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プロローグ1




へると申します。

初投稿です。

話に没頭出来るような作品にしたいと思います。


よろしくお願い致します!





 








  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 ーー俺はもうジャンプしていた。



「へっ!?なに!?上!うえ!?」



「じゃまだぁぁぁうぁぁおおぁぉああえおあ!??」



「なに!?ぎゃぁぁぁぁあああ!!」




 俺の右頬が、タイルに叩きつけられた。

 ジーンという振動が骨格から伝って、全身に広がったのを感じる。

 刹那、気を失うほどの激痛が走った。



「おっ、ぃぱいッッて!」


「……胸、私の?」



 ーー違う。呂律が回らねえんだ。

 聞き間違えされた為、結果的に『おっぱい』と発言した事になり、それを訂正する術を、俺は現在持ち合わせていない。




「私の、胸に何か用ですか!?」


「うっ……んっ///(ううん、ないよ)」


「変態ですね」



 ほんのりしていた下水の臭いが、強烈な激臭に切り替わったのは、この頃だろう。

 冷たいタイルに水っけを感じたのは、その後だった。



「らすげでぐで……(助けてくれ)」



 俺は、懸命に目を見開いた。

 目で訴えれば、伝わるはずだ。何せ俺は今、死にかけているのだから!



 少女の足元に目をやると、スカートがある。

 という事は、もしかして今、トイレなうだったか?



「……おっ、水色か」




 ここだけハッキリ喋れた。




「最低!最悪!あほー!」




 もうどうにでもなれ。悔いはない。

 



「わー!!きゃー!!助けてー!!」




 半分冗談、半分心配が入り混じった少女の声が遠のいて聞こえたのを最後に、俺ーー市ヶ谷天瀬の意識はどこかへ舞散った。



 助けに来たのは俺の方なのに、なんでこうなったんだろうな。






 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆






 女子トイレから悲鳴が聞こえたら、皆さんはどうするだろうか。

 あなたが女性であれば、男性という設定で答えてほしい。



 知らないふりをする。警察を呼ぶ。助けにいく。



 選択肢は、その時置かれた状況や人によって様々だ。


 では、女子トイレから悲鳴が聞こえた時の、あなたの状況を伝えよう。



 季節は四月。高校入学初日。

 午前で学校が終わった後、あなたは教室で昼寝をしていた。目覚めたのは十八時。

 全校生徒は既に帰宅していて、教室には誰もいない。

 あなたは帰宅する前に、用を足すため男子トイレへ向かう。鞄を右手に教室の扉を開けて廊下に出た。

 夕暮れ時の校舎を一人歩いて、トイレ付近に到着すると、女性の悲鳴が聞こえた。

 明らかに女子トイレから聞こえる声である。


 辺りを見渡せば、生徒はおろか教師の姿も見当たらない。自分以外の人間が居ない状況。


 唯一、あなた一人が、女子トイレからの悲鳴を聞いている。


 入学早々、あなたは、この状況で女子トイレから聞こえた悲鳴に対し、どの選択肢を選ぶだろう。



 一つ目の選択肢。



 ーー聞いていないふりをして帰宅する。



 この選択肢は、実に簡素であり現実性の高い選択肢だ。

 例えば、助けるために女子トイレへ入った瞬間、教師と鉢合わせでもしたら、容疑にかけられるかも知れない。

 あなたは助けに行ったつもりでも、第三者があなたを目撃すれば、襲っている共犯者として疑われる可能性がある。



 こうして悩んでいると、一つのパーソナル・コンストラクト(以下、自己評価)を持っていることに気付く。


 自己評価とは、つまり人を何で評価するか。という人格心理学の分野で注目されている評価基準のことだ。



 例えば自分が、他人や自分を含めた人間を見るときに、面白いかどうか。を重視する人であれば、その人は自分も他人のことも、


 ユーモアがあるーー退屈。


 で、人間を評価するようになる。

 この、自己評価を人間は、平均して7つ持っているとされている。

 この選択肢が多ければ多いほど幸福度が増す傾向にある。少なければ、一つの選択肢に没頭出来る。


 ユーモアがあるかどうか。という一つのみを自己評価とする人は、普段から面白い物や面白い人、話し方を研究する。


 双方にメリット、デメリットがある。

 そして、あなたの自己評価は今すぐ調べることが出来る。ノートやメモ帳に書き出してみると、自分の本質が見えてくるだろう。


 では、主人公ーー市ヶ谷天瀬の大まかな自己評価はこちらになる。



 親切ーー親切ではない

 楽しいーー楽しくない

 イケメンーーブス

 頭がいいーー悪い

 読書量が多いーー本を読まない

 病的ーー健全

 変わってるーー普通




 この様に、あなたにとっては、どうでもいい自己評価でも、他人にとっては重要な自己評価、つまり他人や自分を評価する材料になっていることが多い。


 市ヶ谷天瀬の場合、読書をよくする人に魅力を感じ、そうでない人(自分含め)には拒否反応を示す。

 他の自己評価にも同じことが言える。



 簡単なものだと、遊園地で絶叫マシンに乗ることを楽しいと思うか否か。甘いものが好きか嫌いか。



 誰かにとってのユートピアは、あなたにとってのディストピアになることだってある。



 話を戻そう。この時あなたは、最悪の場合、入学早々女子トイレに入り、女の子を襲った変態クズ最低クソゴミ最悪ナメクジ野郎マジキモ男として学校中に、悪い噂を流されるリスクがある。


