第1話 バイト終わり
「あぁ眠い」
時間は午前6時すぎ
うっすらと明るくなってきた空と朝の新鮮な空気
街は少しずつ動きだし始めようとしている。
が、それとは対称的に疲れた顔でオレは自転車をこぐ。
加納 覚 35才
職業 フリーター
世間的には詰んでる。
普通の人はすでに結婚して子供がいて、やれマイホームだ、やれ出世だなんだと忙しいらしい。
彼女どころか友達すらいないオレはそういう世間に疎く、夜間のコンビニバイトで時間を浪費している。
なんとかしないといけないのはわかっているのだが、実行しないまま月日だけが過ぎていっている。
一応、大学は卒業したものの公務員試験のためにフリーターとなった。
そして、公務員になれずそのままフリーターを続けている。
どこかで、中小の一般企業に勤めるべきだったのだろうが、きっかけがつかめずにいた。
焦る気持ちはもちろんあるのだが、一歩が踏み出せない。
両親は定年間近、優秀な兄は国家公務員で家庭持ち、妹も嫁いで親の近くに住んでいる。
顔はここ数年見ていない。
オレが公務員試験を諦めたあと、家族はオレを諦めた。
最後に会ったときに言われたのは「犯罪だけはしないでくれ」だった。
そもそもそんな勇気?はないのだが。
とりあえず今もとりあえずのバイトが終わって、とりあえず独り暮らしの小汚ないアパートに帰っているのだ。
小さな交差点の赤信号で止まる。
早朝のため車もいないので、無視をしてもいいのだが、信号が変わるのを待つ女子高生らしき女の子がいたため止まった。
こんな早朝に登校とは部活の朝練かな?
少し小柄で黒髪のショートカット
灰色のブレザーに紺色のスカート
ガン見はしないまでも、何となく足やスカートをチラチラと見る。
白色のソックスがまぶしい。
スカートは膝下か。
オレの時代の女子高生とはパンツが見えそうなくらいのミニスカートが多かったのだ。
最近はスカートが短く出来ないようでさみしい。
そんな下衆なことを考えていると、
チャリーン
と、自分のすぐ後ろから硬貨の落ちる音が聞こえた。
振り返って見ると、だれもいなかった。
しかし音の先には、なにやら黄金色の金属のようなものが落ちていた。
オレが何か落としたか?
それとも誰かが放り投げたか?
まさか空から降ってきた?
朝練の女子高生も振り返っているようだが、彼女のものではないらしく動く様子はない。
気になるので、自転車から降りて立たせたあと、その金貨のようなもののところまで行き、それを拾ってみる。
手に持つと500円硬貨よりは大きく、なにやら黒いものが上に付いている。
いや、付いているというより、黒いモヤのようなものが上に伸びているのだ。
そして黒いモヤを目で伝って上を見る。
その瞬間、上に引っ張られた。