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第4話 会いたい気持ちが思いついたもの


 昨日の夜遅く、森羅と飛火野が2000年後から帰ってきた。

 飛火野が「剣試し」と称して、鞍馬とどうしても手合わせがしたい、と、願い出ていたのが昨日叶ったからだ。


 帰って来るのを首を長くして待っていた一乗寺だったが、様子を聞いても森羅は、

「うーん、良いものを見せてもらったよ。あ、鞍馬も、ついでに万象も元気そうだったから安心して」

 といつもの通りだし、飛火野もなぜか口が重い。


「あーあ、私も行きたかったな」

 一乗寺は仕事に出かけた森羅の部屋を掃除しながら、窓から空を見上げる。

「そうしたら鞍馬さんに剣術を教えてもらえるのにな。あ、こちらからは覚えたばかりの薙刀を教えて差し上げるのに」

 千年人の一乗寺も鞍馬も、タイムマシンに乗ると途中で元いた時代に帰されてしまうし。

 通信は声だけだし・・・。

「あ!」

 急に何かを思いついた一乗寺が、嬉しそうにひとつ頷いて、せっせとあとの掃除を始めるのだった。



 その日の夕食の席で。

 一乗寺は食後の甘味の配膳を任せてもらい、小トラに少々? やっかいな頼み事をしていた。

「映像通信?」

「はい! 2000年の時を超えて、音声のみならず映像を送るのは大変難しいと思いますが、何とか小トラさまとトラさまの力で実現できませんか?」

「ふうーむ」

 小トラは大好きなあんみつを、「うーむ」とか「ふーむ」とか、合いの手を交えつつ長い時間をかけて食べていたが、あらかた食べ終わったところで横に控える一乗寺に質問した。

「映像か・・・、のう、一乗寺」

「はい」

「なぜそんなことを考えついたんじゃ?」

「はい! 鞍馬さんにどうしてももう一度お目にかかりたくて。けれど私たちはタイムマシンに乗ってもはじき返されてしまいますし。だったら、と考えて、もしご本人に会えなくても、映像ならご様子が手に取るようにわかりますし!」

