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10話「英雄の帰還」

 俺が大竜を一人で狩った。その話は一瞬で〈竜の剣(ドラゴン・セイバー)〉の知るところとなる。正確には俺じゃなく、俺が契約した竜――ブラストが倒したわけだが、そんなことは些細な話だ。


 大竜を倒し、村に戻った俺を総出で祝福してくれている。


「英雄のお帰りだ!」

「一人で竜を倒すなんてありえない!」

「この村の誇りだ!」


 そんな言葉が口々に発せられる。


 俺が帰ってくるよりも早く竜退治が伝わっていることに驚いたが、真っ二つにされた竜の亡骸を確認した〈竜の剣〉の監視役が馬車で急いで村まで引き返しありのままを伝えたとのことだ。

 そして、こんな芸当が出来るのはだれかという話になるが、当然俺しかいない。


「少しお時間よろしいですか? 竜について詳しくお聞きしたいので、あちらの小屋までお願いします」


 〈竜の剣〉の兵士の一人が俺に声をかけられ、小屋へと移動した。


「竜を一人で倒したという話は事実なのですか……?」

「ああ、まあな」


実際にはブラストがやったことだが、面倒を避けるために俺の手柄ということにさせてもらう。


「そんなバカな……! 大竜を一人でなんてありえるわけがない……!」

「じゃあ他に誰ができるんだ?」

「し、しかし……、通常あのような巨大な竜は防御力が高く並の攻撃ではびくともしません。100人規模の魔道士による絶え間ない波状攻撃により少しずつダメージを与えていくのが定石のはずです」

「定石は定石だろ? 絶対じゃない。俺は一人できた。それだけの話だ」

「いや、でも……」


 今まで何の功績もない人間が不可能を可能にしたんだ。実際に目にしてなければ信じられないのも無理もない話だろう。


「状況を考えればあなたしかいないのでしょうね……。それでは、竜の行ってきた攻撃および有効打となった攻撃魔法についてお話していただけますか」

「まず竜の攻撃だな、口を開いて2、3秒かな? そのくらいの間溜めて口から赤いビームを撃ってきた。発射されるのを見てからじゃ多分避けられなかった」

「ビームとは?」


 ああ、そうか。この世界にはビームなんて概念がないのか。


「光線だな」


俺は絵を書いて説明する。


「なるほど。おそらく火の魔法ですね。その攻撃の大きさはどのくらいでしょうか」

「うーんあまり覚えていないけど、俺の身長よりはでかかったな」

「なるほど、わかりました。では次は、竜に有効打を与えた魔法とその程度について教えていただければと思います」

「使った魔法は2種類。竜巻による攻撃と空気の刃を飛ばすやつ。竜巻は表面を削ったくらい。ただダメージ自体は受けていたから続けていればこっちでも倒せたとは思う。とどめをさしたのは風の刃の方だよ。真っ二つになった」

「具体的な魔法名をお教えいただけますか?」

「『暴食の竜巻タイラント・トルネード』と『不可視の刃(ヒドゥン・ブレード)


 それを聞いた兵士は、え? と目を丸くする。


「まさか汎用魔法ではなく、オリジナル魔法!? それも2つも!?」


 そう言えばナギサも同じようなことを言っていたのを思い出す。


「汎用魔法についてちゃんと知っているわけではないけど、多分オリジナル魔法なんじゃないかな」

「たった一人で大竜を倒してしまうお方だ。それくらいは当然なのでしょうね……。ちなみに魔法はどちらで習われたのですか? たしかこの村には魔法学校の出身者はいなかったと思いますが」

「独学だよ。だから汎用魔法とオリジナル魔法の違いがわからん」


 兵士は大声ではははと笑い声を上げる。


「全く本当に規格外の方だ。しかし、ここまでの実力がありながら今まで埋もれていたとは……。どうです〈竜の剣〉に入りませんか? あなたがいれば相当数の命が救われます」

「……。少し考えさせてくれ」


 そう言って俺は小屋を出る。確かに俺の力をこの世界の人々のために役立てるべきというのは道理だ。女神から力を与えられた俺にしか出来ないことがきっとあるはず。でも、ナギサを置いてはいけない。どうしたものか。


「エイトさん!」


 俺を見つけたナギサに声をかけられる。


「竜を倒したんですね。エイトさんなら大丈夫だってわかってはいたんですけど、それでもやっぱり心配で……。本当に無事で良かった……」

「ああ、村の方はなんともなかったのか?」

「中竜が1頭来ましたが、〈竜の剣〉の方が倒してくれました」


 やはり、大竜から逃げた竜がこの村まで来ていたか。俺と遭遇しなかったうちの何頭かがこの村に来るのは十分考えられた事態だ。中竜でも、俺にとっては雑魚だが、村人にとっては脅威。俺が〈竜の剣〉に所属し、大竜をさっさと倒せば、そういった二次被害を事前に防ぐこともできるはずだ。


「ところでエイトさんはこれからどうするんですか? 多分さっき〈竜の剣〉の方から勧誘されましたよね?」

「ああ、されたよ。でも迷ってる」

「どうしてですか? エイトさんの力が存分に活かせるのに」

「だってナギサにまだ中途半端にしか魔法を教えられてないじゃないか。それに一緒にいるって約束も……」

「そんなに私のことを考えてくれてたんですね。嬉しいです」


 ナギサが微笑んだ。

 その後、なにか思いついたようにハッと手をたたく。


「そうだ! 私達二人で魔法学校へ行きましょう。確か〈竜の剣〉に所属するには魔法学校の卒業が条件だったはずです。エイトさんのおかげで私も多少魔法が使えるようになりましたしきっと入学できるはずです。どうですかこの案!?」


 念願の魔法学校へ行ける可能性があるとなって、ナギサの目がキラキラと輝いている。


「うん。そうだな。そうしよう。さっきの兵士に話をつけてくるよ」


 俺を〈竜の剣〉に勧誘してきた兵士に魔法学校入学の話をする。

 俺の方は二つ返事で受け入れられたが、ナギサの魔法の実力に関しては懐疑的だ。

 そこで、ナギサの魔法を披露してもらうことになった。


「じゃあいきますね!」

「【風よ! 爆ぜろ!】」

「『風撃(エアロ・バースト)』!」


 ナギサが森の木に向かって魔法を放つ。

 ドン!

 空気の衝撃を受け、人くらいの太さの幹をもった木が倒れる。申し分ない威力だ。


「どうですか!? 私、魔法学校に入れますか!?」

「これなら問題はないでしょう。入学可否を決めるのには、試験がありますが難なく突破できますよ」


 喜びに満ちあふれているナギサを横目に、兵士が俺に話しかけてくる。


「もうひとり魔法学校に入れてほしいと言われた時はどうしたものかと思いましたよ。それがまさか、あなたの指導があったとは言え、彼女もオリジナル魔法を使えるなんて。それにしても、3つのオリジナル魔法とはつくづくあなたは……。我々は3日後の馬車で王都に戻りますので、それに同乗してください」

「ああ、よろしく頼むよ」

「いえいえ、こちらこそ。有望な人材が二人も見つかって安泰ですよ」



 そして、出発の日はすぐにやってきた。

 村長や村人に今までの感謝と別れの挨拶を済ます。村長からは娘をよろしく頼むと何度も頭を下げられた。


「それでは、こちらの馬車にお乗りください」


 こうして俺たちは魔法学校のある王都へと向かった。


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