2 人?と遭遇しました
「はぁ……はぁ……こんだけ走っても街の一つも見えないって」
最初は目の前に広がる草原を、意気揚々と走ってた。
けど、しばらく走っても街の一つも見えてこない。そのまま走り続けても、何も見えて来ないし、あるのは大きな石だけ。溜まっていくのは疲労感。
「こういうのって最初は街からスタートとかじゃないのかよ……ひたすら走り続ける転移者何て、俺が初めてじゃないか?」
今まで見てきたアニメやラノベ何かだと、転移者は大抵街からのスタートだし、そっから変なやからに絡まれてる美少女助けて、一緒に冒険するとかが王道なはず。
「俺の異世界生活には女神もいないし、美少女遭遇という王道すらないのか」
でも、チート能力と言われる能力ならある。
俺が設定して演じていたキャラ。カラミティリアとしての力と身に付けている物の能力と魔眼。
正直このチート能力さえあれば、無敵だと思ってる。
「このチート能力で世界を平和にしろって言われてもなぁ先ずはこの世界についての情報だよな」
その為に街を探しているのたが、一向に見えて来ない。
半ば諦めながら走っていると
「いやぁぁぁぁああ!!」
女の子の悲鳴が聞こえた。声がする場所は分からない。けど、確かに聞こえた女の子の悲鳴。
「こんな時の為の千里眼《左目》!」
全てを見通す千里眼の力を持つ深紅の瞳。
左目に意識を集中させ、辺りを見渡す。
「うぉ!本当に出来た!見える。見えるぞ!」
距離は少しあるが前方に、頭に悪魔の角を生やし体は青色の皮膚。その皮膚には大小様々な傷があり、肩には弓矢が刺さっており、深紅の瞳からは涙が溢れている。
そして、少女を追うようにして馬に乗った小太りの男は、下卑た笑みを浮かべながら弓矢を構えてる。
「あの少女は、魔族?いや、今はそれどころじゃないか!」
俺の予想が合っていれば、あの少女は魔族と言われる者だと思う。
その魔族を狩ろうとしてる冒険者って感じか?
どちらが正義か悪かは分からないけど、放ってはおけない。
全速力で現場へと向かう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ほらほらぁ!早く走らないとまた弓矢が刺さるよぉ」
「お願いです!何でも、何でもしますから!」
「何でもするなら、僕を楽しませるようにもっと走らなきゃ!」
「もう許してください!」
「何でもするって言ったじゃないかぁ~ほらほら~止まってると弓矢が当たっちゃうよぉブヒヒっ」
少女には、既に走る体力すら無くその足は走ることすら出来ない程に血で濡れている。
恐らく遠い所から馬で追われながらも、ずっと裸足で走って来たのだろう。
痛みと疲労で止まってしまった足を無理矢理動かすようにして、少女は止まることなく歩く。
しかし、小太りの男は容赦なく馬上から弓矢を放つ。
放たれた弓矢は風を切り、少女の右足へと刺さる。
「ッグ!!」
「あーあ。止まってるから足に刺さっちゃったねぇ」
「おね……がいです……もう止めてください」
「えぇ?聞こえないなぁ?ほら!また走らないと次は頭に刺さるかもよぉブヒヒっ」
「いやぁぁぁぁああ!!お願いですから命、命だけは!」
「ブヒっブヒヒ!あぁ最高に楽しいなぁぁ!」
右足に弓矢が刺さり足を止めてしまった少女に向かって、下卑た笑いを上げながら弓矢を構える小太りの男。
少女は、必死に懇願しながらも足を引き摺りながら歩く。
その姿が小太りの男を嘲笑っている。
「あぁ笑い疲れちゃった。もうお前いーらない」
「お願いです!命だけは許してください!」
「ばいばぁい!」
「いやぁぁぁぁああ!!」
少女の頭部目掛けて弓矢を構える小太りの男。
構えた弓から指が離れ、弓が少女の頭へと一直線に放たれた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「……」
「なっ!なんだ貴様!」
何とかギリギリで間に合った良かった。
小太りの男から放たれた弓矢は、少女に当たる前に掴む事が出来た。
何で掴めたかは、右目の魔眼の第一の能力『停止世界』を発動させたからだ。
『停止世界』これは右目の青き瞳の魔眼の三つあるある内の一つ。
この瞳で見える範囲の時を一定時間止める事が出来るチート能力。
「僕の邪魔をする気か!」
「……」
「僕を無視するのか!」
いや、無視をしてるんじゃない。
久しく人と普通に話した事が無いから、こんな時何て答えればいいのか分からない。いつも話し掛けられても中2病で演じてたキャラの口調で返してたし……
けど、このまま無視するのもな……えぇいままよ!!
