その6 「迫る真相」
今回からセリフが急に増えます。
申し訳ありません。
「・・・くん。」
誰かの声が聞こえる。
「・・・川戸くん。」
呼ばれているような気がした。が、俺は精神的にまいっているので、急ぎの用件ならもう一度呼ばれるだろうという考えのもとで狸寝入りを決め込もうとした。
「川戸くん!もう気が付いてるじゃろ!いい加減起きなさい!」
俺を呼ぶ声は次第に大きくなり、なんだか頭に直接響いてくる。
「えぇい!いい加減起きろ!」
「・・・何か用ですか。」
数回の問答、俺は応えていないので正確には問答ではないが、の後に根負けした俺は不貞腐れながら返事をした。
「いやはや、気が付いたなら良かった。今回はわしらのせいでこんなことになってすまんかったね!」
「・・・どちら様で?」
「あれ?わしのこと知らない?わしの名は恵比寿、漁業の神様じゃ。」
「エビス?エビスってあのビールとかの?」
「まぁ、その認識で結構。七福神でおなじみの、あの、恵比寿じゃ。」
「・・・はぁ。」
俺はこのおっさんが恵比寿神であると主張する事に関して、一切の疑いを持たなかった。
これも神の力のなせる業なのかも知れない。
「よし、じゃあ早速現状の説明から始めようかの!」
「・・・すみません。」
俺は意気揚々と状況説明を始めようとするエビスを遮った。
今朝から理解しがたい様々な出来事があったので、確かに説明は欲しかった。
しかし、俺はもっと急を要する頼みごとをエビスにしなくてはいけない。
「先に、助けてもらえませんか?」
そう、俺はさきほど倒れてきた壁に押しつぶされ、まっ暗い地面に顔を埋めたままなのだ。とりあえず起こしてほしかった。
エビスは俺の頼みをすぐに聞き入れ、ひとこと、お安い御用と言うと、俺に圧し掛かっていた元壁を消し去り、持っていた釣り竿で俺の体を起こしてくれた。
ようやくお目見えした恵比寿神は、身長こそ低いものの、よく七福神として描かれるいかにもえびす顔のおっさんだった。
そうして現在に至る。
* * * * *
「いやー、悪いね川戸くん!怪我とかしてないかい?してないね!じゃあ今後の事を話そうか!それとも何か質問はあるかね?」
「すみません、現状の説明からお願いします。」
「あぁ、その前に君は何を憶えているかね?足りない部分をわしが補おう。」
「えっと、久しぶりに外に出て、帰り際に国道に出た瞬間何かに轢かれたような気がして、木が付いたら見たことない国にいて、それで気絶したらここにいました。ここ、どこです?」
「・・・そうか、そこまで憶えているなら仕方ない。君には真実を話すしかないようじゃの・・・。」
エビスは格好をつけて神妙な顔をしているが、まさかこいつ俺の記憶が曖昧だったら方便で丸めこむつもりだったのだろうか。
俺のエビスに対する信頼度が一段階下がった。