「ほほう、なるほど」

 すると向かいの席で2人の話を聞いていた森羅が、楽しそうに会話に加わった。

「それ、いいねえ。声はごまかせるけど、表情って言うのは如実に精神状態を物語るからね。特にわかりやすい万象に何かあったら、すぐ飛んで行けるし」

「そうですよね!」

 思いがけず、森羅の加勢が得られて、一乗寺はいっそう嬉しそうに返事した。

「なんじゃ、森羅は何もなくてもすぐに行けるくせに」

「ははは」

 そのとき夕食をともにしていたこちらの東西南北たち、白虎、朱雀、青龍、玄武・兄の4人もそれぞれが後押しする。

「小トラさま、どうだ? あっちのトラばあさんと協力したら、何とかならないか?」

「そうねえ、いちいちタイムマシンに乗るのも面倒なときもあるしー」

「龍古ちゃんのお顔を見ながら話せるなんて、素敵」

「映像って顔が見えるの? 動いてるの? すごい! 玄武・弟もきっと喜ぶよ!」

 すると、部屋の隅に控えていた飛火野までが、「よろしいでしょうか」と、珍しく発言を求めてくる。

「お? なんじゃ? 飛火野まで」

「まあ、珍しいこと。でも、飛火野とお食事中にお話しできるなんて楽しいわ。どうぞなんなりと」

 桜花が手を合わせて言うので、飛火野は「恐れ入ります」と恐縮気味に話し始める。

「私も映像通信の開発に賛成です。手合わせは出来なくとも、お互いが映像を見ながら確認できれば、とても参考になると思います」

「まあ、飛火野はそちらね」

「鞍馬がらみか」

 顔を見合わせて微笑む桜花と小トラだったが。

「うーむ、実現するかせんかはわからんぞ? けれどまあ、トラに話してみるわ」

「本当ですか? ありがとうございます!」

 最敬礼で喜ぶ一乗寺と、その後ろで真面目に最敬礼する飛火野。

 護りたちも、やんやの喝采で、その日の夕食はとても賑やかなものになった。

 いや、いつも賑やかなのだが。


「ところで飛火野、俺の明日の予定は?」

 そんな賑やかな中、森羅が飛火野を呼んで聞く。

「はい・・・、明日は午前中、南野様のご当主と会談。午後は書類のお目通しが何件かございます」

 と、よどみなく答える。

「そうか。だったらこれから書類に目を通しておくから、明日の午後、ちょっとあっちへ行ってきていいよね?」

 テーブルを見回して宣言する森羅に、

「森羅さま、ずるい! ぼくも行きたい!」

 と、当然のごとく玄武・兄が手を上げて言う。

 この席で言うからには、森羅も玄武・兄の言動はお見通しだ。

「そうだな、だったら用事が済んだら呼んであげるから、お利口に待ってるんだよ?」

「いいの? やったー! ぼく明日は、うんとお利口でいます!」

 と大喜びだったが、ふと思いついたように言う。

「でも、ぼくだけ?」

 まわりを見渡して、ほんの少し申し訳なさそうにする玄武・兄。

「えーと、じゃあバランスを考えて、・・・白虎もね」

 森羅の言葉に、白虎だけではなく、他の者もポカンとする。

「何で俺? バランスを考えるなら、青龍じゃないか?」

「え? おかしなこと言うね、2人とも男の子じゃない、バランスいいよね」

「はあ?」

 それを聞いた白虎は疑問符を繰り出すが、玄武・兄はまた大喜びだ。

「ホントだ! 男の子同士だよ、白虎、よろしくね」

「訳わかんねえ」

 ニコニコしながら2人を見ていた森羅は、「さて」と手を合わせると、席を立つ。

「ごちそうさま。明日の仕事を済ませなきゃならないから、もう行くね」

 そして桜花と小トラの所まで行って、「お先に」とお辞儀したあと、小トラにはパチンと思わせぶりにウインクなどして見せた。

「まあ、慌ただしいこと。あまり無理をしてはいけませんよ」

「という訳じゃ」

 桜花が言うのに頷いて、小トラが、バチン! と音がしそうなウインクをするのを楽しそうに見やって、森羅は飛火野を引き連れて食堂をあとにした。


 コンコン。

 その日の夜遅く。

 小トラの執務室のドアをノックする者がいる。

「入れ」

 と声をかけると、カチャ、と静かにドアが開き、入ってきたのは思った通り森羅だった。

「お邪魔します」

「で? うちの天才さんは、何を企んでおる?」

「企むなんてそんな、ただ、俺はトラばあさんに持っていく資料の相談に来ただけ」

「天才の方は否定せんのか、ガハハ、・・・・・ほれ」

 小トラは、すでに用意してあったのか、引き出しから分厚い封筒を取り出して机に置く。

「さすがだね。ここで見せてもらっていい?」

「はなからそのつもりじゃろ? まだ途中までしか出来ておらんから、仕上げは向こうでなんとかせい」

 にんまりと笑って椅子を勧める小トラ。

「ありがとう」

 と、森羅は椅子に腰掛けて嬉しそうに資料を読み始めた。



 次の日の午後、たくさんの資料をかかえた森羅が、玄武と白虎を呼ぶ。

「じゃあ行ってくるね。2人はもうちょっと待ってて」

「はあーい」

「予告はしてねー、トイレに入ってたらまずいからー」

 お利口に手を上げる玄武・兄と、ふざける白虎にほほえみかけて、森羅の姿はひゅうんと舞い上がった風とともに消えた。


 現れた先は。

 現代陽ノ下の学びどころ。

 解放された広い空間の一角に、教室のようなしつらいが施されている。そこで黒板の前に立つミスターが見えた。盤面いっぱいに文字や数式が飛び交うように書かれている。

「ここまではわかる? って、みんなちんぷんかんぷん~ってな顔してるねえ」

「いいえ、とてもわかりやすいご説明です」

 頭をかいて笑うミスターに、最前列で授業を受けていた賢そうな子供が、ピシ、と手を上げて行った。

「おーそうか、ありがとよ。で、安心しろ、ここからは楽しい実験と実習だ~」

 そう言うと大喜びの生徒たち。

 すると他のところで遊んでいた子供たちまでが、「実験?」「実習?」とワイワイと集まってくる。

「おお、やっぱりじっと机に縛られるのは退屈だよなぁ。俺も本当は嫌いだったんだ。あ、とは言え、俺の真似して座らないのも決して褒められたことじゃない。決められた時間、きちんと座って聞けるのもまたすごいことなんだ。出来ないと思わず、トライしてみろよな、それも勉強だし、修行だ!」

