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第2話 過去はバレバレだった、そして・・・。


 森羅の衝撃の告白? を聞いても、はじめ万象は意味が脳内で変換出来ずにいた。


 ん? なんだか今、変なことを言ったよな、森羅。

 一乗寺がなんだって?

 千年人?

 せんねんびと、どこかで聞いたような・・・。

 千年人!?


 そのあと思わず遠吠えをして、月に迷惑がられたのだ。


「なな、なんだよそれ! 一乗寺ってお前んとこの?」

「うん、ほかに誰がいるの」

「聞いてねーーーー!」

 頭を抱えながら叫ぶ万象に、森羅は「うん、言ってなかったね」と涼しい顔で答えて、にっこり笑う。

「そうだった、なんでこんな簡単な事に気がつかなかったんだろう。俺にだってご幼少のみぎりを知ってる大の大人がいるって事、言えば良かったんだよね」

「大の大人って、一乗寺はどう見ても中学生」

「中学生?」

 不思議そうに聞く森羅に、まじめな万象はちゃんと説明してやる。

「あ、そうか、2000年前には中学なんてなかったのか。中学ってのは俺たちの時代の学校制度の一時期の名前だ。で、年齢としては13歳から15歳前後の3年間、そこに通うんだ」

「ふうん」

「って、このさい中学生はどうでも良いんだ! 一乗寺ってどう見てもこっちの中学生の龍古と同じくらいにしか、見えない!」

「そうだねー、13から15歳かあ、言われてみればなるほどだよねえ、うんうん、可愛いはずだよねーそう思わない?」

「中坊なんかちっとも可愛くねえよ! 思春期真っ盛りでおまけにほぼ中二病じゃないか!」

「?、ちゅうにびょう?」

 今度は本当に首をひねる森羅に、大まじめに、なぜか身振り手振りまで使って中二病の説明をしてやる。

「と言う状態だ! ああ・・・づがれだー」

 とゼエゼエと肩で息をしている。

「なるほど、いわゆる思春期における異様な自意識過剰のことね。人って2000年前とちっとも変わってないんだね」

「はあ? なんだよーお前たちの時代にもあったのかよ、せっかく頑張って説明したのに~」

「ははは、相変わらず万象って真面目。けど、そこが万象の可愛いところ」

「な! 可愛いとか言うな!」

 照れたのか本当にそう思ったのか、少し顔を赤らめつつ万象は森羅を睨む。

 そんな万象に微笑んで、今更思い出したように言い出す。

「でね、一乗寺ってずっとあのままでしょ? だから俺が中二病だった頃、一乗寺はとっても良い遊び相手。彼には中二病なんてなかったもん」

「はあ? 森羅が中二病になるわけないだろ。で、なんだっけ・・・そうだった、一乗寺! 何でお前はあいつが千年人って知ってるんだよ」

「俺だけじゃなくて、陽ノ下では、あ、2000年前のね、とにかく皆、知ってるよ。彼って全然歳を取らないんだもん、いいよねー。でも、俺にとっては、なんで万象は千年人って聞いてそんなに驚くのか、そっちの方が、謎」

「はあ?」

「だって、この世界にはあらゆる生き物がいるんだよ。俺たちみたいに寿命の短いのから、一乗寺みたいに1000年生きる者もいる。だったらさ、5000年、10000年と生きる者だっているんじゃない?」

