく国を動かしていけるかしら。まずは正しく人を導くことから始めなければいけないと思いますの」

「焦点を逸らしているつもりか。見苦しいぞ」


 売り言葉に買い言葉が止まらなくなっているのでしょう。

 この場で何を言っても、彼が冷静に判断できることはなさそうです。


「何が真実か見極めた上で婚約破棄をと仰るのなら、謹んで承ります。ではわたくしはこの後がありますので、失礼いたします」


 あなたは歯噛みをして地団駄でも踏みそうな形相をしていらしたけれど、さすがにそれは踏みとどまったようですね。

 見苦しいあなたを見なくて済んだことにほっとしています。


 本当にあなたはいつも、どこまでもテンプレ通りでつまらないお方。

 前はテンプレ通りにわたくしを溺愛してくださった。

 けれどテンプレ返しが流行った今では、またそれに乗って婚約破棄。

 そろそろテンプレ返しのテンプレ返しでもしないと、マンネリでつまらない。

 とは言え。わたくしも心の底からあなたを愛しております。あなたをみすみす手放すわけには参りません。イレーネなんて泥棒猫と呼ぶのも小恥ずかしいくらいの小物に煩わされたわたくし自身も、恥ずべきことですし。

 ですからここは、盛大にお祭りをして邪魔な者は排除して屈服させておこうかと思います。


「サハーを呼んできてちょうだい」


 邸に戻ったわたくしは、家令のサハーを呼びつけました。


「前に預けたイレーネからの手紙を用意してくれる? それから、証人になってくださると申し出てくれた三人の方に連絡してほしいの」


 サハーは慇懃に礼をすると、速やかに行動に移しました。


 そろそろあなたは冷静になって、イレーネの発言の裏を取ろうと動いているところかしら。

 私も証拠は握っていますけれども、これをあなたに渡してしまってはつまりません。

 けれど口のうまいイレーネをあなたがうまくやりこめられるかはわたくしもちょっと心許ないので、用意は万端にして参りましょう。

 明日は舞踏会。


「さあ、お祭りの始まりですわ」


 いつの間にか戻って来ていたサハーが、くくくっと笑う私に静かに言いました。


「お嬢様。それは悪役のセリフでございます」

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