 などと、精神論のようなことを言ったあと、ミスターは全然気にせずに授業を再開し始めた。


 ふ、と微笑んで森羅はその場を離れる。


 次に訪れたのは建物の外。

 そこにはこれも楽しそうに、畑の手入れをする子供たちと、畑の担当さん。

「いやあ助かるねえ、本当に君たちは畑仕事が好きなんだねえ」

「はい! いいものを作って、万象先生に、この野菜美味いな! と言われるよう頑張ります!」

 思わずクスッと笑う森羅。

「万象先生、だって」


 陽ノ下の学びどころは、順調にその役目を進め始めているようだ。

 そのままのんびり歩いて、東西南北荘に到着する。

 玄関をスルーして、中庭を回り込んで離れに入っていく。

「お邪魔しまーす」

 中にトラばあさんの姿はあったのだが、声をかけた森羅は無視された。

 いや、ヘッドホンをつけ、向こうを向いて座っているトラには聞こえなかったのだ。なにやら制作中らしい。

「しばらくは無理かな」

 と森羅は、勝手にあちこち見て回る。そのうちとても興味を引かれる数式が目に入り、森羅はそれに見入っていった。

「・・ら、・・・森羅!」

 いきなり耳に誰かが呼ぶ声が入ってくる。

 誰だよ、今いいところなのに。

「まったく、天才はこれじゃから」

 あ、と気がついてそちらを見ると、トラばあさんが腕を組んでこちらを見ていた。

「すみません。お邪魔してます」

「わかっとるわい」

「でも、先に無視してくれたのは、そちらですよ」

「わしはこーんなヘッドホンしておったからじゃ」

 と、言い合ったあと、ははは、ふふ、と笑い合う。

「まあ、同じ穴のむじなってことで」

「ああ、天才は変なヤツばかりじゃからの」


「で? 今日来たのは、一乗寺が言い出した映像通信のことか?」

 改めて確認するトラばあさんに、感心したように森羅が言う。

「さすがですね、もう話が来ましたか」

「音声のみの通信はもう出来ておる。しかし一乗寺も言ってくれるのお」

「千年人の悲哀です」

 ほんの少し表情が曇った森羅に、年の功の微笑みを見せたトラが椅子を勧める。

「まあ、お茶でも入れるわい」

「あ、その前に」

 と断ってから、外へ出て、パチン、パチン、と指を2度鳴らす。

「森羅さま!」

「いやーん、今トイレに行こうと思ってたのにー」

「まったく。だったらここの本宅で借りてくれ」

 陽ノ下の畑に現れたのは、玄武・兄と白虎の2人だった。

「ぼく、玄武・弟に来た事、話してくるね」

「じゃあ俺もあっちに行ってるわ」

 2人が東西南北荘の本宅へ行ってしまうと、森羅は持ってきた資料を出して、トラばあさんと真剣に話を始めだした。



 離れから玄関へは行かず、縁側にまわる玄武・兄と白虎。

「玄武・弟! 遊びに来たよ」

 その呼びかけに応じたのは、玄武・弟本人ではなく、ちゃぶ台にパソコンを置いて作業をしていた雀だった。

「あらあー、玄武が帰ってきたと思ったら、兄の方? いらっしゃい」

「雀さん、こんにちは。玄武・弟は?」

「邪魔するぜ」

 靴を脱いで上がり込む玄武・兄のあとから白虎も中へ入ってくる。

「白虎まで。どうしたの? ってはいはい先に玄武・弟の行方よね。今、鞍馬と一緒に畑にいるはずなんだけど、気がつかなかった?」

 雀の答えに、玄武・兄は「え? そうなの?」と、脱いだ靴をまたはき直して、

「じゃあ探しに行ってくる」

 と、畑の方に走って行ってしまう。

「若いから元気だねえ、俺は飛んでくるだけで疲れちゃった。ちょっと休ませてもらうよ~、ああ、極楽、ごくらく」

 などと言って、畳にごろんと転がってしまう。

「なーに? 自分だってまだ若いくせに。それに森羅さまに呼ばれたんなら一瞬でしょ、まったく。ちょっと待ってなさい、今、お茶でも入れてあげる。ちょうど休憩しようと思ってたんだ」