「んな馬鹿な」

 あきれたように言ってから、万象はふといぶかしそうな表情になって聞く。

「もしかして、森羅は知ってるのか? えっと、10000年人いちまんねんびと

 その表情と出てきた言葉を吟味するように一呼吸置いて、森羅が面白そうに言う。

「んな馬鹿な」

 そしてニッコリ笑って続ける。

「万象のセリフ、真似してみましたー」

 唖然とする万象の肩に手を置いてその横を通り過ぎた森羅は、再び月が顔を出した空を見上げながら、今更のように言う。

「それにしても、やっぱり今日の月は綺麗だねえ」

「なんだよそれ」

「アイラヴユーだよ」

「な!」

「アハハ」

 また驚いた声を上げる万象を見て、本当に楽しそうに笑う森羅だった。




 翌朝。


 万象が朝食の支度をするためキッチンへ行くと、当然そこに鞍馬がいた。

 あのあと、やはり自分のことは自分で解決する、と言う万象に、森羅は納得したようにうなずいて、「じゃあ頑張るんだよ」と、エールを送ってくれたのだった。


「おはようございます」

 土間に降りてきた万象に気がつくと、鞍馬はいつものようにきちんと挨拶をしてくれる。

「あ、おはよ」

 万象は挨拶を返すと、こちらもいつものように朝食の準備に取りかかった。

「これでよし、と」

 味噌汁の味見を終えてうなずいた万象は、和室でちゃぶ台をセッティングしている鞍馬の背中に声をかけた。

「鞍馬、あのさ」

「はい」

 鞍馬はこんな時もきちんとこちらに身体ごと向けて返事をする。それに一瞬びびりかけた万象だったが、意を決して(そんな大げさな)鞍馬に聞いてみる。

「えーと、鞍馬って、千年人、だよな」

「はい」

「1000年生きるんだよな」

「? はい」

 今更のようにそんなことを聞いてくる万象に、鞍馬は少し不思議そうに返事をした。

 その表情に、万象はなぜか慌てたように言い出した。

「あ、だったらさ、何十年も前に知り合ったヤツに、偶然また会ってしまう事って、あるんじゃないかなと思ってさ。そんなとき、お前たちはどうするのかなーって、なんか、こう、突然思っちまったんだ!」

