その6 「神の告白、あるいは説明回」
「それじゃあ、説明をしていこうかの。」
「はぁ。」
「まず、君は良く分からんが住宅街を抜けたところの国道に出た瞬間、何かに弾き飛ばされたて見たことのない土地に飛ばされたじゃろ?」
やはり知らないところまで吹きとばされたのか。と、納得しかけたが良く考えたらなぜそんな衝撃を受けて俺の体は無事なんだろうか。
「普通なら即死してもおかしくない事故だったんじゃが、たまたまそこに、とても小さかったんじゃが、世界の裂目があってのう、君の肢体はその裂け目にぶち当たったことでダメージをほとんど受け流してしまったんじゃ。だから君は今五体満足に生きていると言う訳。」
「・・・はい?」
俺の頭の中は疑問で一杯だ。説明を受けているはずなのに、質問がどんどん増えていく。
世界の裂目とは一体なんだろう。そんな厨二臭い単語を聞くのは久しぶりだ。
しかし、エビスは説明を続ける。
「じゃが、君の体から世界の裂目に流れたエネルギーは、その裂目自体を一時的に拡げてしまったのじゃ。そしてその裂目に落ちた君は、さっきも見たじゃろうが、あの世界まで飛んで行ってしまった訳じゃ。」
・・・?
つまり、事故の衝撃で開いた異次元の穴に落ちて異世界転生でもしたとか、そんな話だろうか?
やはり分からないが、
「あぁ、まあ君の考えていることで概ね合っておるよ。」
いつの間にか心を読んでいたエビスに正解をもらったので、納得するよりほかない。
だが、疑問が消えたわけではない。
「俺があの訳の分からない所に居た理由は分かりました。でも、そもそもの原因が分かりません。」
「と言うと、事故の原因のことじゃな?」
「はい。俺は何に轢かれてその裂目とやらにつっこんだんですか?」
「大変言いにくいんじゃが・・・。」
先程までの饒舌ぶりから打って変わって突然言い淀むエビスに、相当深い理由があるのだと感じた俺は唾を飲んで真相を聞く覚悟を決めた。
「わしは今朝から七福神の連中らと宴を催しておったのじゃ。ほら、新年度じゃったし・・・。
そこでわしは毘沙門天と呑み比べをすることになってのう、弁財天もお酌をしてくれるもんだからついつい飲み過ぎてしまったのじゃ・・・。」
神が人間の決めた暦に付き合うなんて妙な話だが、それはこの際いいだろう。
その飲み会で何か事件でもあったのかと、俺は黙ってエビスの話に集中する。
「それで、呑み比べで決着がつかなかったもんじゃから、なら宝船の運転技術で決着をつけようという話になってのぅ。まぁ、ここまで話せば大体わかるじゃろ・・・?」
分からない。
聞いたそのままに納得すると、俺は酔っ払ったこのおっさんが操縦する宝船に轢かれて異世界にきてしまったということになる。が、仮にも神と呼ばれるものが、いくら新春で浮かれていたとはいえ、そんな軽率な行動をとるはずが無いだろう。
「いやー、その、ね?日本には八百万っていうくらい沢山神様がおるじゃろ?中にはそれくらい幼稚な神様だっているんじゃよ、多分。」
「・・・つまり犯人は?」
「・・・わしです。」
非常に気まずい空気になってしまった。
これ程までに当たって嬉しくない予想も珍しいが、それよりなによりさっきまでエビスはなぜ威厳たっぷりに自分の過失の説明をしようとしていたのか。
「じゃあ、もう帰っていいですか?」
とりあえず、原因が分かった以上もうこんなおっさんに付き合う義理はない。
腹は立つが事故の件は水に流して早く帰らせてもらおう。