その3 「降って湧いた感情が」
俺の意識が失われてからどのくらいの時間が経っただろう。
もしかしたら1秒もかかっていないのかも知れないし、あるいは悠久に近い無限秒の時間を暗闇で過ごしたのかも知れない。
どちらだったとしても俺にそれを認識することはできないし、考えれば考えるほどなんだか怖くなるので、俺は思考を投げ出した。
投げ出す思考があるということはすなわち意識が回復しているということであり、つまり俺は目を覚ましていた。
それだけならば不測の事故から生還した幸運を喜んだのだが、しかし目の前に広がる光景は俺の住んでいた現代日本とははるかにかけ離れていた。
例えば道行く人はスーツや学生服ではなく、俺がテレビやネット、あるいは歴史や地理の教科書でも見たことが無いような服装をしているし、少なくとも日本語や英語など、俺の知っている言語ではない言葉で話している。
足元にはアスファルトではなく整った石畳が広がっており、木組みと布を張っただけの簡単な屋台がひしめき、あちらこちらから食べ物のような匂いが漂っている。
さらに、現在地から少し離れて赤い屋根の家がぐるりと立ち並んでおり、その中心付近には一際目を引く巨大な木製の帆船のようなオブジェがあることから、どうやらここは広場か何かで、
今はマーケットが行われているのだと見てとれた。
「す、すみません。何撮ってるんですか?」
俺は撥ねられた拍子に映画か何かの撮影現場に紛れ込んでしまったに違いない。
あまりに現実離れした状況から、俺はそう考えて適当な人に話しかけてみた。
すると、どうやら荷物を運んでいたらしい男は、訝しげな顔をして迷惑そうに去って行った。
「・・・なんだ?せっかちな人だな。」
俺はその後も道行く人や屋台の店番など数人に話しかけてみたが、どの人もうっとうしそうにあしらわれるか、何語か分からない言葉で怒鳴られるかだった。
串焼きを食べながら歩いていたちいさいおじさんには、あまりにしつこく話しかけたせいで蹴飛ばされてしまった。コミュ症がたまに頑張るとこうなるという典型事例だった。
少し前までは自信が無事だったことに安心し、迷惑をかけても映画の製作期間が少し伸びるだけだと安閑していた俺だが、こうも状況が掴めないと不安になってくる。
もしかして撥ねられて気を失っている間に、犯人か誰かに知らない国に連れてこられたのだろうか・・・。
もしかしてどこかに売り飛ばされてアブナイくすりの運搬だとかをさせられるのだろうか・・・。
もしかして最悪、このまま臓器を抜かれたりするのだろうか・・・。
俺はどうやら生来マイナス思考や被害妄想の質があるらしく、一度始まると悪い方へ悪い方へ考えてしまう負の連鎖がはじまる。
関係無い話を挟むなら、それが俺をひきこもりニートたらしめていた原因でもあるのだが。
とにかく一度不安に駆られてしまった俺は、一気にパニックに陥った。
申し訳ありません。
私の今の技量では、ご覧のように文体や分量、投稿時間や投稿感覚が安定しません。
しばらく投稿を続けて慣れてくるとすこしは改善されるものと思われますので、それまでお付き合い頂ける方はどうぞ次話からもご贔屓お願いいたします。