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3話「魔法の才能」

ナギサになんでもするとまで言われ、魔法を教えることになった。


「ちなみに何か魔法は使えるのか?」

「昔、この村を訪ねてきた行商人から魔法の教本をもらったんです。それで、その本を読みながらいろいろ試してみたんですけど、うまくいかなくて……」


 教科書があるのか。俺は魔法が使えるが、使えるようになってしまっただけだ。今後のことを考えると、基礎から学ぶのもありかもしれない。


「そうか、じゃあまずはその本を読みながら、進めてみようか。俺も読んでみたいし」

「でも初歩の魔法理論について書かれた本ですから、魔道士の方なら知ってることしか書いてないんじゃないでしょうか」

「いや実は……、俺も勉強したり誰かから教わって覚えてわけじゃないから、自分が習得している魔法以外のことは何も知らないんだ」

「え!? もしかして独力で魔法を編み出したんですか!? 確かに本で見たことのない魔法でした。オリジナルの魔法なんて上級魔道士の方が何年もかけてやっと生み出すものなのに、それを無意識にやってのけるなんて……!」


 竜と契約して得た力を独力と言っていいのだろうか……。

 とりあえず今は、余計な混乱を招かないために契約のことは伏せておくか。


「まあそんな所かな。だからその理論とかを理解しているわけじゃないから、力になれなかったらすまない」

「そんなことないですよ! むしろそんなすごい人に魔法を教えてもらえるなんてこんなに光栄なことはないです!」


 ナギサのテンションが上がってきているのを感じる。

 ここまで来るとうまく魔法を教えられずに落胆させるのが怖いな……。


「ともかく、本を読んでみようか」

「はい。じゃあ私の部屋に案内しますね」


 ナギサの部屋に移動する。よく考えてみると女の子部屋に入るなんて初めての経験じゃないだろうか。そう思うと心なしか緊張してきた。

 木の椅子と机、それにベッドがあるだけのシンプルの部屋。現代のように装飾品が充実しているわけではないし、当たり前といえば当たり前か。

 ナギサは机の上のボロボロになった1冊の本を手にとった。


「もう何度も読み返してるから、かなり汚れちゃってますね」


 少し気恥ずかしそうにえへへと笑う。

 そうだ、こんなになるまで読み込んだ証。それでも魔法が使えるようにはならなかった。これはなんとしても俺が力になってあげねば。


 ナギサから本を受け取り、目を通す。偶然か女神による必然か、幸いにしてこの世界でも日本語が使われている。さて、パラパラと何ページか読み進めてみる。現在の科学と大きく異なりいきなりつまずいた。


「世界は4つの元素でできている、か……」

「ええ、そうですよね。土・水・風・火の4つです。だから魔法もこの4系統。エイトさんが竜を倒すときに使ったのは風魔法ですよね?」


 ああ、きっとそうなんだろう。詠唱にも【風】って思いっきり入ってるし。

 しかし、火水風土の4つで本当に全て説明できるんだろうか。例えば氷の魔法は? 水属性か? じゃあ雷は? 疑問は尽きない。

 だが、ここでいつまでも止まるわけにはいかないし、とりあえず先に進もう。


 この世界の解釈に対する難解な説明を受けつつなんとか読み進めていくと、やっとそれぞれの属性の基本的な魔法の詠唱呪文とその効果が記されたページにたどり着いた。

 正直、魔法に関する理論が全くわからなかったが、とりあえず外に出て試してみることとした。


「【風よ、吹き給え】」

「『疾風(ブロウ・ウィンド)』」


 ……。狭い範囲に風を軽く吹かせる魔法みたいだが、何も起きない。まあ、本をちょっと読んだくらいじゃこんなもんか。というよりなんとなく呪文を体が受け付けない感じがする。


「エイトさんでもダメなんですね」

「残念ながらね。なんとなく呪文を詠唱してて違和感があるんだ」

「じゃあ詠唱を変えてみるのはどうでしょう? この本の呪文はあくまでより多くの人が使いやすい呪文みたいですよ。もしかしたらエイトさんにとってより良い呪文があるのかもしれません」


 なるほど、呪文は決まっているわけではないのか。ならば、風が吹くイメージ。頭にそれを強く思い描く。そして、浮かんでくる言葉をそのまま言葉に出す。


「【風よ、吹け】」

「『疾風(ブロウ・ウィンド)』」


 それはもはや暴風であった。


「何ですか、今の!? 明らかに本の記述以上の出力じゃないですか!」

「いや頭に浮かんで来たのをそのまま詠唱しただけなんだが」

「呪文を即興で変えて威力を増すなんて普通じゃないですよ!」


 やはり女神からもらった力のおかげなのだろうか。この調子で他の3属性もマスターした。

 しかし、ナギサの方はというと、うまくいかず苦戦している。教科書通りでも、俺の作った呪文の方でもダメだ。


「そろそろ今日は終わりにしようか」

「そうですね」

 ナギサが少し悲しそうな顔をする。


「明日もまたやればいいさ」

「はい! そういえばエイトさんって毎日じゃがいも食べてますけどそんなに好きなんですか? もしかして魔法の秘訣だったり!?」

「いや……、他に食べるものがないから仕方なく食べてるだけで、魔法とは一切関係ないよ」


 俺の家の裏庭にはじゃがいもがゴロゴロ成っている。それを毎日食って飢えをしのいでいるのだった。


「あの、もしご迷惑でなかったら私がお料理しにいきましょうか?」

「本当か! それは是非お願いするよ」



 ナギサが鼻歌を歌いながら、鍋の中身をかき混ぜている。火は普通火打ち石で起こすそうだが、そんなものは俺の家にはないので、今日覚えた『灯火(バーン・ファイア)』の魔法で点けた。


 食卓に並ぶパンと野菜スープ。残念なことにナギサはこの後、用事があるということで家に帰ってしまった。しかし、久しぶりにまともな食事にありつけて感動する。

 さて、腹いっぱい食べて満足したし、そろそろ風呂にでも行こうか。


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