「貴様のようなゲスに名乗る必要は無い」
「げ、げげげ、ゲスぅ!僕をゲスと言ったな!」
「あぁ確かにそう言ったぞ?ゲスが」
「き、きき貴様ぁ!僕が誰だか知っててゲスと言ったのか!僕は帝国貴族のファンの息子だぞ!」
「それがどうした?」
「後悔させてやる!」
いける!中2病時代に話していた口調なら普通に話せる!
目の前で再度弓矢を放ってくる男。放たれた弓矢は一直線に俺へと迫るが、『停止世界』で時を止め弓矢を掴み『停止世界』を解除。時は再び動き出す。
「なっ!何が起きてる……」
「こんなのが攻撃か?止まっているかと思ったぞ?」
「何をした!」
「そんな事どうでもよい。貴様こそ、この少女に何をした」
倒れている少女は、全身に様々な傷を負っており、肩と右足には弓矢が深々と刺さっている。
さっきまで走っていた足は、靴も履かずに走っていたせいで皮膚は裂けて、血と泥で汚れており、とても痛々しい。
「これが、人間のやることか?」
「あぁ?そいつは魔族で僕の奴隷だ!」
「だからこんな扱いをしていいと?」
「あぁ貴様も人間ならわかるだろ?魔族、亜人は人間の奴隷なんだからな!人間を楽しませる為の道具なんだよ!」
「楽しませる道具……だと?」
「あぁそうだ。そいつの母親なんて最高に楽しませてくれたぞ。娘を殺すと言えば「何でもしますから娘だけは!」って言って色々と奉仕してくれたし、拷問にも耐えて僕を楽しませてくれたよ」
「……」
「そんなにしてまで守りたかった二人娘の一人を、目の前で殺してやった時のあの表情!最高だったなぁ」
「……黙れ」
「あの怒りと悲しみの表情!僕に向かって来たから、もう一人も殺すぞって脅したら、また僕を楽しませる道具になってるよ!」
「……黙れと言っている」
「だから、そこの女を殺して母親の前に突きだしてやるのさ!次はどんな表情で僕を楽しませてくれるのかなぁ」
「……その下卑た口を閉じよ!」
「アハハハハッ!その顔最高だよ!もっと歪ませてやるよ!」
男は懲りずに弓矢を放つ。
正直同じ攻撃しかしないので、同じパターンで弓矢を掴む。
「何で当たらないんだ!」
「貴様は先程魔族と亜人は人間を楽しませる為の道具と言ったな?」
「それがなんだよ」
「貴様ら人間は、神である俺を楽しませる為の道具だ」
「は?」
「さぁ楽しませてくれよ?踊りを止めたら剣がその体を突き刺すからな」
「へっ?ちょ、嘘……だろ」
この男には怒りしかない。この世界でどれだけ人間が偉いのかは知らない。
それでも、こんな無防備な少女をここまで痛めつける何て許される事じゃない。
こいつに生きている価値は無い。
だから、同じことをやってやる。
男の周りには男を囲むように一本、二本、三本と徐々にその本数が増えていく剣。その数は、百本まで到達した。
「踊り狂うがよい!『クレイモア』!」
手を男に向かって振り下ろす。
その瞬間に男を囲んでいた剣が一本ずつ男へと降り注ぐ。
「っ!まっ!待て!僕を誰だとっアガッ!」
「右手か。ほら止まれば刺さるぞ?」
「ゆる、許して!」
「貴様は同じことを言った母親を許したか?」
「ちがっ!それ!ヒグゥゥ!」
「足を血で濡らしながらも懇願した少女を許したか?」
「ゆるびで!ゆひがぁぁぁ!」
「嬉々として楽しませよと言ったな。ならば、俺も同じ言葉を返そう。俺を楽しませろ」
「し、しじにたぐない!何でも、何でもひゅるから!」
「ならば、踊れ。俺が飽きるまで」
右手、左腕、肩、背中、左足、胸、右足、首、頭。
男は既に絶命しているが、剣の雨は止まない。
息絶えた男の死に様を見せぬよう、剣が墓標のように男へと突き刺さり男の姿を隠した。
「俺は……初めて人を殺した……そのはずなのに」
何の感情も無い。人を殺した事への罪悪感も忌避感も焦りを何も感じない。それが何故なのか俺には分からない。
「……」
倒れている少女は、恐らく気絶しているだけだろう。
「こんな傷だらけになって……」
見ている方が痛々しく感じる程の傷。
起きたら痛みが少女を襲うだろう。だからこそ、気絶している間に治してあげなくては
「我が契約に従い、汝その姿を顕現せよ。ルクスウェル!」
左手に着けている聖霊の指輪の起動詠唱を唱えると聖霊の指輪が眩い光を放ち、光が収まると目の前には
「お呼びですか、マスター」
聖属性を司る聖霊王。ルクスウェル。
闇を退ける聖属性を司る力を持ち、どんな重傷でさえも癒す魔法を使える聖霊王
俺が設定した通りの金髪幼女が跪いていた。