「えー、悪いなあ。だったら俺、珈琲がいい」

 悪いと言いつつちゃっかりリクエストしてくる白虎に、「甘えるな」と、おしりをペシッと叩いたあと、雀は笑って土間に下りていく。

 そこへタイミング良く鞍馬が野菜かごを持って帰ってきた。

「わあお、今日もついてる。鞍馬~。白虎がね~、うーんと美味しい珈琲が飲みたいなんて、わがまま言うのよ」

「うーんと美味しいなんて言ってねえぜ」

 2人のやりとりに少し微笑むが、鞍馬は白虎にきちんと挨拶をするのも忘れない。

「白虎さん、ようこそいらっしゃいました。少しお待ちいただけますか。これを置いたら、うーんと美味しい珈琲をお入れします」

「わーい」

 雀はとても嬉しそうに言いながら和室に上がっていく。

「ところで玄武兄弟には会えたのか?」

 ごろん、と土間の方に寝返りを打って肘をついた白虎が聞く。

「はい、畑の方は、お2人にお任せしてきました」

 食材倉庫にとりあえず野菜を置いた鞍馬は、手を洗うとコーヒーポットに水を入れ、コンロに火をつけた。


 鞍馬の入れた、うーんと美味しい珈琲と、またまた雀の「甘いものが食べたーい」と言うリクエストに応えて、本日はカラメルの色もつややかなプリンがちゃぶ台に乗っていた。

 畑仕事を終えた玄武兄弟も揃っている。

「「おいしーい」」

 雀、玄武兄弟の3人は、一口食べて同じように感嘆の声を上げている。

 甘いものが苦手だと言って辞退した白虎も、玄武・兄に勧められるまま、一口分けてもらい、お? と言う顔をする。

「なかなかいけるじゃないか」

「でしょ?」

 とそこへ、本日の授業を終えた万象と、その後ろから龍古が帰ってきた。

「「あ、おかえりなさーい」」

 玄武兄弟は、声を揃えてお出迎えする。

「お帰りなさい、お疲れ様でした」

 鞍馬はそう言うと、新たに珈琲を入れるため、土間に下りていく。

「ただいま」

「ただいま帰りました」

「今日の授業はどうだった?」

 楽しそうに聞く雀に、万象は「いつも通りだよ」と素っ気なく答え、龍古は、

「授業も、絵画教室も、とても楽しかったわ」

 と、本当に楽しそうに答えを返した。

 絵画教室とは?

 龍古は絵を描くのがとても上手く、たまに雀のシナリオの表紙に、物語の挿絵風のイラストを書いていたりした。その絵を見た桜子が、「絵の先生をやってみない?」と持ちかけたのが始まりだった。

 まだ中学生の年齢だが、小さな子供にとっては優しいお姉さんだし、何より弟の勉強を見ていたりもしたので教えるのも上手い。最初は躊躇していた龍古も、始めてみると教えることが楽しく、子供たちも見る間に上達していった。

 陽ノ下の学びどころは何の縛りもないので、誰でもが教える立場になれるのだ。

「いいなあ」と言う玄武・兄に、今度絵を教える約束をして、龍古は荷物を置くために2階に上がっていった。

 一足先に荷物を置いて2階から下りてきた万象は、

「森羅は?」

 と、誰にともなく聞く。

 すると、雀が面白そうに言った。

「離れでトラばあさまと密談中よ」

「ああ、そうか」

 昨日なんだか通信が入ったと言ってたな。なんでも、音声だけじゃなくて、映像通信をしたいと一乗寺が言ったとか。その気持ちは痛いほどよくわかるし、手伝えれば小さな事でも手伝いたいのだけど。まあ、完全なる文系の万象が行っても邪魔になるだけだから仕方ない、待っていよう、と、気持ちを切り替える。

「どうぞ」

 そこへ、良い香りがして鞍馬が珈琲を運んできた。



 森羅とトラばあさんの密談? は、皆の夕食が半分ほど過ぎた頃にようやく終わったようだ。縁側から賑わっている和室に入ってくる。

「ふ、ふわぁ~、疲れたわい。おまけに腹ぺこじゃ」

「俺も俺も~。あれ? 万象いたのなら、おやつくらい持ってきてくれれば良かったのにぃ」

「な! んなこと知るか」

 へろへろの2人は、とりあえず席に着いた。

 森羅の席は、当然のことながら玄武兄弟の真ん中に据えられていた。

「わあ、両手に花だ」

 嬉しそうに言った森羅は、鞍馬が運んで来た夕食を、これまたとても嬉しそうにぱくぱくと食べ始める。

 トラばあさんもはじめはエネルギー補給に余念がなかったが、しばらくすると、美味そうにお茶をすすって一息ついた。

「はあ、生き返ったわい、ごちそうさま。・・・ところで皆、待たせてすまなかったの。森羅と小トラ、そしてわしの3人の力を持ってして、何とか映像通信装置の設計図を引くところまでは出来た」