 そのため、普通の高校生活を過ごせるのかどうか。

 普通の高校生活ーー居心地の悪い高校生活

 という自己評価がある。

 つまり、普通の高校生活を送ることに幸福感を覚え、居心地の悪い高校生活にストレスを感じるということだ。



 では、この"悲鳴事件”をどう解決すれば良いのだろう。

 根本的に、悲鳴はイタズラである可能性もあるが、イタズラという明確な理由が存在しない。この目で観測しなければ、それは単なる思い込みだ。



 それでもあなたは、悲鳴はイタズラか何かの聞き間違え、そもそも聞こえなかった事にし、見て見ぬ振りをしたとしよう。でも、あなたは必ず家に帰る。

 校舎から校門へ、校門から最寄駅へ向かっている最中に、あなたのことを目撃する目撃者が絶対に現れる。

 近所のおばさん、同級生、教師、警察等々、必ず一人には遭遇するだろう。


 ならば、もしこの悲鳴が殺人事件などの事件性があるものだとする。あなたが事件発生時、事件現場である学校から出てくるところを何者かに目撃されてしまえば、あなたは正真正銘の容疑者だ。



 地域によって異なるが、特に都会の日本社会には、厄介ごとには首を突っ込まず、見て見ぬ振りをするという風習がある。

 老人が駅のホームで倒れていても、それを素通りする人が多い。

 勿論、助ける善良な人も居るが、それは稀である。


 しかし、それは周囲に大勢の人が居る事、倒れている老人が全くの赤の他人という前提があるから成り立つ話だ。




 そう。今回の場合は、あなた一人だけが悲鳴を聞いた。その悲鳴を上げたのは、同じ学校の女子生徒、または女子教師。

 少なくともいずれ、深い関係性になる可能性のある人物だ。



 二つ目の選択肢。


 ーーなら、警察を呼ぶ。



 これはいい判断だ。

 しかし、悪い判断でもある。

 あなたは、なんと言って通報するのだろう。

 あなたは、女子トイレから悲鳴が聞こえている事、周りに人がいない事を把握している。



『うちの高校の女子トイレから女の人の悲鳴が聞こえました!助けてください!』



 把握出来ていても、この程度しか言えないであろう。

 学校のトイレから悲鳴。これは学園生活でよくある話だ。



『ーー先生に言ったらどうですか?』



 警察は相手にしてくれないが、たしかに教師を呼ぶ選択肢がある。

 ただ、入学初日。あなたは、職員室がどこにあるか、校内のマップを把握出来ていない。

 職員室を探すのも手だが、ウロウロ歩くと先ほど言った"目撃者”を変に増やすことにる。



 では、悲鳴を聞いて直ぐに職員室を探したとする。

 探している時間が五分、十分かかってしまったら、廊下の窓越しや、どこか別の場所から、あなたが廊下を走る姿を目撃した人間が出てくる可能性がある。


 つまり、殺人事件だった場合、刺された時刻とほぼ同時刻に校舎内を走り回っている、あなたは怪しい他、何者でもない。


 殺人事件なのかイタズラで悲鳴を上げただけなのか、悲鳴を上げた本人を確認しなければ分からない。



 ーー下手に職員室を探すくらいなら、こっそり立ち去った方がいい気もする。



 これを聞いているあなたは、同じ意見かも知れないし、別の意見を持っているかもしれない。


 ここで、前述した"その時置かれた状況や人によって選択肢は変わる”の人ーー性格の部分が出る。



 三つ目の選択肢。



 ーー助けにいく




 あなたは、どの選択肢を下すかは分からない。これは、人によって千差万別だ。

 例えば、誠実でセルフモニタリングが低い人の場合、普段と異なる非日常を拒む傾向がある。


 誠実な人は、突然の変化に対抗できない傾向にあるからだ。



 主人公ーー市ヶ谷天瀬は、誠実性が低いがため、やる気がなく遅刻や寝坊、忘れ物を沢山し、軽率で自発的な上、衝動に駆られる無秩序な性格ではあるが、セルフモニタリングが低い。