 珍しく早口の万象に少し驚いたような鞍馬だったが、ふと何か思い出した様子で、焦る万象にはわからないように小さく微笑むと、質問に答える。

「それは・・、ごくごくたまにですが、そういうことはあります」

「あるのかよ! じゃあそん時は、どうするんだ?」

「普通でしたら、他人のそら似では、とか、ドッペルゲンガーかもしれませんね、などと言っておしまいにさせていただきます」

「まあ、・・・そうだよな」

 あまりにありきたりの答えに、肩すかしを食らったような万象だったが、こんどはきちんと彼にわかるように微笑みながら、鞍馬が話を続ける。

「ですが」

「?」

「他ならぬ万象くんには、そのようなごまかしは必要ないと思いますので」

 そう言いながら、鞍馬はその場にきちんと正座して手をつき、頭を下げた。

 何謝ってんだ?、と、きょとんとした万象に、鞍馬のセリフは想定外だった。

「ご無沙汰の挨拶が遅れて申し訳ありません。お久しぶりです、京都みやこ万象ばんしょうくん。20年ぶり、でしょうか」

「うぐ!」

 とっさのことに、ぐぐっと詰まってしまう万象。それをいつもの照れだと思った鞍馬は、懐かしそうに言う。

「あんなに小さかったのに、覚えていて下さったのですね。あの頃も万象くんは」

 すると万象が慌てて両手を振りつつ和室に上がり込んできた。

「うわっ! それ以上言うな! どうせドチビだの生意気だの言うんだろ!」

 声を上げて頭を抱えながら、万象は三段飛ばしで2階への階段を上がって行ってしまう。

「いえ・・・、とても可愛くて、聡明だったと」

 彼の背中に小さくつぶやいたあと、鞍馬はため息を落としつつ苦笑する。


「ふられちゃったね、鞍馬」

 すると、いつの間にそこにいたのか、和室の上がりがまちに腰掛けて、森羅がクスクス笑いながら彼を見ていた。

「聡明はいいけど、可愛いは絶対に本人に言っちゃ、だめだよ」

「そうでしたね」

「うん、彼のクリスタルの心が傷ついちゃうからね」

 また苦笑いする鞍馬に、立ち上がった森羅が「よっこらしょ」と、爺さんのようなかけ声をかけながら和室に上がってくる。

「手伝うよ」

 そして途中だったちゃぶ台のセッティングをはじめ出す。

「ありがとうございます」

 手際の良い森羅のことだから、いつもならすぐに終わってしまうはず、なのだが。

 なぜか含むような笑みを浮かべながら、丁寧すぎるほどゆっくりと食器を並べている。

「鞍馬はちっとも窮屈そうじゃないね」

 手を動かしながら唐突に言う森羅に、「?」と言う表情で鞍馬は疑問を投げかける。

「この時代の百年人って、目に見えないものや不思議な事をちっともわかろうとしないじゃない? だから千年人のことも、よほど信用のおける者にしか話せない」

「ああ」

 納得したような相づちをうって、おかしそうに答える。

「一乗寺さんとは、ずいぶん扱いが違いますね」

 最後の箸を置いた鞍馬が、「ですが」と言葉を続ける。

「ほんの200年ほど前までは、そうでもなかったのですが」

「なにが?」

 こちらも最後の取り皿を置いた森羅が、顔を上げて聞く。

「百年人も、森の囁きや草花の歌、鳥たちの伝言や、星から舞い降りる美しいきらめきなどと、自身を通わせる事が出来ていたように感じます。それがわからなくなったのが、ここ最近・・・、?」

 そこまで言って鞍馬は、ふいに顔を天井に向ける。

「近代化ってのを進めすぎたんだな、これが。身体が楽をしたいがためにな」

「スサナルさん」

 なんと空中にあぐらを組んだスサナルが浮いていたのだ。

「スサナル久しぶり。この時代にも来られるんだね」

「あったりまえよ」

 驚いた様子も見せず、それどころか普通にスサナルと会話を交わす森羅を見て、鞍馬は納得したように微笑む。

「ん? どうしたクラマ」

「いえ、森羅くんの時代は何でもありだったのだと、改めて感じまして」

「うらやましい?」

「少し違いますが、千年人もかなり全身全霊で生きていられるのだろうなと」

「全身全霊、ねえ。一乗寺からはあまりそんな感じはしないけどね」

「一乗寺さんはお見受けしたところ、ご自分でも意識せずにそれを隠せる方だと」

「へえ、そうなんだ」

「それこそ、適材適所ってもんよ」

2人のやりとりに口を挟むスサナル。

「ところでどうしたの、スサナル。なにか用事?」

「用事がなけりゃ、来ちゃ駄目か?」

「うん」

 迷いなく答える森羅に、スサナルはがっくりしたあと大笑いだ。

「だとよ、クラマ。こいつには参るぜ、まったく・・・。けど、まあなんだ。用事はあるんだ」

「だったら早く言ってよね」

 またまた手加減も容赦もない森羅に、さすがの神様もタジタジか。けれど実際は少しも堪えた様子もなく、スサナルはすうーと床に降り立ち、ふい、と纏っていた気を少しばかり引き締めた。

「お」

 なぜか楽しそうな森羅と、生真面目な鞍馬を交互に眺めたスサナルが、声ならぬ声で彼らに語りかける。

「(ここへ来て森羅万象のそろい踏み。しかしながらそれを快く思わざる者も多かりし。なぎ払いは容易なれど、しかしてそれは最後の手段。森羅万象よ、東西南北の護りとともに、世界の調和を図るべし)」