 と、部屋の隅に追いやっていた封筒を引き寄せて、中から書類を取り出す。

「お? どれどれ?」

 一番に興味を示したのは、やはりミスター。書類を見る目は、いつものへらへらしている彼とは違い、真剣そのものだ。しばらくすると顔を上げてトラばあさんに聞く。

「これ、伯母さんのパソコンに同じものが入ってるんだな」

「おう、そうじゃ」

「だったら俺の仲間に見てもらうよ。あいつらまた、目の色変えるぜえ。ちょっくら行ってくるわ」

 と、席を立つ。どうやら離れにあるトラばあさんのパソコンから、研究所にメールを送るつもりらしい。

「よろしく頼むぞ」

「あいよ」

 ミスターが出て行ったあと、興味深そうに書類を眺めていた雀は、

「やっぱりちんぷんかんぷん」

 と笑って、隣の龍古に一式渡す。

 すると、後ろから雀の背中にもたれかかるように書類をのぞき込んでいた玄武兄弟が、すいっと平行移動する。

「ふうん」

「龍古、わかるの?」

 驚いたように言う玄武・弟に、「ほんとうに、ちょっとした式だけ」と、照れたように言った。

「へえ、龍古は理系の面ももつのか。だったら今度、俺が講義をしてあげよう」

「ほんと?!」

 森羅が提案すると、玄武たちも当然やいのやいのと騒ぎ出す。

「あー龍古だけずるい、ぼくも」

「ぼくも!」


「俺は見てもわからんからパス!」

 万象はそう言うと、ふい、と立ち上がってちゃぶ台の食器を片付け出す。鞍馬も黙って食器を重ねると、シンクに運び出した。

「あ、ごめんバンちゃん。一緒に片付けするよ」

 玄武兄弟もそのあとに続いた。

「鞍馬はちょっとでもわかるんだろ? 見て来いよ」

 すれ違いざまに万象が言うが、鞍馬は首を横に振り、

「あとでゆっくり拝見します」

 と、シンク前で楽しそうに腕まくりする玄武兄弟の仲間に加わるのだった。



 その日の夜遅く。

 ちゃぶ台の上だけに明かりが灯る和室の一室。

 す、と静かに隣の部屋へ続くふすまが開いた。

「夜遅くまで、研究熱心だね」

「森羅くん」

 ちゃぶ台の前に座っているのは当然、鞍馬。

 入ってきたのは森羅だった。

「明かりが漏れていましたか? 眠りを妨げて申し訳ありません」

「鞍馬のせいじゃないよ、のどが渇いたから・・・」

 と、立ち上がろうとする鞍馬を手で制して、森羅は自ら土間に下りて冷蔵庫を開け、「何にしようかなー」と、中を物色する

 持ってきたのはなんと。

「すごいね、ビア・カクテルだって。2000年の間に、人類はこんなものまで発明したのか」

 瓶を2本持ってきた森羅は、1本を躊躇なく鞍馬の前に置く。もうすでに栓は開けられているので、飲むしかないだろう。

「とは言え、その昔からビアには色々混ぜものはされていた」

 と、瓶から直接一口飲んで「美味い」と相好を崩す。

「私はこれを読んでいるのですが」

 鞍馬は苦笑いをしながら書類を少し持ち上げるが、森羅は気にした様子もなく、また瓶に口をつける。

「鞍馬にとってはこんなもの、水みたいでしょ? それに、もう遅いからいい加減に寝なさい」

 その言い方に今度は可笑しそうに笑って、仕方ないように彼も瓶を取り上げる。

「明日はさ、白虎と格闘してもらわなけりゃならないんだから」

 怪訝な顔をする鞍馬に、

「映像通信が出来上がるまで、一乗寺と飛火野に、鞍馬の格好いい姿を見せてあげようと思って」

 と、なんとタブレットを取り出してくる。

「こっちと同じ、これって動画を撮影出来るんだよね。だから明日は大変だよお。白虎と手合わせして、剣術の稽古日だからそれも映しちゃおう」

 心持ち唖然とした様子だったが、鞍馬は妙に納得したように言う。

「それで泊まっていくと言われたのですね。白虎さんをお連れしたのもそのため」

「うん」

 森羅の企みとは、このことだったのか。

 ニコニコと心から楽しそうな森羅に、鞍馬はふと思いついて、ある提案をするのだった。



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