 セルフモニタリング(通称:SMテスト)とは、簡潔に説明すると、他者からの目線を気にするか、自分の意思に尊重して行動するか。という価値観のことだ。



 これも、人によっては、行動力のあるタイプなのに協調性がないために、第三者が絡むと行動に移せないタイプや、その逆もある。



 市ヶ谷天瀬は、よくいるタイプ。

 恐らく、読者のうちの三割くらいは当てはまるであろう。


 普通の高校生活がしたい。非日常が嫌だ。という自己評価から面倒事には巻き込まれたくない。

 しかし、衝動的で軽率な行動も起こせる。

 日常なら、だらしないと言われ兼ねないが、この状況において、この性格は、これとない長所へと変化した。


 が、他人の目を気にしてしまうセルフモニタリングの低さから、行動に移せない。



 彼ーー市ヶ谷天瀬は、その葛藤を経て、助ける決断を約4秒半で行った。

 市ヶ谷天瀬の場合、考えるより先に足が動いてしまった。

 考えながら行動した。と言うべきだろう。



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 春とはいえ、少し肌寒い今日この頃。

 教室で一人、こんな時間ーー十八時まで昼寝をしていたのが大凶とでたのか、面倒事に巻き込まれそうな状況だ。


 俺ーー市ヶ谷天瀬は、人生初の女子トイレを経験する。

 如何わしい理由ではない。漏らしそうでもない!悲鳴の主の安否確認のためだ!


 とはいえ、少し抵抗はある。

 もしも、悲鳴を上げた女性が、男に襲われていたら、俺は確実にボコボコにされる。



「おーい!大丈夫かー?」



 外から呼びかけてみた。

 反応はない。



 俺は、左側の女子トイレに恐る恐る入った。

 冷たい風が頬を掠め、鼻の感覚が麻痺してしまう。どうやら窓が開いているようだ。

 三階ということもあり、直で風を感じてしまう。



 顔が冷め痛い。



 学校のトイレ特有の下水臭は、おかげさまで掻き消されていて、ほぼ無臭だ。



 女子トイレの手洗い場の横に、ボロボロの紙で用具入れと書かれた、よく見る掃除用具入れがあったので、俺は、勢いよく開けた。


 ギシギシしているが、キュイーンという音とともにあっさり開いた。


 中には、バケツが三つ、モップに、トイレの水が詰まった時に使う、黒い……やつ。

 他にも手袋や長靴、ほうきがあった。


 用具入れは少々生臭い。




 俺はここで二つ後悔した。

 一つ目は、もし女性が男に襲われているとして、何故俺は、声高々しく『おーい!大丈夫かー?』と安否を確認したのか。

 もう一つは、武器を選んでいる間に奇襲される危険性があるため、武具を整えるなら女子トイレの掃除用具ではなく、男子トイレの方から持ってきたら良かったことだ。

 というのも、バケツを取るには、バケツに入っている用具を一度取り出す必要があった。



 俺は、やっぱりばかだな。



 俺は、ほうきとバケツを両手に女子トイレ内に入った。

 当たり前だが、個室しかない。個室が一つ、二つ、三つ……四つ。

 四つ目の扉のロックが赤になっている。


 つまり、中に誰かがいる……かは分からないが、居るはずだ。



「ーーして、うまくいかなかったのかな」



 女の人の声。四つ目の個室からのようだが、よく聞こえない。



 あ!口を塞がれて叫べないのか!



「もう、手遅れだよね。やっぱり私」



 どうしよう。俺は、考えるより先に三つ目の個室に来ていた。便器の上にバケツを置き、バケツを踏み台にジャンプして、四つ目の個室にダイブする作戦を実行しようとしている。



 俺は、あほか。思考が追いついてない。



 隣の個室から、顔が見えないように屈みながら、なるべく足音かき消して便器に登った。便器の上に、逆さにしたバケツをセット。


 これで万全……かと思ったが、身体が重い。飛ぶには、なんというか装備が重すぎる。



 だから、靴とブレザーを脱いだ。ズボンのベルトと、ポケットに入ってるスマホ、財布も取り出し、地面に寝かせた。



 よしっ!これでいける!



 バケツの上に両足をセッティング。完了。

 勢いよく飛び込めば、隣の個室にダイビングできるはずだ。



 バランスが上手く取れない。



 まあ、成功率30%くらいかな。

 よしっ!やってみせる!



 俺が、両足のひざを曲げ、飛ぼうとした瞬間、隣の……四つ目の個室からの声が鮮明に聞こえた。



「高校デビューしたかったのにー!!」




 ーーへ?高校デビュー?




 俺は、もうジャンプしていた。





「へっ!?なに!?上!うえ!?」



「じゃまだぁぁぁうぁぁおおぁぉああえおあ!??」



「なに!?ぎゃぁぁぁぁあああ!!」




 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆





 ーーこうして、俺ーー市ヶ谷天瀬は、女子トイレの鍵のついた個室で、顔も名前も知らない用を足している最中の女の子に若干……だいぶ引かれながら気絶した。




 メモ:パンツの色は、薄い水色だった。





パンツと呼ぶか。パンティーと呼ぶか。おぱんつか?おパンティー?

はたまた下着と呼ぶかは人によりけり。


ーー俺は迷わずパンツ一択。

by.市ヶ谷天瀬(市ヶ谷天瀬名言集01)




*あとがきでは、たまに登場人物の名言集を記していきます。良かったら、日常生活で使ってみてね!

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