「うん、俺は誠心誠意そのつもり」

 すかさず言い放つ森羅に、引き締めていたスサナルの気がほわんと緩む。

「緊張感のないやつだ」

 ガハハとまた豪快に笑ったスサナルが、次に鞍馬を睨むような真剣なまなざしで見据えた。

「(鞍馬にも手数をかけることになる。ついては先日の剣、今一度検分したい)」

 先日の剣とは、皆で大物を昇天させたときに使ったスサナルの剣の事だろう。

「それなら俺が預かってるよ」

 自分の方を見た鞍馬に一つうなずくと、森羅は手を天に差し出す。その手をすうっと下ろしていくと、なぞるようにこの間の剣があらわれた。

「あ、ついでに」

 もう片方の手を同じように天に差し出し、同じように下ろしていくと、なんと飛火野が使っていたコウジンの剣が現れたのだった。

「これ、コウジンに渡しておいてよ。どうせこれも検分しなきゃならないよね」

 ポカンとしていたスサナルは、あきれたように言った。

「お前なあ、仮にも俺は神様だぞお。宅配のおっちゃんじゃないって事はわかるよな」

「うん、ものすごく信頼できる良い友達」

「これだ。なあ鞍馬、あいつといい勝負だな」

「?」

 スサナルが誰のことを言ったのか一瞬考えた鞍馬が、ああ、と言うように本日何度目かの苦笑いをした。

「冬里ですね」

「ほんに」

「誰? それ」

 不思議そうに聞く森羅に、なぜか鞍馬は、二人を引き合わせてみたい衝動に駆られつつも、ただ笑顔で彼を見つめる。

うけたまわったぜ、森羅。こいつはコウジンに渡して検分してらう」

 まだ何か言いたそうにこちらを見つめる森羅の気をそらしてくれたのは、スサナルの言葉だった。

「なあに、どちらもすぐ終わるさ。で、終わったらどうする? また森羅に預けるか?」

 すると森羅ではなく、鞍馬が口を開く。

「いいえ。飛火野さんはどちらにも来ることが出来ますが、私はあちらには行けませんので。万が一森羅くんがいないときに何かあっては大変です。なのでスサナルさんの剣は私がお預かりしてもよろしいですか?」

 スサナルに答えて言う鞍馬に、森羅もうなずいた。

「そうだな。俺もずっとこちらにいるわけじゃないからね」

 そんな2人のやりとりに、うんうんと頷くスサナルだった。


 そうこうするうち、階段のあたりが騒がしくなる。どうやら皆が降りてきたようだ。

「あ、神様!」

 こちらに気づいて駆けてきたのは玄武だった。他の者にはドンとぶつかって行く彼も、スサナルの手前ではお行儀良く立ち止まる。さすがの玄武も神様にはぶつかれないのか。

 だが、そうではなかったようだ。スサナルに手を伸ばしてそれが身体を通り抜けるのを確認すると、残念そうに言う。

「やっぱり今日も、実体じゃないんだね」

「そうだ、すまないな。すぐに帰るんでな」

 どうやらスサナルは今、3D映像のように影だけが現れているらしい。

「お久しぶりです」

「ようこそ」

 その後ろで2人のレディ、雀と龍古がきちんと膝を折って挨拶する。

「お久しゅうございます」

 またその隣では、珍しく真面目に、ミスターが跪いて挨拶をしている。

「なんぞあったのかの?」

 トラばあさんも、まずはきちんと礼をしてから聞くのだった。

 さすがに彼らは東西南北の護りと称するだけあって、スサナルの姿も見えるし、声も聞こえる。現代人なので神様への畏敬の念も十分に持っているため、今のように挨拶もきちんとする。

 ただ、なぜ見えたり聞こえたりするのかは彼ら自身にもわからない。けれど不思議なことに、それが少しもおかしな事には思えないのだった。

 トラばあさんの疑問に答えるように、スサナルの纏う気がまた少し引き締まった。

「(東西南北の護りたち。森羅万象をよく助け、よく導くべし)」

 その短い言葉と雰囲気に、彼らはハッとして真剣に頭を垂れた。

 しばらくして、ふい、と緊張が緩んだ。

「まあ、森羅はよしとして、だ。万象の方は、なんつーか、まだ自分の事をよくわかっていないようだからな。お前さんたち、くれぐれもよろしく頼むぜ」

 おかしそうに言って笑うスサナルに、

「うん! ぼくバンちゃん大好きだもん!」

 ピッと敬礼などして、玄武が明るく言う。

「お、頼もしいな」

「はい!」

「大丈夫ですよ、バンちゃんはああ見えて、以前、四神を2組も発動させたんですから」

 ミスターが言うと、そのあとトラばあさんも頷いて付け加える。

「そうじゃったの、あのときは森羅が悪さする奴らに隠されておったからの。どうなるかと思ったが、よく頑張ってくれた」

「そうですよね」

「ねー」

 あとを引き継いで、龍古と雀が可愛く顔をかしげている。

 そのときの事はスサナルたちもよく知っている。さすがに自分たちが出ていくほどではないと踏んで、彼らに任せておいたのだが。

「だったな」


「じゃあ俺は、なかなか降りてこない皆のアイドルを呼びに行こうかな。万象も、もうちょっと素直だと、もっと可愛いのにね」

 そう言って森羅が2階へ上がり。

 降りてきた万象が、そこにスサナルを見つけて(不思議なことに四神を発動させたあと、万象も当たり前にスサナルたちが見えるようになっている)森羅に説明を受けたまでは良いが。


「かっ、かみさまぁーーーー?!」


 また遠吠えをしたものだから、太陽までもが迷惑そうに雲に隠れてしまったのだった。



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