旅の記録2
白と黒の二色で世界ができていたならば、誰しもがもっと生きやすいだろうに。
世界の国々が軍を集めて、魔の王の国へと攻め込んだ。
僕は彼等と共に魔軍と戦った。
人の連合軍は連戦連勝して、次々に魔の街を落として奪って焼き払っていった。
魔王が残存の兵を集めて決戦を挑んできたので、僕達は平原でこれを破った。
魔王は逃げ、魔の国の首府である城砦都市へと立て篭もった。
人類連合軍はこれを取り囲んだが、単純な力攻めでは被害が大きくなりそうだった。
なので、彼等が攻勢を仕掛け、注意をひいてる間に、僕が単身城内にもぐりこんで魔王を倒すこととなった。
ようやく暗殺者らしい仕事である。
すべてはこの為にやってきた。
仕上げだ。
しくじって十二人の前任者達のようにならないようにしないとなと僕は思った。
結論から言うと上手くいった。
魔王は強大だったが、呪毒の水が彼に常の力を発揮するを許さなかった。
全力を出させぬままに、鍛冶師の執念の篭った刃を一閃して首を飛ばし、四肢を切断し、炎で焼き、灰を呪毒の水が入った瓶に入れて封印した。
魔王を失った魔軍は降伏し、人類連合軍は魔都を攻略し、封じられていた精霊を開放した。
精霊は僕から魔王を封じた瓶を受け取ると、消し飛ばした。魔王は、死んだ。二度と甦ってはこなかった。
世界に光が戻った、と人は言った。
太陽はいつだって昇っていたが、そういうことでは、ないのだろう。
僕は国にもどった。
こっそりもどった。
こっそり王に使命を果たした事を報告し、こっそり旅に出ることを告げた。
勝利の宴にはでないことにした。
「青年、お前は欲がないな」
「心の平穏を買ったまでのこと」
「なるほど、贅沢だ。お前だからできる」
僕は再び故郷の国を後にした。
僕はあらかじめ密かに買っておいた、山奥の家へと向かった。
「おかえりなさい」
そこには精霊がいたので、僕は「ただいま」と答えた。
その後、世界はだいたい平和になった。
人間同士で争うと、封印から解き放たれた強大無比の精霊が飛んでゆくからだ。
あれは正義なのか?
精霊の支配する世界だ。精霊が制御する世界だ。精霊が神のようになっていた。
あれは正義なのか?
僕にはよく解らなかったが、だが、精霊は良いヤツなので、たぶん、一番、マシだろう。
人間同士で戦乱を巻き起こしたり、魔軍が人々を奴隷や家畜とするよりは遥かに良い。
世の中、完璧を望むと、上手くはゆかない。
ただ、世界の人々が皆、僕と同じようには考えないから、精霊はたまに悲しんで泣いていた。
「すべてを上手くゆかせる方法はないのかしら?」
無いと思うが、常に出来る限りの努力をする貴女が僕は好きだと言うと、精霊は笑ってくれた。
だから、それで良いと、僕は思った。
コンパクトにしてみたら、極めてコンパクトになりすぎた感もありますが、これにて完結です。
拙い作を最後までお読みくださった事に感謝を申し上げます。
有難うございました。