二次元と仙人
「ところで、直くん。恋人っている? ──いないか」
「いっ、いないけど、答える前に決めつけるなっ!」
「いないならいいじゃない。というか、ほんとうに、年上甲斐のないひとだね。いっこ下の中が、精神的にしっくりくるってだけなんじゃないの?」
ぱくぱく、と神前が口を開閉させる。
江野がまた物言いたげににらんできた。
「なあなあ、マコ。中二で恋人ってふつういるもん? いないよな? な?」
「俺に訊かないでください」
「マコは、今は恋人よりもサッカーを選ぶよ。高校を卒業するくらいまではそうかな。でも、好きな相手くらいはいるはず。直くんとちがってね」
「えええっ。そうなの? どこに? 学校?」
「……何で、食いつくんですか。どうだっていいでしょう」
「そうか。好きな相手くらいいた方が、サッカーも頑張れるのかなー」
「直くんってマンガが好きなんだよね? なら、恋は二次元にしてればいいんじゃないの」
「優児、おまえってやつはー!」
「バカにしてるんじゃないよ。その方が、精神的に楽だってこと。返るかもしれない心を気にするのは、けっこうしんどいからね。直くんは器用じゃないから、サッカーに集中できなくなる」
「マコだって器用じゃないとおもうけど!?」
「マコは──」
赤間の視線に、江野はふいっと目をそらす。
赤間は、痛みよりもよろこびを感じた。
目をそらすということは、それまでは自分を見ていた、ということだ。
「心が返ることなんて考えてないんじゃないかな。お守りみたいなものだよ。自分の心にいれば、それでいいんだ」
「…………おまえ、仙人かなんかか?」
「訊く相手がちがうんじゃないですか」
「優児が何でも知ってまーすって顔してるのにはもう、おどろかない。でもさ、好きなら、好きになって欲しいな、とか。せめて手くらいにぎりたいなーっておもわない?」
「直くん! 今時、手をにぎりたいって…………戦前映画じゃあるまいし!」
「うるっ、うるさいなー。だって、マコが考えそうなことって、そこまで卑猥なことじゃなさそうっていうか──」
「セックスが卑猥だなんて、まさしく中学生の発想だね。どこでそんな洗脳を受けたの?」
「せ、洗脳……?」
「どんなことでもね、ぜったいやっちゃダメだって言われるほど、魅力的におもえるんだよ。だから、やれない現実に苦しむ。禁止されるまえに、自分から手放す方が楽なんだ。今はサッカーの方が大事、その選択ひとつでいいんだよ」
赤間は、江野の横顔を見つめた。