第2話 釣り上げられる
金色のコインをオレは右手で拾い、人差し指と親指で挟んで、よく見てみた。
コインの上部が黒く汚れていると思ったんだが、そうではなく、コイン自体から黒いモヤのようなものが上方向に出ていた。
煙かとも思ったんだが、別に熱いわけではない。
何となくモヤが続く先の上を見上げた。
それと同時にコインを持つ右手も上に上がり、そのまま上へと引っ張られた。
「え?」
思わず声がでるが、体ごと上へと引っ張られる。
体は完全に宙に浮いているのがわかる。
このまま空へと浮かぶのか?なんてことも思う暇はなかった。
上に続くモヤの先には黒い穴が有るのが見える。
「ええ?」
戸惑いの声もむなしく、そのまま黒い穴へと体ごと吸われた。
黒い穴に吸われた後もまだ、コインは上へと引っ張られ続け、それを持つオレも引っ張り続けられる。
(釣られている?)
この上に引っ張られる状態に対してオレの脳裡にそんな考えが浮かぶ。
少し冷や汗が出てきていた。
穴の中に入ってから少しだけ、ほんの少しだけ考える余裕が出てきた。
周りは暗いが、真っ暗ではない。
オレを引っ張っているコインが金色に輝いているのと、何やら白く光る小さなものが周りに浮いている。
あのまま空へと宇宙へと引っ張られていたら、高さに恐怖を感じて何も考えられなかっただろうが、穴に入ってからはその恐怖はない。
ただ落ちる恐怖はないが、右手をコインから手をはなすことはできない。
もし手をはなしたら?
元の交差点にもどれるかもしれないが、この空間に取り残される可能性の方が高すぎる気がする。
そもそも体を動かせる気がしない。
釣られてから、穴に入ってからどれぐらい経ったかはわからないが、周りにある変化が起こった。
暗い空間に浮いている白く光るもの
それがオレに寄ってきている。
いやすでに張り付いている?
張り付いているというより、入ってきてないか?
相変わらず、右手を挙げて釣られている状態のオレの体中に白く光るものが寄ってきて、体に入ってきている!?
体だけではない。
顔にも頭にも入ってきている。
すでに目の前は真っ白になりつつあり、意識がぼーっと薄れつつあった。
そして、やっと釣り上げられた。